墨子 / 兼愛中
是故子墨子言曰:乃若夫少食、惡衣、殺身而為名,此天下百姓之所皆難也。若茍君説之,則衆能為之。况兼相愛、交相利與此異矣。夫愛人者,人亦從而愛之;利人者,人亦從而利之;惡人者,人亦從而惡之;害人者,人亦從而害之。此何難之有焉?特上不以為政,而士不以為行故也。
新字:是故子墨子言曰:乃若夫少食、悪衣、殺身而為名,此天下百姓之所皆難也。若茍君説之,則衆能為之。況兼相愛、交相利与此異矣。夫愛人者,人亦従而愛之;利人者,人亦従而利之;悪人者,人亦従而悪之;害人者,人亦従而害之。此何難之有焉?特上不以為政,而士不以為行故也。
書き下し
是の故に子墨子言いて曰く、乃ち夫の食を少なくし、衣を惡しくし、身を殺して名を為すが若きは、此れ天下の百姓の皆な難しとする所なり。若し茍くも君、之を説べば、則ち衆、能く之を為す。况んや兼ねて相い愛し、交ごも相い利するは、此と異なれり。夫れ人を愛する者は、人も亦た從いて之を愛す。人を利する者は、人も亦た從いて之を利す。人を惡む者は、人も亦た從いて之を惡む。人を害する者は、人も亦た從いて之を害す。此れ何の難きことか之れ有らんや。特に上、以て政を為さずして、士、以て行を為さざる故なり。
現代語訳
だから墨子が言った。食を減らし、粗末な衣を着、身を捨てて名を上げるようなことは、天下の民がみな難しいとすることだ。それでも君主が喜べば、人々はやってのける。まして兼ねて互いに愛し交わって互いに利することは、それとは違う。人を愛する者は、人もまたそれに従って愛してくれる。人を利する者は、人もまたそれに従って利してくれる。人を憎む者は、人もまたそれに従って憎む。人を害する者は、人もまたそれに従って害する。これのどこが難しいのか。ただ上がそれで政治を行わず、士がそれを行いにしないだけである。
解説
前章の三つの実例を受けた結論です。愛する・利する・憎む・害するの四つが、すべて「人亦從而〜之」で返ってくると書かれます。返報が対称であるという観察が、兼愛を心情論から外す鍵になっています。自分が先に出したものが返ってくるのだから、何を出すかを選べばよい。「此何難之有焉」——難しいことは何もない、という言い切りが、この篇の主張の核です。
この章句が説くこと
返報対称兼愛先に出す難しくない
関連する章句
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『墨子』兼愛中子墨子曰く、然り、乃ち兼の若きは則ち善し。然りと雖も、天下の難物、故に於てなり。子墨子言いて曰く、天下の士君子、特に其の利を識らず、其の故を辯ぜざるなり。今、夫の城を攻め野に戰い、身を殺して名を為すが若きは、此れ天下の百姓の皆な難しとする所なり。茍くも君、之を説べば、則ち士衆、能く之を為す。况んや兼ねて相い愛し、交ごも相い利するに於てをや。則ち此と異なれり。夫れ人を愛する者は、人も必ず從いて之を愛す。人を利する者は、人も必ず從いて之を利す。人を惡む者は、人も必ず從いて之を惡む。人を害する者は、人も必ず從いて之を害す。此れ何の難きことか之れ有らん。特に上、以て政を為さず、士、以て行を為さざる故なり。
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『墨子』兼愛下是の故に食を約し、舟を焚き、苴服するは、此れ天下の至って為し難きなり。然る後に為して上、之を説ぶ。世を踰えずして民、移す可きなり。何の故ぞや。即ち以て其の上に鄉かんことを求むればなり。今、夫の兼ねて相い利するが若きは、此れ其の利有りて且つ為し易きこと、勝げて計う可からざるなり。我れ以為えらく、則ち上、之を説ぶ者有ること無きのみ。茍くも上、之を説ぶ者有りて、之を勸むるに賞譽を以てし、之を威すに刑罰を以てせば、我れ以為えらく、人の兼ねて相い愛し、交ごも相い利するに就くに於けるや、之を譬うるに猶お火の上に就き、水の下に就くがごとく、天下に防ぎ止む可からざるなり。
