風憲忠告 / 詢訪苐三
今為政者,往往以先入之言為主,非彼狃徇一偏,盖由不通上下之情故也。故通其情,莫如悉心詢訪:小而一縣一州,大而一郡一國,吏孰貪邪,官孰廉正,何事病眾,何政利民,豪橫有無,風俗厚薄,既得其凡,他日詳加綜覈,復驗以事,其孰得而隱哉?苟廉矣,即優之、禮貌之、薦舉之,則善者勸矣;苟貪矣,雖極品之貴,即蔑之、威拒之、紏劾之,則為惡者懲矣。推而至於待士遇吏,亦莫不然。大抵一道之任,猶一家之務焉。善為家者,其子弟族属,下逮奴隸,其情性良否,皆所當知。一或不及,則將甘為所弄而不悟,久必致是非顛倒,以佞為忠,以貪為廉,以無能為有能,政令不行而紀綱替矣。前輩有云:「為宰相不難,一心正,兩眼眀,足矣。」烏呼,彼長風憲者,其責任之重,亦豈下夫宰相哉!若之何不以前輩之言為法?
新字:今為政者,往往以先入之言為主,非彼狃徇一偏,盖由不通上下之情故也。故通其情,莫如悉心詢訪:小而一県一州,大而一郡一国,吏孰貪邪,官孰廉正,何事病眾,何政利民,豪横有無,風俗厚薄,既得其凡,他日詳加綜覈,復験以事,其孰得而隠哉?苟廉矣,即優之、礼貌之、薦舉之,則善者勧矣;苟貪矣,雖極品之貴,即蔑之、威拒之、紏劾之,則為悪者懲矣。推而至於待士遇吏,亦莫不然。大抵一道之任,猶一家之務焉。善為家者,其子弟族属,下逮奴隸,其情性良否,皆所当知。一或不及,則将甘為所弄而不悟,久必致是非顛倒,以佞為忠,以貪為廉,以無能為有能,政令不行而紀綱替矣。前輩有云:「為宰相不難,一心正,両眼眀,足矣。」烏呼,彼長風憲者,其責任之重,亦豈下夫宰相哉!若之何不以前輩之言為法?
書き下し
今政を為す者、往往にして先入の言を以て主と為すは、彼一偏に狃(な)れ徇(したが)うに非ず、蓋し上下の情に通ぜざるに由るが故なり。故に其の情に通ずるは、悉心詢訪(じゅんぽう)するに如くは莫し。小にしては一県一州、大にしては一郡一国、吏孰(いず)れか貪邪、官孰れか廉正、何事か衆を病ましめ、何政か民を利するか、豪横の有無、風俗の厚薄、既にその凡(あらまし)を得て、他日詳らかに綜覈(そうかく)を加え、復た験(あか)すに事を以てせば、其れ孰か隠るるを得んや。苟しくも廉ならば、即ちこれを優しみ、これを礼貌し、これを薦挙せば、則ち善なる者勧む。苟しくも貪ならば、極品の貴と雖も、即ちこれを蔑(なみ)し、これを威拒し、これを紏劾せば、則ち悪を為す者懲む。推して士を待ち吏を遇するに至るも、亦然らざるは莫し。大抵一道の任は、猶お一家の務のごとし。善く家を為す者は、その子弟族属、下は奴隷に逮(およ)ぶまで、その情性の良否、皆当に知るべき所なり。一たび或いは及ばざれば、則ち将に甘んじて弄せらるる所と為りて悟らず、久しければ必ず是非顛倒し、佞を以て忠と為し、貪を以て廉と為し、無能を以て有能と為すに致り、政令行われずして紀綱替(すた)らん。前輩云う有り、「宰相為ること難からず、一心正しく、両眼眀らかならば足れり」と。烏呼、彼の風憲を長たる者、其の責任の重き、亦豈に夫の宰相に下らんや。之を若何ぞ前輩の言を以て法と為さざる。
現代語訳
今日、政治を行う者はしばしば先入観を主としてしまうが、それは一方に偏った考えに固執しているというよりも、実は上下の実情に通じていないためである。だから実情に通じるには、心を尽くして情報を求め歩くことに勝るものはない。小さくは一県一州、大きくは一郡一国について、どの役人が貪欲で邪であり、どの役人が清廉で正しいか、何が民衆を苦しめ、どの施策が民を利するか、横暴な豪族はいるかいないか、風俗は篤いか薄いか――そのあらましをつかんだ上で、後日詳しく調査を重ね、さらに実際の事案で検証すれば、誰がいったい隠れ通せるだろうか。もし清廉であれば、これを優遇し、礼を尽くし、推薦してやれば、善良な者は励まされる。もし貪欲であれば、たとえ最高の身分の者であっても、これを軽んじ、威をもって拒み、弾劾すれば、悪事を働く者は懲らしめられる。これを推し進めて士人や役人への接し方に至るまで、すべて同様である。おおよそ一つの管轄地域の任は、ちょうど一家を切り盛りするようなものである。