墨子 / 節用中
古者聖王為猛禽狡獸暴人害民,於是教民以兵行。日帯劍,為刺則入,擊則斷,旁擊而不折,此劍之利也。甲為衣則輕且利,動則兵且從,此甲之利也。車為服重致逺,乗之則安,引之則利,安以不傷人,利以速至,此車之利也。古者聖王為大川廣谷之不可濟,於是制為舟楫,足以將之則止。雖上者三公諸侯至,舟楫不易,津人不飾,此舟之利也。
新字:古者聖王為猛禽狡獣暴人害民,於是教民以兵行。日帯剣,為刺則入,擊則断,旁擊而不折,此剣之利也。甲為衣則軽且利,動則兵且従,此甲之利也。車為服重致遠,乗之則安,引之則利,安以不傷人,利以速至,此車之利也。古者聖王為大川広谷之不可済,於是制為舟楫,足以将之則止。雖上者三公諸侯至,舟楫不易,津人不飾,此舟之利也。
書き下し
古者、聖王、猛禽狡獸の人を暴し民を害するを為して、是に於て民に教うるに兵を以て行かしむ。日々に劍を帯び、刺せば則ち入り、擊てば則ち斷ち、旁より擊ちても折れず。此れ劍の利なり。甲は衣と為れば則ち輕くして且つ利く、動けば則ち兵、且つ從う。此れ甲の利なり。車は服重致逺を為し、之に乗れば則ち安く、之を引けば則ち利く、安くして以て人を傷らず、利くして以て速やかに至る。此れ車の利なり。古者、聖王、大川廣谷の濟る可からざるを為して、是に於て制して舟楫を為り、以て之を將るに足れば則ち止む。上なる者、三公諸侯の至ると雖も、舟楫は易えず、津人は飾らず。此れ舟の利なり。
現代語訳
むかし聖王は、猛禽や獰猛な獣が人を襲い民を害するので、民に武器を持って行くよう教えた。日ごろ剣を帯び、刺せば刺さり、打てば断ち、横から打たれても折れない。これが剣の利である。鎧は身につければ軽くて扱いやすく、動けば武器も体に従う。これが鎧の利である。車は重い荷を運んで遠くまで届け、乗れば安らかで、引けば軽く、安らかで人を傷つけず、軽やかで速く着く。これが車の利である。むかし聖王は、大きな川や広い谷が渡れないので、舟と櫂を作り、渡すに足りればそこで止めた。上に立つ者、三公や諸侯が来ても、舟を取り替えず、渡し守も着飾らせなかった。これが舟の利である。
解説
四つの道具それぞれについて「〜之利也」と定義を締めます。剣なら刺さり断ち折れないこと、鎧なら軽く動きを妨げないこと。用途を性能の言葉で言い切る手つきは、職人集団だった墨家らしいところです。最後の一行が効いていて、身分の高い客が来ても舟を取り替えず渡し守を着飾らせない。相手によって仕様を変えないという運用が、そのまま節用の実践になっています。
この章句が説くこと
性能定義用途一貫節用
関連する章句
-
『墨子』節用上聖人、一國に政を為さば、一國、倍す可きなり。之を大にして天下に政を為さば、天下、倍す可きなり。其の之を倍するは、外に地を取るに非ざるなり。其の國家に因りて、其の無用を去れば、以て之を倍するに足る。聖王の政を為すや、其の令を發し事を興し、民を便にし財を用うるや、用を加えずして為す者無し。是の故に財を用うるに費えず、民の徳、勞せずして、其の利を興すこと多し。
-
