長短経 / 勢略
故兵有三勢〔夫兵有三勢、一曰氣勢、二曰地勢、三曰因勢。若將勇輕敵、士卒樂戰、三軍之衆、志勵青雲、氣等飄風、聲如雷霆、此所謂氣勢也。若關山狹路、大阜深澗、龍蛇蟠磴、羊腸狗門、一夫守險、千人不過、此所謂地勢也。若因敵怠慢勞役飢渇風波驚擾、將吏縱横、前營未舍、後營夾涉、所謂因勢者也。、〕善戰者、恒求之于勢。勢之來也、食其緩頰、下齊七十餘城、謝石渡淝、摧秦百萬之衆。勢之去也、項羽有拔山之力、空泣虞姬、田横有負海之强、終然刎頸。
新字:故兵有三勢〔夫兵有三勢、一曰気勢、二曰地勢、三曰因勢。若将勇軽敵、士卒楽戦、三軍之衆、志励青雲、気等飄風、声如雷霆、此所謂気勢也。若関山狭路、大阜深澗、竜蛇蟠磴、羊腸狗門、一夫守険、千人不過、此所謂地勢也。若因敵怠慢労役飢渇風波驚擾、将吏縦横、前営未舎、後営夾渉、所謂因勢者也。、〕善戦者、恒求之于勢。勢之来也、食其緩頰、下斉七十余城、謝石渡淝、摧秦百万之衆。勢之去也、項羽有抜山之力、空泣虞姫、田横有負海之強、終然刎頸。
書き下し
故に兵に三勢有り〔夫れ兵に三勢有り。一に曰く気勢、二に曰く地勢、三に曰く因勢。若し将勇にして敵を軽んじ、士卒戦いを楽しみ、三軍の衆、志は青雲を励まし、気は飄風に等しく、声は雷霆の如し。此れ所謂気勢なり。若し関山狭路、大阜深澗、龍蛇蟠磴、羊腸狗門、一夫険を守れば、千人も過ぎず。此れ所謂地勢なり。若し敵の怠慢・労役・飢渇・風波・驚擾に因り、将吏縦横し、前営未だ舎せず、後営夾みて渉る。所謂因勢なる者なり〕。善く戦う者は、恒に之を勢いに求む。勢いの来たるや、食其は頬を緩めて、斉の七十余城を下し、謝石は淝を渡りて、秦の百万の衆を摧く。勢いの去るや、項羽は山を抜くの力有りて、空しく虞姫に泣き、田横は海を負うの強有りて、終然として頸を刎ぬ。
現代語訳
だから兵には三つの勢いがある〔兵の三つの勢いとは、一つ目は気勢、二つ目は地勢、三つ目は因勢である。将が勇ましく敵を侮らず〔敵を軽んじ〕、兵が戦いを楽しみ、全軍の志は青雲を突き上げ、気はつむじ風のようで、声は雷のようである。これがいわゆる気勢である。関所や山の狭い道、大きな丘や深い谷、竜や蛇のように曲がりくねった石段、羊の腸のような道や犬くぐりのような門で、一人が険しい所を守れば千人でも通れない。これがいわゆる地勢である。敵の怠慢、労役の疲れ、飢えや渇き、風や波、驚き乱れに乗じ、敵の将や役人が勝手に動き、前の陣営はまだ宿営を終えず、後ろの陣営は川を渡っている最中である。これがいわゆる因勢である〕。戦上手はいつも勝ちを勢いに求める。勢いが来れば、酈食其は穏やかに語るだけで斉の七十余りの城を下し、謝石は淝水を渡って前秦の百万の軍を砕いた。勢いが去れば、項羽は山を引き抜くほどの力がありながら空しく虞美人に泣き、田横は海を背にした強さがありながら最後は自ら首をはねた。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『淮南子』兵略訓兵に三勢有り、二權有り。氣勢有り、地勢有り、因勢有り。將 充勇にして敵を輕んじ、卒 果敢にして戰を樂しみ、三軍の眾、百萬の師、志 青雲を厲まし、氣 飄風の如く、聲 雷霆の如く、誠 積み逾えて威 敵人に加わる。此れを之れ氣勢と謂う。硤路津關、大山名塞、龍蛇の蟠るがごとく、卻笠の居るがごとく、羊腸の道、發笱の門、一人 隘を守りて、千人も敢えて過ぎず。此れを地勢と謂う。其の勞倦怠亂、饑渴凍暍に因り、其の摿摿たるを推し、其の揭揭たるを擠す。此れを因勢と謂う。善く間諜を用い、錯規慮を審らかにし、蔚を設け伏を施し、其の形を隱匿し、不意に出でて、敵人の兵 適に備うる所無からしむ。此れを知權と謂う。陳卒 正しく、前行 選ばれ、進退 俱にし、什伍 搏ち、前後 相い撚らず、左右 相い干さず、刃を受くる者 少なくして、敵を傷つくる者 眾し。此れを事權と謂う。
