長短経 / 七雄略
蜻蛉其小者也、黄雀因是以!俯啄白粒、仰棲茂樹、鼓翅奮翼、自以為無患、與人無爭。不知夫公子王孫、左挾彈、右攝丸、以其類為招畫棲乎茂樹、夕調乎酸醎黄雀其小者也、蔡靈侯因是以!南逰乎髙陂、北陵乎巫山、飲茹溪之流、食湘波之魚、左枕㓜妾、右擁嬖女、與之馳騁乎髙蔡之中、而不以國家為事。不知夫子發方受令乎靈王、繫已以朱絲而見之也。蔡靈侯事其小者也、君王因是以!左州侯、右夏侯、飯封禄之粟、而載方府之金、與之馳騁乎雲夢之中、而不以天下國家為事。不知夫穰侯方受命乎秦王、填澠塞之内、而投已於澠塞之外。」襄王聞之、身體戰慄、乃執珪而授荘辛、與之謀秦、復取淮北之地。
新字:蜻蛉其小者也、黄雀因是以!俯啄白粒、仰棲茂樹、鼓翅奮翼、自以為無患、与人無争。不知夫公子王孫、左挟弾、右摂丸、以其類為招画棲乎茂樹、夕調乎酸醎黄雀其小者也、蔡霊侯因是以!南遊乎高陂、北陵乎巫山、飲茹渓之流、食湘波之魚、左枕幼妾、右擁嬖女、与之馳騁乎高蔡之中、而不以国家為事。不知夫子発方受令乎霊王、繋已以朱糸而見之也。蔡霊侯事其小者也、君王因是以!左州侯、右夏侯、飯封禄之粟、而載方府之金、与之馳騁乎雲夢之中、而不以天下国家為事。不知夫穰侯方受命乎秦王、填澠塞之内、而投已於澠塞之外。」襄王聞之、身体戦慄、乃執珪而授荘辛、与之謀秦、復取淮北之地。
書き下し
蜻蛉は其の小なる者なり。黄雀も是に因りて以てす。俯して白粒を啄み、仰いで茂樹に棲み、翅を鼓し翼を奮い、自ら以為えらく患い無し、人と争う無しと。知らず、夫の公子王孫、左に弾を挟み、右に丸を摂り、其の類を以て招と為し、昼は茂樹に棲むも、夕べには酸醎に調えらるるを。黄雀は其の小なる者なり。蔡の霊侯も是に因りて以てす。南は高陂に遊び、北は巫山を陵ぎ、茹渓の流れを飲み、湘波の魚を食らい、左に幼妾を枕し、右に嬖女を擁し、之と高蔡の中に馳騁して、国家を以て事と為さず。知らず、夫の子発、方に令を霊王に受け、已を朱糸を以て繫ぎて之に見えしむるを。蔡の霊侯の事は其の小なる者なり。君王も是に因りて以てす。左に州侯、右に夏侯、封禄の粟を飯らい、方府の金を載せ、之と雲夢の中に馳騁して、天下国家を以て事と為さず。知らず、夫の穣侯、方に命を秦王に受け、澠塞の内を填め、己を澠塞の外に投ぜんとするを」と。襄王、之を聞き、身体戦慄す。乃ち珪を執りて荘辛に授け、之と秦を謀り、復た淮北の地を取る。
現代語訳
トンボはまだ小さい話です。雀もそうです。下を向いて白い粒をついばみ、上を向いて茂った木に棲み、羽を打ち翼を振るって、自分では憂いがない、誰とも争わないと思っている。ところが貴公子が左手に弾き弓を持ち右手に弾を握り、同類を囮にして、昼は茂った木に棲んでいても、夕方には酢と塩で味つけされることを知らない。雀もまだ小さい話です。蔡の霊侯もそうです。南は高い堤に遊び、北は巫山を越え、茹渓の流れを飲み、湘水の魚を食べ、左に若い妾を枕にし右に寵愛の女を抱き、高蔡の地を駆け回って、国家を事としない。ところが子発が霊王の命を受けて、自分を朱の糸で縛って引き立てようとしていることを知らない。蔡の霊侯もまだ小さい話です。君王もそうです。左に州侯、右に夏侯を置き、封禄の穀物を食べ、国庫の金を積み、雲夢の地を駆け回って、天下国家を事としない。ところが穣侯が秦王の命を受け、澠塞の内を固めて、あなたを澠塞の外へ放り出そうとしていることを知らない」。襄王はこれを聞いて身体が震えた。そして圭を執って荘辛に授け、ともに秦を謀り、淮北の地を取り戻した。
解説
この章句が説くこと