『墨子』辭過子墨子曰く、古の民、未だ宫を為るを知らざる時、陵阜に就きて以て居り、穴して處る。下、潤濕にして民を傷る。故に聖王、作りて宫室を為る。宫室を為るの法に曰く、髙さは以て潤濕を辟くるに足り、邊は以て風寒を圉ぐに足り、上は以て雪霜雨露を待つに足り、宫牆の髙さは、以て男女の禮を别つに足る。謹んで此に止まり、財を費やし力を勞して利を加えざる者は、為さざるなり。是の故に聖王の宫室を作り為るは、生に使するにして、以て觀樂を為さざるなり。衣服・帯履を作り為るは、身に便なるにして、以て辟怪を為さざるなり。故に身に節し、民に誨う。是を以て天下の民、得て治む可く、財用、得て足る可し。今の主に當たりては、其の宫室を為るや則ち此と異なれり。必ず厚く百姓に作斂し、暴かに民の衣食の財を奪いて、以て宫室・臺榭・曲直の望、青黄刻鏤の飾りを為る。宫室を為ること此くの若し。故に左右皆な之に法象す。是を以て其の財、以て凶饑を待ち孤寡を賑わすに足らず。故に國貧しくして民治め難きなり。君、實に天下の治を欲して其の亂を惡まば、當に宫室を為るは節せざる可からず。
-
『墨子』辭過古の民、未だ衣服を為るを知らざる時、皮を衣、茭を帶び、冬は則ち輕からずして温かならず、夏は則ち輕からずして凊しからず。聖王、以て人の情に中らずと為す。故に婦人に誨えて絲麻を治め役し、布絹を捆ちて、以て民の衣を為らしむ。衣服を為るの法は、冬夏には則ち練帛の飾り、以て温かにして且つ清きを為すに足り、謹んで此に止まる。故に聖人の衣服を為るは、身體に適い肌膚に和して足れりとし、耳目を榮えしめて愚民に觀せしむるに非ざるなり。是の時に當たりて、堅車良馬も貴ぶを知らざるなり、刻鏤文采も喜ぶを知らざるなり。何となれば則ち、其の道く所、然らしむればなり。故に民の衣食の財、家、以て旱水凶饑を待つに足る者は、何ぞや。其の自ら養う所以の情を得て、外に感ぜざればなり。是を以て其の民は儉にして治め易く、其の君は財を用うること節にして贍らし易きなり。府庫は實ち滿ち、以て不然を待つに足る。兵革は頓れず、士民は勞れず、以て不服を征するに足る。故に霸王の業、天下に行う可し。
-
『墨子』辭過古の民、未だ飲食を為るを知らざる時、素食して分れ處る。故に聖人、作りて男に耕稼樹藝を誨えて、以て民の食を為らしむ。其の食を為るや、以て氣を増し虚を充たし、體を彊くし腹に適うに足るのみ。故に其の財を用うること節にして、其の自ら養うこと儉なれば、民富み國治まる。今は則ち然らず。厚く百姓に作斂して、以て美食・芻豢・蒸炙・魚鼈を為り、大國は百器を累ね、小國は十器を累ね、前は方丈にして、目は徧く視る能わず、手は徧く操る能わず、口は徧く味わう能わず。夏は則ち冰を設け、冬は則ち饐を飾る。人君の飲食を為すこと此くの如し。故に左右之に象る。是を以て富貴なる者は奢侈にして、孤寡なる者は凍餒す。亂無からんと欲するも、得可からざるなり。君、實に天下の治を欲して其の亂を惡まば、當に飲食を為すは節せざる可からず。
-
論語・学而篇子曰く、「千乗の国を道びくには、事を敬んで信、用を節して人を愛し、民を使うに時を以てす。」
-
孔子家語・五帝德宰我曰わく、「請う帝嚳を問う。」孔子曰わく、「玄枵の孫、喬極の子にして、高辛と曰う。生まれながらにして神異、自ら其の名を言う。博く施し厚く利すれども、其の身に於てせず。聡にして以て遠きを知り、明にして以て微を察す。仁にして以て威あり、恵にして信あり。以て天地の義に順う。民の急とする所を知り、身を修めて天下服し、地の財を取りて用いを節す。万民を撫教して之を誨利し、日月の生朔を歴て之を迎送し、鬼神を明らかにして之を敬事す。其の色や和、其の徳や重、其の動や時、其の服や哀なり。春夏秋冬天下を育護し、日月の照らす所、風雨の至る所、化に従わざる莫し。」