長短経 / 反経
《文子》曰、“聖人其作書也、以領理百事、愚者以不忘、智者以記事。及其衰也、為奸偽、以解有罪而殺不辜。”〔反書也。《文子》曰、“察于刀筆之跡者、即不知理亂之本、習于行陣之事者、即不知廟勝之權。”莊子曰、“儒以詩禮發冡大儒曰、『東方作矣!事之何若?』小儒曰、『未解裙襦、口中有珠。《詩》固有之曰、“青青之麥、生于陵陂生不布施、死何含珠?為接其鬢、壓其顪、儒以金椎控其頤、徐别其頰、無傷口中珠。』”由此言之、詩、禮乃盜資也。顪音許穢反、控音□〕
新字:《文子》曰、“聖人其作書也、以領理百事、愚者以不忘、智者以記事。及其衰也、為奸偽、以解有罪而殺不辜。”〔反書也。《文子》曰、“察于刀筆之跡者、即不知理乱之本、習于行陣之事者、即不知廟勝之権。”荘子曰、“儒以詩礼発冡大儒曰、『東方作矣!事之何若?』小儒曰、『未解裙襦、口中有珠。《詩》固有之曰、“青青之麦、生于陵陂生不布施、死何含珠?為接其鬢、圧其顪、儒以金椎控其頤、徐別其頰、無傷口中珠。』”由此言之、詩、礼乃盗資也。顪音許穢反、控音□〕
書き下し
文子曰く「聖人の書を作るや、以て百事を領理し、愚者は以て忘れず、智者は以て事を記す。其の衰うるに及びてや、奸偽を為し、以て有罪を解きて不辜を殺す」と。〔書に反するなり。文子曰く「刀筆の跡に察かなる者は、即ち理乱の本を知らず。行陣の事に習う者は、即ち廟勝の権を知らず」と。荘子曰く「儒は詩礼を以て冢を発く。大儒曰く『東方作れり。事は之れ何若』と。小儒曰く『未だ裙襦を解かず、口中に珠有り。詩に固より之れ有りて曰く、青青たる之の麦、陵陂に生ず。生きて布施せず、死して何ぞ珠を含まん、と。其の鬢を接し、其の顪を圧せよ。儒、金椎を以て其の頤を控え、徐ろに其の頬を別かちて、口中の珠を傷つくること無かれ』」と。此に由りて之を言えば、詩・礼は乃ち盗の資なり。顪の音は許穢の反、控の音は□。〕
現代語訳
文子はこう言った。「聖人が書物を作ったのは、あらゆる事を統べ整えるためであり、愚者はそれによって忘れず、智者はそれによって事を記録する。それが衰えるに及んで、偽りを作り、罪ある者を免れさせ罪なき者を殺すようになった」。〔書に反する場合である。文子はこう言った。「筆記の跡に詳しい者は、治乱の根本を知らない。隊列の実務に習熟した者は、朝廷で勝ちを決める権を知らない」。荘子にこうある。「儒者が詩と礼によって墓を暴く。大儒が『東の空が明けた。首尾はどうか』と言う。小儒が『まだ下着を脱がせていません。口の中に珠があります。詩経にもともとこうあります。青々としたこの麦は、丘の斜面に生える。生きて施さなかった者が、死んでどうして珠を含んでいるのか、と。鬢を押さえ、あごひげを押さえてください。儒者は金の槌であごを支え、ゆっくりと頬を割いて、口の中の珠を傷つけないように』」。ここから言えば、詩と礼は盗みの元手である。〕
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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荘子・外物儒は《詩》《礼》を以て冢(つか)を発(あば)く。大儒臚伝(ろでん)して曰く、「東方作(おこ)れり。事の何若(いかん)」と。小儒曰く、「未だ裙襦(くんじゅ)を解かず。口中に珠有り。《詩》に固より之れ有りて曰く、『青青たる之の麦、陵陂(りょうひ)に生ず。生きて布施せず、死して何ぞ珠を含まんや』と。其の鬢(びん)を接(と)り、其の顪(あご)を圧(お)す。儒は金椎(きんつい)を以て其の頤(おとがい)を控(う)ち、徐(おもむ)ろに其の頬を別(ひら)く。口中の珠を傷つくる無かれ」と。