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『長短経』七雄略〈楚の襄王、既に秦と和し、秦の患い無きを慮り、乃ち四子と専ら淫侈を為す。荘辛諫むるも聴かず。辛、去りて趙に之く。後、秦、果たして鄢郢を挙ぐ。襄王、乃ち辛を徴して之に謝す。荘辛曰く「臣聞く、鄙諺に曰く『兎を見て犬を顧みるも、未だ晩しと為さず。羊を亡いて牢を補うも、未だ遅しと為さず』と。臣聞く、湯・武は百里を以て王たり、桀・紂は天下を以て亡ぶ、と。今、楚国は小なりと雖も、長を絶ち短を補えば、猶お千里を以てす。豈に特だ百里ならんや。王、独り夫の蜻蛉を見ずや。六足四翼、天地の間に飛翔し、俯して蚊虻を食らい、白露を承けて之を飲む。自ら以為えらく患い無し、人と争う無しと。知らず、夫の五尺の童子、方に将に飴を調え糸に膠し、已を四仞の上に加えて、下して螻蟻の食と為さんとするを。
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『新序』雜事第二鴻鵠は猶お其の小なる者なり。蔡侯の事故に是れなり。蔡侯南のかた高陵に遊び、北のかた巫山を徑り、麋・麕・麞・鹿を逐い、谿子を彉きて隨い、時鳥高蔡の囿に嬉遊し、溢滿涯無く、國家を以て事と爲さず。知らず、子發宣王に令を受け、厄するに淮水を以てし、填つるに巫山を以てし、庚子の朝、纓するに朱絲を以てし、臣として之を宣王に奏せしを。蔡侯の事も猶お其の小なる者なり。今君王の事、遂に左に州侯、右に夏侯、新安君と壽陵君とを從え、淫衍侈靡、康樂遊娛して雲夢の中に馳騁し、天下と國家とを以て事と爲さず。知らず、穰侯方に秦王と謀り、之を黽厄に寘きて之を黽塞の外に投ぜんとするを、と。襄王大いに懼れ、形體掉栗して曰く、謹んで令を受けん、と。乃ち莊辛を封じて成陵君と爲し、計を用う。與に淮北の地十二諸侯を舉ぐ。
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『長短経』七雄略楚人に弱弓微繳を以て帰雁の上に加うる者有り。楚の襄王、召して之に問う。乃ち対うるに秦・燕・趙・衛を以て鳥と為し、以て王を激怒せしめて曰く「夫れ先王、秦の欺く所と為りて、外に客死す。怨み焉より大なるは莫し。今、匹夫を以てして尚お万乗に報ずる有り。子胥・白公、是なり。今、楚の地は方五千里、帯甲百万を以てす。猶お以て中野に踊躍するに足る。而るに坐して伏を受く。臣、竊かに大王の為に取らず」と。襄王、遂に復た縦約を為して秦を伐つ。〉
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戦国策・莊辛謂楚襄王荘辛、楚の襄王に謂いて曰く、「君王、左に州侯、右に夏侯、輦に鄢陵君と壽陵君とを従え、専ら淫逸侈靡にして、国政を顧みず、郢都必ず危うからん。」襄王曰く、「先生老いて悖(もう)せるか。将に以て楚国の祅祥(ようしょう)と為さんとするか。」荘辛曰く、「臣誠に其の必然なる者を見るなり、敢えて以て国の祅祥と為すに非ざるなり。君王卒に四子を幸して衰えざれば、楚国必ず亡びん。臣請う趙に辟け、淹留して以て之を観ん。」荘辛去りて趙に之き、留まること五月、秦果たして鄢・郢・巫・上蔡・陳の地を挙げ、襄王流れて城陽に揜わる。是に於て人をして騶を発せしめ、荘辛を趙に徴す。荘辛曰く、「諾。」荘辛至るに、襄王曰く、「寡人先生の言を用うる能わず、今事此に至る、之を奈何せん。」荘辛対えて曰く、「臣聞く鄙語に曰く、『兔を見て犬を顧みるは、未だ晩しと為さず。羊を亡いて牢を補うは、未だ遅しと為さず』と。臣聞く昔、湯・武は百里を以て昌え、桀・紂は天下を以て亡ぶ、と。今、楚国小なりと雖も、長を絶ちて短を続げば、猶お数千里を以てす、豈に特に百里のみならんや。」「王独り夫の蜻蛉を見ずや。六足四翼、天地の間に飛翔し、俛して蚊虻を啄みて之を食い、仰ぎて甘露を承けて之を飲み、自ら以て患い無く、人と争う無しと為す。夫の五尺の童子、方に鈆膠糸を調え、己に四仞の上に加えんとして、下りて螻蟻の食と為るを知らざるなり。蜻蛉は其れ小なる者なり、黄雀是に因る。