家をうまく治める者は、子弟や親族から下は奴隷に至るまで、その気質の良し悪しをすべて把握しているものだ。ひとたびこれを怠れば、いつのまにか都合よく操られていることにも気づかず、長く続けば必ず善悪が転倒し、へつらう者を忠実な者とみなし、貪欲な者を清廉とみなし、無能な者を有能とみなすようになり、政令は行われず綱紀は廃れてしまう。先人はこう言った。「宰相であることは難しくない。ただ心が正しく、両目が明らかであれば十分だ」と。ああ、風憲官の長たる者の責任の重さも、あの宰相に劣らないではないか。ならばどうして先人のこの言葉を手本としないでいられようか。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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司馬法・天子之義賞は時を踰(こ)えず、民をして速やかに善を為すの利を得しめんと欲すればなり。罰は列を遷(うつ)さず、民をして速やかに不善を為すの害を覩(み)しめんと欲すればなり。
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呂氏春秋・當賞①民は道無くして天を知る。民は四時寒暑日月星辰の行を以て天を知る。四時寒暑日月星辰の行當たれば、則ち諸生の血氣有るの類、皆為に其の處を得て其の產に安んず。人臣も亦た道無くして主を知る。人臣は賞罰爵祿の加わる所を以て主を知る。主の賞罰爵祿の加わる所の者宜しければ、則ち親疏遠近賢不肖、皆其の力を盡くして、以て用を為す。
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『韓非子』二柄第七明主の其の民を導制する所の者は、二柄のみ。二柄とは、刑・徳なり。
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呂氏春秋・義賞①春氣至れば則ち草木産し、秋氣至れば則ち草木落つ。産と落とは之を使しむるもの或り。自ら然るに非ざるなり。故に之を使しむる者至れば、物為さざる無く、之を使しむる者至らざれば、物為す可き無し。古の人、其の使しむる所以を審らかにす、故に物、用を為さざる莫し。賞罰の柄、此れ上の使しむる所以なり。其の以て加うる所の者義なれば、則ち忠信親愛の道彰わる。久しく彰われて愈々長ずれば、民の之に安んずること性の若し。此を之れ教成ると謂う。教成れば則ち厚賞嚴威有りと雖も禁ずること能わず。故に善く教うる者は、義以て賞罰して教成り、教成りて賞罰禁ずること能わず。賞罰を用いて當らざるも亦た然り。姦偽賊亂貪戻の道興り、久しく興りて息まざれば、民の之を讎うること性の若し。戎夷胡貉巴越の民は、是を以て厚賞嚴罰有りと雖も、禁ずること能わず。郢人の兩版を以て垣するや、吳起之を變じて惡まる。賞罰易れば民安くんぞ樂しまん。氐羌の民、其れ虜となるや、其の係纍を憂えずして、其の死するに焚かれざるを憂うるは、皆、邪に成り、且つ成りて民を賊う。故に賞罰の加うる所は、慎まざる可からず。
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『韓非子』老第二十一邦の利器は以て人に示す可からず。
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呂氏春秋・用民④禹の時に當りて、天下に萬國あり。湯に至りて三千餘國あり。今存する者無きは、皆其の民を用うること能わざればなり。民の用いられざるは、賞罰充たらざればなり。湯・武は夏・商の民に因れり。之を用うる所以を得たればなり。管・商も亦た齊・秦の民に因れり。之を用うる所以を得たればなり。民の用いらるるや故有り。其の故を得れば、民用いられざる所無し。民を用うるには紀有り、綱有り。壹たび其の紀を引けば、萬目皆起こり、壹たび其の綱を引けば、萬目皆張る。民の紀綱為る者は何ぞや。欲なり、惡なり。何をか欲し、何をか惡む。榮利を欲し、辱害を惡む。辱害は罰の充を為す所以なり。榮利は賞の實を為す所以なり。賞罰皆充實有れば、則ち民用いられざる無し。