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『長短経』是非易に曰く「物を備え用を致し、成器を立てて以て天下の利を為す者は、聖人より大なるは莫し」と。〔非に曰く〕荘子曰く「聖人死せずんば、大盗止まず。聖人を重んじて天下を治むと雖も、則ち是れ盗跖を重ねて利するなり。之が為に斗斛して以て之を量れば、則ち斗斛と并せて之を竊む。之が為に権衡して以て之を称れば、則ち権衡と并せて之を竊む。之が為に符璽して以て之を信ぜしむれば、則ち符璽と并せて之を竊む。之が為に仁義して以て之を教うれば、則ち仁義と并せて之を竊む。何を以て其の然るを知るか。彼の鈎を竊む者は誅せられ、国を竊む者は諸侯と為る。諸侯の門にして仁義存す。則ち是れ仁義聖智を竊むに非ずや。故に大盗を逐い諸侯を掲げ、仁義を竊み、斗斛・権衡・符璽の利を并す。軒冕の賞有りと雖も勧むる能わず、斧鉞の威も禁ずる能わず。此れ盗跖を重ねて利するなり。而して禁ず可からざらしむるは、是れ乃ち聖人の過ちなり。故に曰く『国の利器は以て人に示す可からず』と。彼の聖人なる者は、天下の利器なり。天下に明らかにする所以に非ざるなり」と。〔是に曰く〕
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荘子・胠篋故に曰く、「唇竭(つ)くれば則ち歯寒く、魯酒薄くして邯鄲(かんたん)囲まれ、聖人生じて大盗起こる」と。聖人を掊撃(ほうげき)し、盗賊を縦舎(しょうしゃ)せば、而して天下始めて治まらん。夫れ川竭くれば谷虚しく、丘夷(たい)らげば淵実(み)つ。聖人已に死せば、則ち大盗起こらず、天下平らかにして故(こと)無からん。聖人死せざれば、大盗止まず。聖人を重んじて天下を治むと雖も、則ち是れ盗跖を重利するなり。之が斗斛(とこく)を為りて以て之を量らば、則ち並びに斗斛と与に之を竊む。之が権衡(けんこう)を為りて以て之を称(はか)らば、則ち並びに権衡と与に之を竊む。之が符璽(ふじ)を為りて以て之を信ぜしめば、則ち並びに符璽と与に之を竊む。之が仁義を為りて以て之を矯(ただ)さば、則ち並びに仁義と与に之を竊む。何を以て其の然るを知るか。彼の鉤(かぎ)を竊む者は誅せられ、国を竊む者は諸侯と為る。諸侯の門にして、仁義焉(ここ)に存す。則ち是れ仁義聖知を竊むに非ざるか。故に大盗を逐(お)い、諸侯を掲げ、仁義並びに斗斛・権衡・符璽の利を竊む者は、軒冕(けんべん)の賞有りと雖も勧むる能わず、斧鉞(ふえつ)の威も禁ずる能わず。此れ盗跖を重利して禁ずべからざらしむる者は、是れ乃ち聖人の過ちなり。故に曰く、「魚は淵を脱すべからず、国の利器は以て人に示すべからず」と。彼の聖人なる者は、天下の利器なり。天下を明らかにする所以に非ざるなり。故に聖を絶ち知を棄つれば、大盗乃ち止む。玉を擿(す)て珠を毀(やぶ)れば、小盗起こらず。符を焚(や)き璽を破れば、而して民は朴鄙(ぼくひ)なり。斗を掊(くだ)き衡を折らば、而して民は争わず。天下の聖法を殫残(たんざん)せば、而して民は始めて与に論議すべし。六律を擢乱(てきらん)し、竽瑟(うしつ)を鑠絶(しゃくぜつ)し、瞽曠(ここう)の耳を塞がば、而して天下始めて人は其の聡を含まん。文章を滅し、五采を散じ、離朱の目を膠(にかわ)せば、而して天下始めて人は其の明を含まん。鉤縄を毀絶して規矩を棄て、工倕(こうすい)の指を攦(お)らば、而して天下始めて人は其の巧を有たん。故に曰く、「大巧は拙(せつ)なるが若し」と。曾・史の行を削り、楊・墨の口を鉗(かん)し、仁義を攘棄(じょうき)せば、而して天下の徳は始めて玄同(げんどう)せん。彼の人其の明を含めば、則ち天下は鑠(と)けず。人其の聡を含めば、則ち天下は累(わずら)わず。人其の知を含めば、則ち天下は惑わず。人其の徳を含めば、則ち天下は僻(かたよ)らず。彼の曾・史、楊・墨、師曠、工倕、離朱は、皆な外に其の徳を立てて、以て天下を爚乱(やくらん)する者なり。法の用うる所無きなり。
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『長短経』反経其の所謂聖なる者は、大盗の為に守らざる者有らんや。何を以て其の然るを知るか。昔者、斉国は隣邑相い望み、鶏狗の音相い聞こゆ。網罟の布く所、耒耨の刺す所、方二千余里。四境の内を闔ね、宗廟社稷を立て、邑屋州閭郷里を治むる所以の者は、曷ぞ嘗て聖人に法らざらんや。然り而して田成子は一朝にして斉君を殺して其の国を盗む。盗む所の者は、豈に独り其の国のみならんや。并せて聖智の法と之を盗む。故に田成は盗賊の名有りて、身は堯舜の安きに処り、小国は敢えて非とせず、大国は敢えて誅せず、十二代にして斉国を有つ。