臣軌 / 卷下 慎密章
夫修身正行不可以不慎、謀慮機權不可以不密。憂患生於所忽、禍害興於細微。人臣不慎密者、多有終身之悔。故言易泄者、召禍之媒也、事不慎者、取敗之道也。
新字:夫修身正行不可以不慎、謀慮機権不可以不密。憂患生於所忽、禍害興於細微。人臣不慎密者、多有終身之悔。故言易泄者、召禍之媒也、事不慎者、取敗之道也。
書き下し
それ身を修め行いを正すは、慎まざるべからず。謀慮機権は、密ならざるべからず。憂患は忽せにする所に生じ、禍害は細微に興る。人臣の慎密ならざる者は、多く終身の悔い有り。故に言の泄れやすき者は、禍を召くの媒なり。事の慎まざる者は、敗を取るの道なり。
現代語訳
身を修め行いを正すには、慎まないわけにいかない。謀りごとや駆け引きは、密でないわけにいかない。憂いや患いは、おろそかにしたところから生じる。禍や害は、細かく微かなところから起こる。臣下で慎み深く密でない者は、多くは生涯の悔いを残す。だから言葉が漏れやすい者は、禍を招く媒である。事に慎重でない者は、敗れを取る道である。
解説
慎密章の冒頭である。「憂患は忽せにする所に生じ、禍害は細微に興る」——大事は大きなところからではなく、見過ごした小さなところから始まる。同じ章にはこう続く。明らかな者は形のないうちに見、聡い者は声のないうちに聴き、謀る者は兆しの前に謀り、慎む者は成る前に慎む。困らないのは早く慮るからであり、窮しないのは早く備えるからだ、と。すべて「前」に寄せる構えである。口については別の比喩が置かれる。口は関所、舌は引き金。出た言葉は四頭立ての馬車でも追えない。
この章句が説くこと
慎密章憂患は忽せにする所に生ず禍害は細微に興る言の泄れやすき者予防
関連する章句
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説苑・敬慎身を修め行いを正すには、以て慎まざるべからず。嗜欲は行いをして虧けしめ、讒諛は正心を乱し、衆口は意をして回らしめ、憂患は忽せにする所に生じ、禍は細微に起こり、汚辱は湔灑し難く、敗事は後に追うべからず。深く念い遠く慮らざれば、後悔当に幾何ぞ。夫れ徼幸は、性を伐つの斧なり。嗜欲は、禍を逐うの馬なり。謾諛は、窮辱の舎なり。人に虐を取る者は、禍に趨るの路なり。故に曰わく、徼幸を去り、忠信を務め、嗜欲を節し、人に虐を取ること無くんば、則ち君子と称せられ、名声常に存す。怨みは報いざるに生じ、禍は福多きに生じ、安危は自ら処するに存し、困しまざるは蚤く豫むるに在り、存亡は人を得るに在り、終わりを慎むこと始めの如くせよ、乃ち能く長久ならん。能く此の五者を行わば、以て身を全うすべし。己の欲せざる所、人に施すこと勿かれ、是れを要道と謂うなり。
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廟堂忠告・遠慮第四天下の事、其の已(すで)に然(しか)るを知りて、其の将(まさ)に然らんとするを知らざる者は衆人なり。其の已に然るに因りて将に然らんとして未だ然らざるを、逆(さかのぼ)りて之を知るは、深識遠慮(しんしきえんりょ)の者に非ざれば能わず。室已に焚けて薪を徙(うつ)し、舟已に溺れて壺(こ)を市(か)い、疾(やまい)已に成りて艾(もぐさ)を求むるは、力を殫(つく)して之を為すと雖も、及ぶ無し。今夫れ隆然(りゅうぜん)たる堤に、蟻(あり)を容るるの穴有るも、宜しく損う所無きが若しと雖も、然れども識に周(あまね)き者は、必ず塞ぎて之を実(み)たす。其の久しくして必ず必ず訌潰(こうかい)に底(いた)るを慮(おもんぱか)るが故なり。天下の事、皆能く是くの如く之を慮らば、尚(な)お何の後患か之れ有らんや。大氐(たいてい)、古(いにしえ)より国家の治まらざる所以、臣子(しんし)の軌(き)ならざる所以は、固(もと)より一朝一夕の積(つ)みに非ず。良(まこと)に今日某事(ぼうじ)を以て小過(しょうか)と為して諫(いさ)めず、明日某人を以て小罪と為して懲(こ)らさず、日に引き月に深く、自ら其の禍乱の成るを知らざるに由るなり。故に臣の君に於けるや、可を献じ否を替(す)て、敢えて一毫(いちごう)の姑息(こそく)の心を萌(きざ)さず。始めは以て傷無しと為すも、卒(つい)に大いに傷むべきに至り、始めは以て慮るに足らずと為すも、卒に深く慮るべきに至る。惟(ただ)君子のみ能く微(び)を見て著(ちょ)を知り、患いを思いて之を予防す。飲宴に於いては則ち流連(りゅうれん)を防ぎ、田猟(でんりょう)に於いては則ち荒縦(こうしょう)を防ぎ、営繕(えいぜん)に於いては則ち踰制(ゆせい)を防ぎ、貨財に於いては則ち民を損なうを防ぎ、爵賞に於いては則ち僭(せん)を防ぎ、刑法に及びては則ち濫殺(らんさつ)を防ぎ、君子に於いては則ち疎遠を防ぎ、小人に於いては則ち玩狎(がんこう)を防ぎ、聴覧(ちょうらん)に於いては則ち姦(かん)を容るるを防ぎ、征伐に於いては則ち武を瀆(けが)すを防ぐ。夫れ君の臣に於けるや、亦た当(まさ)に遠慮すべき所有り。愛すと雖も過分の賞を錫(たま)わず、旧(ふる)しと雖も非拠(ひきょ)の官を授けず、親しと雖も褻瀆(せつとく)の談を交えず。蓋(けだ)し尊卑の分(ぶん)厳なれば、則ち上下の体(たい)定まる。上下の体定まれば、則ち禍乱(からん)自(よ)りて生ずる無く、天下の事、次第に治むべし。
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説苑・敬慎存亡禍福は、其の要身に在り。聖人誡めを重んじ、忽せにする所を敬慎す。中庸に曰わく、「隠より見わるるは莫く、微より顕らかなるは莫し。故に君子は其の独りを慎むなり」と。諺に曰わく、「誠に垢無ければ、思うに辱無し」と。夫れ誠ならず思わずして以て身を存し国を全うする者も亦た難きかな。詩に曰わく、「戦戦兢兢として、深淵に臨むが如く、薄氷を履むが如し」と。此を之れ謂うなり。
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説苑・雜言孔子曰く、「終日言いて己の憂いを遺さず、終日行いて己の患いを遺さざるは、唯だ智者のみ之有り。故に恐懼するは患いを除く所以なり、恭敬するは難きを越ゆる所以なり。終身之を為して、一言之を敗る、慎まざる可けんや」と。
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史記 司馬相如列伝蓋し明者は未萌に遠見し、智者は無形に危を避く、禍は固より多く隱微に蔵れて人の忽せにする所に発する者なり。故に鄙諺に曰く、「家に千金を累ぬれば、堂に垂りて坐せず」と。此の言小なりと雖も、以て大を喩す可し。臣願はくは陛下之に留意して幸に察せよ。