呂氏春秋 / 貴卒④
周武君使人刺伶悝於東周,伶悝僵,令其子速哭曰:「以誰刺我父也?」刺者聞,以為死也。周以為不信,因厚罪之。
書き下し
周の武君、人をして伶悝を東周に刺さしむ。伶悝僵れ、其の子をして速かに哭せしめて、以れ誰が我が父を刺せる、と曰しむ。刺す者聞きて、以て死せりと為すなり。周君以て不信と為し、因りて厚く之を罪す。
現代語訳
周の武君が人をやって伶悝を東周で刺させた。伶悝は倒れ、自分の子に急いで泣かせて「いったい誰が私の父を刺したのか」と言わせた。刺客はこれを聞いて、伶悝は死んだと思い込んだ。伶悝は生きていたため、暗殺成功という報告は虚偽となり、周君は不誠実だとみなして、そこで刺客を重く処罰した。
解説
暗殺されかけた伶悝が、即座に死んだふりを演じて難を逃れた話です。刺客に刺されて倒れた伶悝は、とっさに我が子に泣かせ「誰が父を刺したのか」と叫ばせました。刺客はまんまと殺害成功と思い込みます。ところが伶悝は生きていたため、成功という報告は虚偽となり、依頼主の周君は刺客を重く罰しました。危機の一瞬で機転を利かせ、敵の判断を誤らせて命を守った例です。短いながら、即応の知恵が生死を分けるという貴卒の主題を端的に示し、とっさの演技が事態を反転させる妙を伝えます。
この章句が説くこと
伶悝周武君刺客即応死んだふり貴卒
関連する章句
-
呂氏春秋・貴卒②呉起、荊王に謂いて曰く、「荊、餘り有る所の者は地なり、足らざる所の者は民なり。今君王は足らざる所を以て、餘り有る所を益す。臣得て為さざるなり。」是に於て貴人をして往きて廣虚の地を實たさしむるに、皆甚だ之に苦しむ。荊王死し、貴人皆來たる。尸、堂上に在り。貴人相與に呉起を射る。呉起號呼して曰く、「吾、子に吾が兵を用うるを示さん。」矢を拔きて走り、尸に伏して矢を插みて疾言して曰く、「群臣、王に亂し、呉起死せり。」且つ荊國の法、兵を王の尸に麗くる者は、盡く重罪を加え、三族に逮ぶ。呉起の智、捷しと謂う可し。
-
呂氏春秋・貴卒③齊の襄公位に即き、公孫無知を憎みて、其の祿を収む。無知說ばずして、襄公を殺す。公子糾、魯に走り、公子小白、莒に奔る。既にして國、無知を殺し、未だ君有らず。公子糾と公子小白と皆歸り、俱に至り、先を爭いて公家に入らんとす。管仲、弓を扞きて公子小白を射て、鉤に中つ。鮑叔、公子小白を御して、僵れしむ。管子以て小白死せりと為し、公子糾に告げて曰く、「之を安んぜよ。公子小白已に死せり。」鮑叔因りて疾驅して先づ入る。故に公子小白以て君と為るを得たり。鮑叔の智、射に應じて公子小白をして僵れしむるは、其の智、鏃矢の若きなり。
-
呂氏春秋・離謂⑤齊に人に事うる者有り。事うる所、難有れども死せざるなり。故人に塗に遇う。故人曰く、「固に死せざるか。」對えて曰く、「然り。凡そ人に事うるは以て利を爲せばなり。死は利ならず。故に死せず。」故人曰く、「子は尚ほ人を見る可きか。」對えて曰く、「子は死を以て顧って以て人を見る可しと爲すか。」是の者數傳す。其の君長に死せざるは、大不義なり。其の辭は猶ほ服す可からず。辭の以て事を斷ずるに足らざるや、明らかなり。夫れ辭は、意の表なり。其の表を鑒みて其の意を棄つるは、悖れり。故に古の人は、其の意を得れば、則ち其の言を舎つ。言を聽く者は言を以て意を觀るなり。言を聽けども意知る可からざるは、其れ橋言と擇ぶこと無し。
-
呂氏春秋・驕恣②晉の厲公、侈淫にして、好んで讒人に聽く。盡く其の大臣を去りて、其の左右を立てんと欲す。胥童、厲公に謂いて曰く、「必づ先づ三郤を殺せ。族の大にして怨み多し,大族を去れば偪られず。」公曰く、「諾。」乃ち長魚矯をして郤犨・郤錡・郤至を朝に殺して、其の尸を陳ねしむ。是に於て厲公、匠麗氏に遊び、欒書・中行偃、劫して之を幽す。諸侯之を救うもの莫く、百姓之を哀れむもの莫し。三月にして之を殺せり。人主の患いは、患い能く人を害うことを知りて、人を害うことの當らざれば反って自らに及ぶことを知らざるに在り。是れ何ぞや。智短なればなり。智短なれば則ち化を知らず。化を知らざれば、舉自ら危うし。
-
戦国策・昌他亡西周昌他西周を亡げ、東周に之き、尽く西周の情を東周に輸す。東周大いに喜び、西周大いに怒る。馮且曰く、「臣能くこれを殺さん」と。君金三十斤を予ふ。馮且人をして金と書とを操りて、間かに昌他に書を遺らしめて曰く、「昌他に告ぐ、事成るべくんば、勉めてこれを成せ、成るべからずんば、亟かに亡げ来たれ亡げ来たれ、事久しくして且つ泄れなば、自ら身を死に令めん」と。因りて人をして東周の候に告げしめて曰く、「今夕姦人有りて当に入るべき者あらん」と。候得て東周に献ず、東周立ちどころに昌他を殺す。
-
呂氏春秋・過理②晉の靈公は無道なり。上從り人に彈きて其の丸を避くるを觀、宰人をして熊蹯を臑しめて熟せず、之を殺して、婦人をして載せて朝を過ぎしめ、以て威を示すは、不適なり。趙盾驟々諫むれども聽かず、公之を惡み、乃ち沮麛を使う。沮麛、之を見、賊するに忍びず。曰く、「恭敬を忘れざるは、民の主なり。民の主を賊するは不忠なり。君の命を棄つるは不信なり、此に一あるは、死するに若かず。」乃ち廷の槐に觸して死す。