墨子 / 節用上
其為衣裘何以為?冬以圉寒,夏以圉暑。凡為衣裘之道,冬加温夏加凊者,芋䱉;不加者,去之。其為宫室何以為?冬以圉風寒,夏以圉暑雨。凡為宮室,加固者,芋䱉;不加者,去之。
書き下し
其の衣裘を為るは何を以て為すか。冬は以て寒を圉ぎ、夏は以て暑を圉ぐ。凡そ衣裘を為るの道、冬は温かきを加え夏は凊しきを加うる者は芋䱉、加えざる者は之を去る。其の宫室を為るは何を以て為すか。冬は以て風寒を圉ぎ、夏は以て暑雨を圉ぐ。凡そ宮室を為るに、固きを加うる者は芋䱉、加えざる者は之を去る。
現代語訳
衣服や皮衣を作るのは何のためか。冬は寒さを防ぎ、夏は暑さを防ぐためである。およそ衣服を作るにあたっては、冬に暖かさを増し夏に涼しさを増すものは採り、増さないものは取り除く。家屋を作るのは何のためか。冬は風と寒さを防ぎ、夏は暑さと雨を防ぐためである。およそ家屋を作るにあたっては、堅固さを増すものは採り、増さないものは取り除く。
解説
節用中篇の判定手続きです。まず目的を問い(何のために作るのか)、次にその目的に寄与するかで採否を決める。二段階の単純な手続きですが、装飾か機能かという曖昧な議論を避けられます。なお原文の「芋䱉」は伝写のあいだに壊れた箇所で、文脈からは「加える(採る)」の意にあたります。底本の姿を残し、推測で直していません。
この章句が説くこと
目的寄与採否仕様判定手続き
関連する章句
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『墨子』節用中古者、聖王、制して衣服の法を為りて曰く、「冬は紺緅の衣を服て輕くして且つ暖かく、夏は絺綌の衣を服て輕くして且つ凊しければ、則ち諸を止む」と。費を加えて民の利に加えざる者は、聖王、為さず。
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『墨子』節用中古者、人の始めて生まれて未だ宫室有らざる時、陵丘に因り穴を掘りて焉に處る。聖王、之を慮り、以為えらく、穴を掘るは、冬は以て風寒を辟く可し。夏に逮びては、下は潤濕し、上は熏烝して、民の氣を傷らんことを恐る、と。是に於て作りて宫室を為りて利す。然らば則ち宫室を為るの法は將に奈何せんとするや。子墨子言いて曰く、其の旁は以て風寒を圉ぐ可く、上は以て雪霜雨露を圉ぐ可く、其の中は蠲潔にして以て祭祀す可く、宫牆は以て男女の别を為すに足れば、則ち諸を止む。費を加えて民の利を加えざる者は、聖王、為さず。
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『墨子』辭過子墨子曰く、古の民、未だ宫を為るを知らざる時、陵阜に就きて以て居り、穴して處る。下、潤濕にして民を傷る。故に聖王、作りて宫室を為る。宫室を為るの法に曰く、髙さは以て潤濕を辟くるに足り、邊は以て風寒を圉ぐに足り、上は以て雪霜雨露を待つに足り、宫牆の髙さは、以て男女の禮を别つに足る。謹んで此に止まり、財を費やし力を勞して利を加えざる者は、為さざるなり。是の故に聖王の宫室を作り為るは、生に使するにして、以て觀樂を為さざるなり。衣服・帯履を作り為るは、身に便なるにして、以て辟怪を為さざるなり。故に身に節し、民に誨う。是を以て天下の民、得て治む可く、財用、得て足る可し。今の主に當たりては、其の宫室を為るや則ち此と異なれり。必ず厚く百姓に作斂し、暴かに民の衣食の財を奪いて、以て宫室・臺榭・曲直の望、青黄刻鏤の飾りを為る。宫室を為ること此くの若し。故に左右皆な之に法象す。是を以て其の財、以て凶饑を待ち孤寡を賑わすに足らず。故に國貧しくして民治め難きなり。君、實に天下の治を欲して其の亂を惡まば、當に宫室を為るは節せざる可からず。
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『墨子』辭過今の王に當たりては、其の衣服を為るや則ち此と異なれり。冬は則ち輕くして煗かく、夏は則ち輕くして凊しきこと、皆な已に具われり。必ず厚く百姓に作斂し、暴かに民の衣食の財を奪いて、以て錦繡文采靡曼の衣を為る。金を鑄て以て鈎を為り、珠玉以て珮を為り、女工は文采を作り、男工は刻鏤を作りて、以て身服と為す。此れ煗かきを益すの情に云うに非ざるなり。財を單くし力を勞して、畢く之を無用に歸す。此を以て之を觀れば、其の衣服を為るは、身體の為に非ず、皆な觀好の為なり。是を以て其の民は淫僻にして治め難く、其の君は奢侈にして諫め難きなり。夫れ奢侈の君を以て淫僻を好む民を御して、亂無きを用いんと欲するも、得可からざるなり。君、實に天下の治を欲して其の亂を惡まば、當に衣服を為るは節せざる可からず。
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『墨子』節用上其の甲盾五兵を為るは何を以て為すか。以て冦亂盜賊を圉ぐ。若し冦亂盜賊有らば、甲盾五兵有る者は勝ち、有ること無ければ勝たざる。是の故に聖人、作りて甲盾五兵を為る。凡そ甲盾五兵を為るは、皆な輕くして以て利く、堅くして折れ難き者は芋䱉、加えざる者は之を去る。其の舟車を為るは何を以て為すか。車は以て陵陸を行き、舟は以て川谷を行き、以て四方の利に通ず。凡そ舟車を為るの道、輕きを加えて以て利き者は芋䱉、加えざる者は之を去る。凡そ其の此の物を為すや、用を加えずして為す者無し。是の故に財を用うるに費えず、民の徳、勞せずして、其の利を興すこと多く、大人の珠玉・鳥獸・犬馬を好み聚むるを去りて、以て衣裳・宫室・甲盾五兵・舟車の數を益すこと有り。數倍に於てせんか。若くば則ち難からず。故に孰れをか倍し難しと為す。惟だ人のみ倍し難しと為す。
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『墨子』辭過古の民、未だ衣服を為るを知らざる時、皮を衣、茭を帶び、冬は則ち輕からずして温かならず、夏は則ち輕からずして凊しからず。聖王、以て人の情に中らずと為す。故に婦人に誨えて絲麻を治め役し、布絹を捆ちて、以て民の衣を為らしむ。衣服を為るの法は、冬夏には則ち練帛の飾り、以て温かにして且つ清きを為すに足り、謹んで此に止まる。故に聖人の衣服を為るは、身體に適い肌膚に和して足れりとし、耳目を榮えしめて愚民に觀せしむるに非ざるなり。是の時に當たりて、堅車良馬も貴ぶを知らざるなり、刻鏤文采も喜ぶを知らざるなり。何となれば則ち、其の道く所、然らしむればなり。故に民の衣食の財、家、以て旱水凶饑を待つに足る者は、何ぞや。其の自ら養う所以の情を得て、外に感ぜざればなり。是を以て其の民は儉にして治め易く、其の君は財を用うること節にして贍らし易きなり。府庫は實ち滿ち、以て不然を待つに足る。兵革は頓れず、士民は勞れず、以て不服を征するに足る。故に霸王の業、天下に行う可し。