呂氏春秋 / 審應⑤
趙惠王謂公孫龍曰:「寡人事偃兵十餘年矣而不成,兵不可偃乎?」公孫龍對曰:「偃兵之意,兼愛天下之心也。兼愛天下,不可以虛名為也,必有其實。今藺、離石入秦,而王縞素布總;東攻齊得城,而王加膳置酒。秦得地而王布總,齊亡地而王加膳,所非兼愛之心也。此偃兵之所以不成也。」今有人於此,無禮慢易而求敬,阿黨不公而求令,煩號數變而求靜,暴戾貪得而求定,雖黃帝猶若困。
新字:趙恵王謂公孫竜曰:「寡人事偃兵十余年矣而不成,兵不可偃乎?」公孫竜対曰:「偃兵之意,兼愛天下之心也。兼愛天下,不可以虚名為也,必有其実。今藺、離石入秦,而王縞素布総;東攻斉得城,而王加膳置酒。秦得地而王布総,斉亡地而王加膳,所非兼愛之心也。此偃兵之所以不成也。」今有人於此,無礼慢易而求敬,阿党不公而求令,煩号数変而求静,暴戻貪得而求定,雖黄帝猶若困。
書き下し
趙の惠王、公孫龍に謂いて曰く、「寡人、偃兵を事とすること十餘年、而れども成らず。兵は偃む可らざるか。」公孫龍對えて曰く、「偃兵の意は、天下を兼愛するの心なり。天下を兼愛するは、虚名を以て為す可からざるなり。必ず其の實有るべし。今、藺・離石、秦に入れば、而ち王、縞素布總するも、東のかた齊を攻めて城を得れば、而ち王、加膳置酒す。秦、地を得て、王、布總し、齊、地を亡いて王、加膳するは、兼愛の心に非ざる所なり。此れ偃兵の成らざる所以なり。」今此に人有り、無禮慢易にして敬を求め、阿黨不公にして令を求め、煩號數變にして靜を求め、暴戻貪得にして定を求むるは、黄帝と雖も猶若ほ困しまん。
現代語訳
趙の恵王が公孫龍に言った、「私は戦争をやめようと十数年努めてきたが成し遂げられない。戦はやめられないものなのか。」公孫龍は答えた、「戦をやめようという心は、天下を等しく愛する兼愛の心です。天下を兼愛するのは、うわべの名目だけではできず、必ずその実質がなければなりません。今、藺と離石の地が秦に取られると、王は喪服を着て髪を布で束ね喪に服されますが、東方の斉を攻めて城を得ると、王はごちそうを増やし酒宴を開かれます。秦が土地を得て王が喪に服し、斉が土地を失って王が祝宴を開くのは、兼愛の心とは正反対です。これが戦をやめられない理由です。」今ここに、無礼で軽んじながら敬われようとし、党派を組んで不公平でありながら人が従うのを求め、命令をやたらと変えながら安定を求め、荒々しく貪欲でありながら平定を求める者がいれば、黄帝ですら手を焼くだろう。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
荀子・大略篇自ら其の行ひに嗛(あきた)らざる者は、言濫(らん)に過ぐ。古の賢人は、賤しくして布衣(ほい)為(た)り、貧しくして匹夫為り。食へば則ち饘粥(せんしゅく)も足らず、衣れば則ち豎褐(じゅかつ)も完(まった)からず。然り而して礼に非ざれば進まず、義に非ざれば受けず。安(いづ)くんぞ此れを取らん。
-
論語・憲問篇子曰わく、君子はその言にして行に過ぐるを恥ず。
-
論語・子路篇子貢問いて曰く、「何如なれば斯れ之を士と謂う可き。」子曰く、「己を行うに恥有り、四方に使いして、君命を辱めざる、士と謂う可し。」曰く、「敢えて其の次を問う。」曰く、「宗族孝を称し、郷党弟を称す。」曰く、「敢えて其の次を問う。」曰く、「言必ず信、行必ず果、硜硜然たる小人なるかな。抑々亦た以て次と為す可し。」曰く、「今の政に従う者は何如。」子曰く、「噫、斗筲の人、何ぞ算うるに足らんや。」
-
論語・里仁篇子曰わく、古者は言を出さざるは、躬の逮ばざるを恥ずればなり。
-
論語・憲問篇子曰わく、その言の怍(はじ)ざるは、これを為すこと難し。
-
呉子・図国篇呉起、儒服にして兵機を以て魏の文侯に見ゆ。文侯曰く、「寡人は軍旅の事を好まず」と。起曰く、「臣は見るるところを以て隠れたるを占い、往きしを以て来たるを察す。主君何ぞ言と心と違うことを言わるるや。今、君は四時に人をして皮革を斬り離たしめ、掩うに朱漆を以てし、画くに丹青を以てし、爍かすに犀象を以てす。冬日に之を衣れば則ち温かならず、夏日に之を衣れば則ち涼しからず。長戟は二丈四尺、短戟は一丈二尺を為る。革車は戸を奄い、輪を縵にし轂を籠む。之を目に観れば則ち麗しからず、之に乗りて以て田すれば則ち軽からず。識らず、主君安んぞ此を用いんや。若し以て進みて戦い退きて守るに備うるも、能く用うる者を求めざれば、譬えば猶お伏鶏の狸を搏ち、乳犬の虎を犯すがごとし。闘心有りと雖も、之に随いて死せんのみ。昔、承桑氏の君は、徳を修めて武を廃し、以て其の国を滅ぼせり。有扈氏の君は、衆を恃み勇を好み、以て其の社稷を喪えり。明主は茲に鑒み、必ず内には文徳を修め、外には武備を治む。故に敵に当たりて進まざるは、義に逮ぶこと無きなり。僵屍して之を哀しむは、仁に逮ぶこと無きなり」と。是に於いて文侯は身自ら席を布き、夫人は觴を捧げ、呉起を廟に醮し、立てて大将と為し、西河を守らしむ。諸侯と大いに戦うこと七十六、全勝六十四、余は則ち鈞しく解く。土を四面に闢き、地を拓くこと千里なるは、皆な起の功なり。