則ち是れ独り斉国を窃むのみならず、并せて其の聖智の法を以て、其の盗賊の身を守るか。〔聖法に反するなり。昔、叔向、斉の晏子に問いて曰く「斉は其れ如何」と。晏子曰く「此れ季世なり、吾れ知る勿し。斉は其れ陳氏と為らん。公は其の人を棄てて陳氏に帰す。斉の旧四量は、豆・区・釜・鍾なり。四升を豆と為し、各々自ら其れ四にして、以て釜に登る。釜十なれば則ち鍾なり。陳氏の三量は、皆な一を登す。鍾は乃ち大なり。家量を以て貸し、公を以て之を収む。山木は市の如く、山に加えず。魚塩蜃蛤は、海に加えず。人は其の力を三にして、二を公にして其の一を衣食す。公の聚は朽蠹して三老は凍餒す。国の諸市は、屨は賤にして踊は貴し。人多く疾病す。而して或いは之を燠休す。其の之を愛すること父母の如く、之に帰すること流水の如し。人を獲る無からんと欲するも、将た焉んぞ之を避けん」と。〕
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荘子・胠篋将に胠篋(きょきょう)・探嚢(たんのう)・発匱(はっき)の盗を為さんとして守備を為さば、則ち必ず緘縢(かんとう)を摂(おさ)め、扃鐍(けいけつ)を固くす。此れ世俗の所謂知なり。然り而して巨盗至れば、則ち匱(ひつ)を負い篋(はこ)を掲げ嚢(ふくろ)を担いて趨(はし)り、唯だ緘縢・扃鐍の固からざるを恐る。然らば則ち郷(さき)の所謂知なる者は、乃ち大盗の為に積む者ならざるか。故に嘗みに之を論ぜん。世俗の所謂知なる者は、大盗の為に積まざる者有らんか。所謂聖なる者は、大盗の為に守らざる者有らんか。何を以て其の然るを知るか。昔者(むかし)斉国は鄰邑(りんゆう)相望み、鶏狗の音相聞こえ、罔罟(もうこ)の布く所、耒耨(らいどう)の刺す所、方(ほう)二千余里なり。四竟(しきょう)の内を闔(と)じて、宗廟社稷を立て、邑・屋・州・閭・郷曲を治むる所以の者、曷(なん)ぞ嘗て聖人に法(のっと)らざらんや。然り而して田成子(でんせいし)一旦にして斉君を殺して其の国を盗む。盗む所の者は豈に独り其の国のみならんや。並びに其の聖知の法をも与(とも)に之を盗む。故に田成子は盗賊の名有れども、身は堯・舜の安きに処る。小国も敢えて非とせず、大国も敢えて誅せず。十二世斉国を有(たも)つ。則ち是れ乃ち斉国を竊(ぬす)み、並びに其の聖知の法をも与にして、以て其の盗賊の身を守るに非ざるか。嘗みに之を論ぜん。世俗の所謂至知なる者は、大盗の為に積まざる者有らんか。所謂至聖なる者は、大盗の為に守らざる者有らんか。何を以て其の然るを知るか。昔者龍逢(りょうほう)は斬られ、比干は剖(さ)かれ、萇弘(ちょうこう)は胣(さ)かれ、子胥(ししょ)は靡(ただ)る。故に四子の賢にして身は戮(りく)を免れず。故に盗跖の徒、跖に問いて曰く、「盗にも亦た道有るか」と。跖曰く、「何くに適くとして道無からんや。夫れ室中の蔵を妄(みだ)りに意(はか)るは、聖なり。入るに先んずるは、勇なり。出づるに後(おく)るるは、義なり。可否を知るは、知なり。分かつこと均しきは、仁なり。五者備わらずして能く大盗と成る者は、天下未だ之れ有らざるなり」と。是に由りて之を観れば、善人は聖人の道を得ざれば立たず、跖も聖人の道を得ざれば行われず。天下の善人は少なくして不善人は多ければ、則ち聖人の天下を利するや少なくして天下を害するや多し。
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『長短経』反経〔仁に反するなり。議に曰く、礼に在り、家施は国に及ばず、大夫は公利を収めず。孔子曰く「天子は天下を愛し、諸侯は境内を愛す。愛する所を過ぐるを得ざるは、私恵を悪めばなり」と。故に知る、偏私の仁は、王者の之を悪むなり。〕義なる者は、節行を立つる所以にして、亦た華偽を成す所以なり。〔義に反するなり。議に曰く、身を忘れ国に狥い、大節に臨みて奪う可からざる、此れ正義なり。趙の虞卿の若きは、相を棄て君を捐てて、以て魏斉の危うきを用く。信陵の無忌は、符を竊み命を矯めて、以て平原の急に赴く。公に背き党に死するの義成りて、職を守り上を奉ずるの節廃る。故に毛公、無忌を数めて曰く「趙に於ては則ち功有り、魏に於ては則ち未だ得たりと為さず」と。凡そ此の類は、皆な華偽なる者なり。〕