武士道 / 第十四章 婦人の教育と地位・武士道は両本位なり
男女の兩性は各々此世に享けたる天職を完うせんが爲に要する資格の甚だ多きを以て見れば、彼等相互の地位を量るの標凖は、必ずや複雑なる性質を帶びざるべからず。經濟學上の用語を假りて云ばヾ、即ち複本位ならざるべからず。武士道は其本位を有す、而して兩本位なり。女子の價値を計るに、一は戰塲に於てじ、一は爐邊に於てす。而して彼に於ては殆ど無なるも、此れに於ては全し。女子を遇するの途は、此二種の權度に應ずるに在りて、即ち社會上政治上の單位としては、多く稱するに足らずと雖も、妻とし、母としては至重の尊尙、至深の愛護を受けたり。試みに思へ、羅馬人の如き武斷なる國民の間に於けるも、其婦人は多大の尊敬を享けたることを。
新字:男女の両性は各々此世に享けたる天職を完うせんが為に要する資格の甚だ多きを以て見れば、彼等相互の地位を量るの標凖は、必ずや複雑なる性質を帯びざるべからず。経済学上の用語を仮りて云ばヾ、即ち複本位ならざるべからず。武士道は其本位を有す、而して両本位なり。女子の価値を計るに、一は戦塲に於てじ、一は炉辺に於てす。而して彼に於ては殆ど無なるも、此れに於ては全し。女子を遇するの途は、此二種の権度に応ずるに在りて、即ち社会上政治上の単位としては、多く称するに足らずと雖も、妻とし、母としては至重の尊尚、至深の愛護を受けたり。試みに思へ、羅馬人の如き武断なる国民の間に於けるも、其婦人は多大の尊敬を享けたることを。
書き下し
男女の両性は各々此世に享けたる天職を完うせんが為に、要する資格の甚だ多きを以て見れば、彼等相互の地位を量るの標準は、必ずや複雑なる性質を帯びざるべからず。経済学上の用語を借りて云はば、即ち複本位ならざるべからず。武士道は其本位を有す、而して両本位なり。女子の価値を計るに、一は戦場に於てし、一は炉辺に於てす。而して彼に於ては殆ど無なるも、此れに於ては全し。女子を遇するの途は、此二種の権度に応ずるに在りて、即ち社会上政治上の単位としては多く称するに足らずと雖も、妻とし、母としては至重の尊尚、至深の愛護を受けたり。試みに思へ、羅馬人の如き武断なる国民の間に於けるも、其婦人は多大の尊敬を享けたることを。
現代語訳
男女の両性はそれぞれこの世で受けた天職を全うするために必要な資格が非常に多いことから見れば、互いの地位を測る基準は必ず複雑な性質を帯びなければなりません。経済学の用語を借りて言えば、複本位でなければなりません。武士道はその本位を持ち、しかも二本位です。女性の価値を計るのに、一つは戦場において、一つは炉辺において行います。そして戦場においてはほとんど無であっても、炉辺においては全きものです。女性を遇する道はこの二つの物差しに応じることにあり、すなわち社会的政治的な単位としては多く称するに足りないとしても、妻として母としては最も重い尊敬と最も深い愛護を受けました。試みに考えてみてください。ローマ人のような武断的な国民の間でも、その婦人は多大な尊敬を受けたことを。
解説

人生を、一行の式にしてみた。
志×積×時×憤÷(1+執)+命。古典から導いた式『人生の方程式』と、二十四の悩みに古典が答える『人生の教科書』(PDF)、師導の全機能1か月がセットで700円です。
本の中身を見るこの章句が説くこと
関連する章句
-
『呻吟語』内篇・修身・軒冕は甚の物事ぞ韋弁布衣は、是れ我が生まれし初めの服なり。愧ぢずんば、此の生儘く以て大造に還す可し。軒冕は是れ甚の物事ぞ。個の丈夫を將て做し壞せり。甚の面目有りてか那の青天白日に對せん。是れ宇宙中の一の腐臭物なり。乃ち眉を揚げ氣を吐き、此を以て人に誇り、而して世人共に之を榮とし慕ふは、亦た大いに異なる事なり。
-
『呻吟語』内篇・修身・賢者は其の貴重を忘る尊大の位に居りて、賢者をして其の貴重を忘れしめ、卑き者をして親炙するを樂しましむれば、則ち其の人知る可きなり。
-
孟子・盡心章句上孟子曰く、「古の賢王は善を好みて勢いを忘る。古の賢士、何ぞ獨り然らざらん。其の道を樂しみて、人の勢いを忘る。故に王公も敬を致し禮を盡くさずんば、則ち亟々之を見るを得ず。見ることすら且つ猶ほ亟々するを得ず、而るを況んや得て之を臣とするをや。」
-
『呻吟語』外篇・品藻・其の世教を壞ること細ならず淺識狹聞に狃れ、偏見曲說を執り、陋規格套を守る。斯の人や若し鄉里の常人と為らば、輕重するに足らず。若し高位に居り令名有らば、其の世教を壞ること細ならず。
-
『後世への最大遺物』第二回・天才も位地もないときは昨晩は後世へわれわれが遺して逝くべきものについて、まず第一に金のことの話をいたし、その次に事業のお話をいたしました。ところで金を溜める天才もなし、またそれを使う天才もなし、かつまた事業の天才もなし、また事業をなすための社会の位地もないときには、われわれがこの世において何をいたしたらよろしかろうか。事業をなすにはわれわれに神から受けた特別の天才が要るばかりでなく、また社会上の位地が要る。われわれはあるときは、かの人は天才があるのに何故なんにもしないでいるかといって人を責めますけれども、それはたびたび起る酷な責め方だと思います。人は位地を得ますと、ずいぶんつまらない者でも大事業をいたすものであります。
-
『講孟余話』告子上 第十七章趙孟の貴くする所は、趙孟能く之を賤しくす。此の事仕途に進む者最も深く戒むべき所なり。大丈夫自立の処なかるべからず。人に倚りて貴く、人に倚りて賤しきは、大丈夫の深く恥づる所なり。若し吾が才管仲の如くんば、鮑叔が能く貴賤する所に非ず。吾が才韓信の如くんば、蕭何が能く貴賤する所に非ず。大抵国家天下の事、必ず吾を待ちて然る後局を了する様なれば、其の人能く自立すると云ふべし。果して然らば、趙孟が能く貴賤する所に非ず。韓文公の柳子厚墓誌銘に、「子厚儁傑廉悍、議論今古を証拠し、経史百子に出入し、踔厲風発、率常に其の座人を屈す。名声大いに振ひ、一時皆慕ひて之と交る。諸公要人、争ひて我が門下に出でしめんと欲し、口を交へて之を薦誉す」とあり。余謂へらく、子厚素より才なり。然れども此の時声名已に其の実に過ぎ、又鋭進の気過ぎて甚だし。是れ其の身を失ふ所以なり。若し子厚、此の時一歩を退き、門下に出でしめんと欲するの諸公怒ると云へども顧みず、退きて巌穴に処ること十余年、志を養ひ学を畜へ、然る後仕途に進まば、仮令顚跌して永州・柳州に貶竄せらるるとも、附会の恥を免るべし。誠に惜しむべきかな。