俯して白粒を噣み、仰ぎて茂樹に棲み、翅を鼓し翼を奮い、自ら以て患い無く、人と争う無しと為す。夫の公子王孫、左に弾を挟み右に丸を攝り、将に己に十仞の上に加えんとして、其の類を以て招と為すを知らざるなり。昼は茂樹に游び、夕べには酸鹹に調えられ、倏忽の間に、公子の手に墜つ。」「夫れ雀は其れ小なる者なり、黄鵠是に因る。江海に游び、大沼に淹り、府して䱧鯉を噣み、仰ぎて陵衡を嚙み、其の六翮を奮いて、清風を凌ぎ、飄搖として高く翔り、自ら以て患い無く、人と争う無しと為す。夫の射者の、方に其の𦲱盧を脩め、其の繒繳を治め、将に己に百仞の上に加えんとするを知らざるなり。彼の礛磻、微繳を引き、清風を折りて抎つ。故に昼は江河に游び、夕べには鼎鼐に調えらる。」「夫れ黄鵠は其れ小なる者なり、蔡の聖侯の事是に因る。南のかた高陂に游び、北のかた巫山に陵り、茹谿の流れを飲み、湘波の魚を食い、左に幼妾を抱き、右に嬖女を擁し、之と高蔡の中に馳騁して、国家を以て事と為さず。夫の子発の方に宣王に命を受け、己を朱糸を以て繫ぎて之に見ゆるを知らざるなり。」「蔡の聖侯の事は其れ小なる者なり、君王の事是に因る。左に州侯、右に夏侯を置き、鄢陵君と壽陵君とを輩従し、封禄の粟を飯い、方府の金を戴き、之と雲夢の中に馳騁して、天下国家を以て事と為さず。夫の穰侯の方に秦王に命を受け、黽塞の内を填め、己を黽塞の外に投ずるを知らざるなり。」襄王之を聞き、顔色変作し、身体戦慄す。是に於て乃ち執珪を以て之に授けて陽陵君と為し、淮北の地を与う。
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『新序』雜事第二莊辛楚の襄王に諫めて曰く、君王左に州侯、右に夏侯、新安君と壽陵君とを從えて軒を同じくし、淫衍侈靡にして國政を忘る。郢其れ危うし、と。王曰く、先生老いて惽めるか。妄りに楚國の爲に妖を爲すか、と。莊辛對えて曰く、臣敢えて楚の爲に妖を爲すに非ず。誠に之を見ればなり。君王卒に此の四子なる者に近づかば、則ち楚必ず亡びん。辛請う趙に留まりて以て之を觀ん、と。是に於いて十月を出でずして、王果たして巫山・江漢・鄢郢の地を亡う。是に於いて王乃ち使いをして莊辛を趙に召さしむ。辛至る。王曰く、嘻、先生來たれるか。寡人先生の言を用いざるを以て此に至れり。之を爲すこと柰何、と。莊辛曰く、君王辛の言を用いば則ち可なり。辛の言を用いずんば又た將に甚だしからんとす。此れ庶人に稱すること有りて曰く、羊を亡いて牢を固くするも未だ遲しと爲さず、兎を見て狗を呼ぶも未だ晩しと爲さず、と。湯武は百里を以て王たり、桀紂は天下を以て亡ぶ。今楚は小なりと雖も、長を絶ちて短を繼がば、千里を以て數う。豈に特だ百里ならんや。且つ君王獨り夫の青蛉を見ざるか。六足四翼、天地の間に蜚翔し、蚊虻を求めて之を食らい、甘露に時して之を飲む。自ら以爲えらく患い無く、民と爭う無しと。知らず、五尺の童子、絲を膠して竿し、之を四仞の上に加え、而して下りて蟲蛾の食と爲るを、と。
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『新序』雜事第二青蛉は猶お其の小なる者なり。夫れ爵は俛して白粒を啄み、仰いで茂樹に棲み、其の翼を鼓し、其の身を奮い、自ら以爲えらく患い無く、民と爭う無しと。知らず、公子王孫、左に彈を把り、右に丸を攝り、操持を定め、參連を審らかにするを。故に晝は茂樹に遊び、夕には酸鹹に和す。爵は猶お其の小なる者なり。鴻鵠は江漢に嬉遊し、大沼に息留し、俛して鰋鯉を啄み、仰いで陵衡に奮い、其の六翮を修めて清風に陵り、麃搖高翔し、一擧千里、自ら以爲えらく患い無く、民と爭う無しと。知らず、弋する者其の弓弩を選び、其の防翳を修め、繒繳を其の頸に加え、百仞の上に投じ、纖繳を引き、微波を揚げ、清風を折きて殞つるを。故に朝には江河に遊びて、暮には鼎俎に調せらる。