-
『長短経』勢略故に曰く、戦勝の威は、人其の倍を百にす。敗兵の卒は、世を没するまで復せず〔永く挫折するなり。人の気傷つけば、百万の敵有りと雖も用に益無きを言うなり〕。故に水の弱きも、石を漂わすに至る。此れ勢略の要なり。
-
『淮南子』兵略訓今 兩人をして刃を接せしむるに、巧詘 異ならずして、勇士 必ず勝つ者は、何ぞや。其の行うこと之れ誠なればなり。夫れ巨斧を以て桐薪を擊つに、利時良日を待ちて而る後に之を破らず。巨斧を桐薪の上に加えて、人力の奉ずる無ければ、招搖に順い、刑德を挾むと雖も、而も破る能わざる者は、其の勢無きを以てなり。故に水 激すれば則ち悍く、矢 激すれば則ち遠し。夫れ栝淇衛箘簵、載するに銀錫を以てするも、薄縞の幨、腐荷の矰有りと雖も、然れども猶お獨り射る能わざるなり。之に筋角の力、弓弩の勢を假れば、則ち兕甲を貫きて革盾を徑るなり。夫れ風の疾きは、屋を飛ばし木を折るに至る。虛舉の下は大いに遲し。高丘より上るは、人の推す所有ればなり。是の故に善く兵を用うる者は、勢 積水を千仞の堤に決するが如く、員石を萬丈の溪に轉ずるが若し。天下 吾が兵の必ず用いらるるを見れば、則ち孰か敢えて我と戰わん者あらんや。故に百人の必死は、萬人の必北に賢る。況んや三軍の眾を以て、水火に赴きて踵を還さざるをや。天下に誂いて刃を合わすと雖も、誰か敢えて上に在らんや。
-
『淮南子』兵略訓兵の隱議する所の者は、天道なり。圖畫する所の者は、地形なり。明言する所の者は、人事なり。勝を決する所以の者は、鈐勢なり。故に上將の兵を用うるや、上は天道を得、下は地利を得、中は人心を得たり。乃ち之を行うに機を以てし、之を發するに勢を以てす。是を以て破軍敗兵無し。中將に至るに及びては、上は天道を知らず、下は地利を知らず、專ら人と勢とを用う。未だ必ずしも萬全なる能わずと雖も、勝鈐 必ず多し。下將の兵を用うるや、博聞にして自ら亂れ、多知にして自ら疑う。居れば則ち恐懼し、發すれば則ち猶豫す。是を以て動けば人の禽と爲るなり。
-
『長短経』勢略又た、太祖呂布を征して、下邳に至る。布敗れて、固く城を守る。攻むるも抜けず。太祖還らんと欲す。荀攸曰く「呂布は、勇にして謀無し。今、三軍皆北げ、其の鋭気衰う。三軍は将を以て主と為す。主衰うれば則ち軍に奮意無し。夫れ陳宮は智有りて遅し。今、布の気の未だ復せず、宮の謀の未だ定まらざるに及びて、進みて急に之を攻めば、布抜くべきなり」と。乃ち沂・泗を引きて城に灌ぐ。城潰え、布を生擒にす。此を以て之を観れば、是の時に当たりては、諸葛の智、陳宮の謀、呂布の勇、関・張の勁と雖も、用うる所無し。此れ「勇怯は勢いなり、強弱は形なり」と謂う。
-
『長短経』地形平原相遠く〔遠は、離なり〕、高きを仰ぎ下に臨むは、此れ弓弩の地にして、短兵は十も一に当たらず。両陣相近く、平地浅草にして、前むべく後るべきは、此れ長戟の地にして、剣楯は三も一に当たらず。萑葦竹簫〔簫は、蒿なり〕、草木蒙蘢として林葉茂接するは、此れ矛鋋の地にして、長戟は二も一に当たらず。曲道相伏し、険阨相薄るは、此れ剣楯の地にして、弓弩は三も一に当たらず。故に曰く「地形なる者は、兵の助けなり」と。又た曰く「兵を用うるの道は、地利を宝と為す」と。趙奢は山に趨りて、秦の師所以に覆敗し、韓信は水を背にして、漢の兵由りて其の克勝す。此れ地利を用うるの略なり。