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『墨子』兼愛中既に以て之を非とす。何を以て之を易えん。子墨子言いて曰く、兼ねて相い愛し、交ごも相い利するの法を以て之を易う。然らば則ち兼ねて相い愛し、交ごも相い利するの法は將に奈何せんとするや。子墨子言う、人の國を視ること其の國を視るが若くし、人の家を視ること其の家を視るが若くし、人の身を視ること其の身を視るが若くす。是の故に諸侯、相い愛すれば則ち野戰せず。家主、相い愛すれば則ち相い簒わず。人と人と相い愛すれば則ち相い賊わず。貴は賤に傲らず、詐は愚を欺かず。凡そ天下の禍簒怨恨をして起こる毋からしむ可き者は、仁者、之を譽む。然り而して今、天下の士、君臣相い愛すれば則ち惠忠なり。父子相い愛すれば則ち慈孝なり。兄弟相い愛すれば則ち和調なり。天下の人、皆な相い愛すれば、强は弱を執えず、衆は寡を劫かさず、富は貧を侮らず。
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『墨子』兼愛中今、諸侯は獨り其の國を愛するを知りて、人の國を愛せず。是を以て其の國を舉げて以て人の國を攻むるを憚らず。今、家主は獨り其の家を愛するを知りて、人の家を愛せず。是を以て其の家を舉げて以て人の家を簒うを憚らず。今、人は獨り其の身を愛するを知りて、人の身を愛せず。是を以て其の身を舉げて以て人の身を賊うを憚らず。是の故に諸侯、相い愛せざれば、則ち必ず野戰す。家主、相い愛せざれば、則ち必ず相い簒う。人と人と相い愛せざれば、則ち必ず相い賊う。君臣、相い愛せざれば、則ち惠忠ならず。父子、相い愛せざれば、則ち慈孝ならず。兄弟、相い愛せざれば、則ち和調ならず。天下の人、皆な相い愛せざれば、强は必ず弱を執え、富は必ず貧を侮り、貴は必ず賤を傲り、詐は必ず愚を欺く。凡そ天下の禍簒怨恨、其の起こる所以の者は、相い愛せざるを以て生ずるなり。是を以て仁者は之を非とす。
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『墨子』兼愛下子墨子曰く、人を非とする者は、必ず以て之に易うる有り。若し人を非として以て之に易うる無くんば、之を譬うるに猶お火を以て水を救うがごときなり。其の説、將に必ず可なる無からん。是の故に子墨子曰く、兼を以て别に易う。然らば即ち兼の以て别に易う可きの故は何ぞや。曰く、藉し人の國を為むること其の國を為むるが若くんば、夫れ誰か獨り其の國を舉げて以て人の國を攻むる者あらんや。彼が為にするは巳が為にするに由るなり。人の都を為むること其の都を為むるが若くんば、夫れ誰か獨り其の都を舉げて以て人の都を伐つ者あらんや。彼が為にするは猶お巳が為にするがごとし。人の家を為むること其の家を為むるが若くんば、夫れ誰か獨り其の家を舉げて以て人の家を亂す者あらんや。彼が為にするは猶お巳が為にするがごとし。然らば即ち國都、相い攻伐せず、人家、相い亂賊せざるは、此れ天下の害か、天下の利か。即ち必ず天下の利なりと曰わん。姑く嘗みに若の衆利の自り生ずる所を本原せんに、此れ胡自り生ずるか。此れ人を惡み人を賊うより生ずるか。即ち必ず然らずと曰わん。必ず人を愛し人を利するより生ずと曰わん。天下に名を分かつに、人を愛して人を利する者は、别か、兼か。即ち必ず兼なりと曰わん。然らば即ち之の交ごも兼する者は、果たして天下の大利を生ずる者か。是の故に子墨子曰く、兼は是なり。
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『墨子』兼愛下兼君の言は然らず、行いも亦た然らず。曰く、「吾れ聞く、天下に明君為る者は、必ず萬民の身を先にし、後に其の身を為めて、然る後に以て天下に明君為る可し」と。是の故に退きて萬民を睹るに、饑うれば則ち之に食わしめ、寒ければ則ち之に衣せしめ、疾病あれば之を侍養し、死喪あれば之を葬埋す。兼君の言は此くの若く、行いも此くの若し。然らば即ち交ごも若の二君は、言、相い非として行い相い反するか。當に若の二君をして、言は必ず信、行いは必ず果ならしめ、言行の合すること、猶お符節を合するがごとくならしめば、言いて行わざる無きなり。