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呂氏春秋 / 不苟②

武王至殷郊,係墮。五人御於前,莫肯之為,曰:「吾所以事君者非係也。」武王左釋白羽,右釋黃鉞,勉而自為係。孔子聞之曰:「此五人者之所以為王者佐也,不肖主之所弗安也。」故天子有不勝細民者,天下有不勝千乘者。

新字:武王至殷郊,係堕。五人御於前,莫肯之為,曰:「吾所以事君者非係也。」武王左釈白羽,右釈黄鉞,勉而自為係。孔子聞之曰:「此五人者之所以為王者佐也,不肖主之所弗安也。」故天子有不勝細民者,天下有不勝千乗者。

書き下し

武王、殷郊に至り、係墮す。五人、前に御し、肯て之を為す莫し。曰く、「吾の君に事うる所以の者は係に非ざるなり。」武王、左に白羽を釋き、右に黃鉞を釋き、勉めて自ら係を為す。孔子、之を聞きて曰く、「此の五人の者の王の為にする所以の者は佐なり。不肖の主の安んぜざる所なり。」故に天子にも細民に勝たざる者有り、天下にも千乘に勝たざる者有り。

現代語訳

武王が殷の郊外に至ったとき、車の紐(履の緒とも)が切れた。前に付き従う五人は、誰もそれを直そうとせず、「我々が君にお仕えする役目は、紐を結ぶことではありません」と言った。武王は左手に白羽の旗を、右手に黄鉞(まさかり)を置き、自ら努めて紐を結んだ。孔子はこれを聞いて言った、「この五人が王を補佐するゆえんは、そうした気概にある。暗愚な君主なら心穏やかでいられないところだ」と。だから天子でも一介の民に及ばぬ点があり、天下を持つ者でも千乗の諸侯に及ばぬ点があるのだ。

解説

この段は、武王に従う五人が「紐結びは我々の職分ではない」と言って動かず、武王自ら結んだ逸話を通じて、職分を守る臣下と、それを許せる度量を持つ君主の関係を描きます。孔子は、五人の毅然とした態度こそ王を支える資質であり、暗君には耐えられない振る舞いだと評します。背景には、上下の別と職分を重んじる古代の統治観があります。天子でも庶民に及ばぬ点があるという結びは、地位の高さが万能を意味しないことを示します。現代の組織でも、役割分担を守る部下と、それを咎めず自ら手を動かせる上司の組み合わせが健全さを生む、という示唆を与えてくれます。

この章句が説くこと

武王孔子職分君臣黄鉞度量

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