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茶の本 / 第一章 人情の碗・アジアは返礼いたします

西洋の諸君、われわれを種にどんなことでも言ってお楽しみなさい。アジアは返礼いたします。まだまだおもしろい種になることはいくらでもあろう、もしわれわれ諸君についてこれまで、想像したり書いたりしたことがすっかりおわかりになれば。すべて遠きものをば美しと見、不思議に対して知らず知らず感服し、新しい不分明なものに対しては、口には出さねど憤るということがそこに含まれている。諸君はこれまで、うらやましく思うこともできないほど立派な徳を負わされて、あまり美しくて、とがめることのできないような罪をきせられている。わが国の昔の文人は――その当時の物知りであった――まあこんなことを言っている。諸君には着物のどこか見えないところに、毛深いしっぽがあり、そしてしばしば赤ん坊の細切り料理を食べていると! 否、われわれは諸君に対してもっと悪いことを考えていた。すなわち諸君は、地球上で最も実行不可能な人種と思っていた。というわけは、諸君は決して実行しないことを口では説いているといわれていたから。

書き下し

西洋の諸君、われわれを種にどんなことでも言ってお楽しみなさい。アジアは返礼いたします。まだまだおもしろい種になることはいくらでもあろう、もしわれわれ、諸君についてこれまで想像したり書いたりしたことが、すっかりおわかりになれば。すべて遠きものをば美しと見、不思議に対して知らず知らず感服し、新しい不分明なものに対しては、口には出さねど憤るということが、そこに含まれている。諸君はこれまで、うらやましく思うこともできないほど立派な徳を負わされて、あまり美しくて、とがめることのできないような罪をきせられている。わが国の昔の文人は――その当時の物知りであった――まあこんなことを言っている。諸君には着物のどこか見えないところに毛深いしっぽがあり、そしてしばしば赤ん坊の細切り料理を食べていると。否、われわれは諸君に対してもっと悪いことを考えていた。すなわち諸君は、地球上で最も実行不可能な人種と思っていた。というわけは、諸君は決して実行しないことを口では説いているといわれていたから。

現代語訳

西洋の皆さん、私たちを種にどんなことでも言ってお楽しみください。アジアは返礼します。もし私たちが皆さんについてこれまで想像し書いてきたことをすっかりご存じになれば、まだまだ面白い種はいくらでもあるでしょう。遠いものを美しいと見、不思議なものに知らず知らず感服し、新しくて分からないものには口に出さずに憤る。そういうことがそこには含まれています。皆さんはこれまで、羨ましく思うこともできないほど立派な徳を負わされ、あまりに美しくて咎めようのない罪を着せられてきました。わが国の昔の文人、当時の物知りですが、こんなことを言っています。皆さんには着物のどこか見えないところに毛深い尻尾があり、しばしば赤ん坊の細切り料理を食べている、と。いや、私たちは皆さんについてもっと悪いことを考えていました。皆さんは地球上でもっとも実行不可能な人種だと思っていた。なぜなら、決して実行しないことを口では説いていると言われていたから。

解説

誤解は一方通行ではない、と天心は返します。日本人も西洋人に尻尾があると信じていた。そう認めたうえで、最後に本命の一撃を置きます。もっと悪いことを考えていた、それは、説くことを実行しない人々だと思っていたことだ、と。前段までの荒唐無稽な誤解を並べたあとに、この一つだけは荒唐無稽ではありません。笑い話の列の最後に、笑えない批評を紛れ込ませる技法です。

この章句が説くこと

誤解相互言行批評返礼

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