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驢鞍橋 / 卷上

一日戯言を好む者來る。折節病僧の在るを見て曰く、あれは賣僧か過きてやめる也。古き物語に去る者我死せば子供如何せんと思ひ虚死にす。子供兄弟在りけるか、嘆きながら棺に入れ、前後をかき行く。父忍び兼て笑ひ出す。子供魔の入りたると思ひ、不覺抛げすつ。折節坿の端を通る時なれば、谷底に落ちて眞の死を仕たると云ふ。あの僧も造病が本病と成る也と云ふ。師聞て曰、是れは其方の樣なる者の爲めに云ひ置かれたる物語也。詮無き事を樂みて死す。むだ事に損ある證據也。人は假初にも實めなが能し。其方も何とぞして向後實めに成りめされよと也。

新字:一日戯言を好む者来る。折節病僧の在るを見て曰く、あれは売僧か過きてやめる也。古き物語に去る者我死せば子供如何せんと思ひ虚死にす。子供兄弟在りけるか、嘆きながら棺に入れ、前後をかき行く。父忍び兼て笑ひ出す。子供魔の入りたると思ひ、不覚抛げすつ。折節坿の端を通る時なれば、谷底に落ちて真の死を仕たると云ふ。あの僧も造病が本病と成る也と云ふ。師聞て曰、是れは其方の様なる者の為めに云ひ置かれたる物語也。詮無き事を楽みて死す。むだ事に損ある証拠也。人は仮初にも実めなが能し。其方も何とぞして向後実めに成りめされよと也。

書き下し

一日戯言を好む者来る。折節病僧の在るを見て曰く、あれは売僧か過きてやめる也。古き物語に去る者我死せば子供如何せんと思ひ虚死にす。子供兄弟在りけるか、嘆きながら棺に入れ、前後をかき行く。父忍び兼て笑ひ出す。子供魔の入りたると思ひ、不覚抛げすつ。折節坿の端を通る時なれば、谷底に落ちて真の死を仕たると云ふ。あの僧も造病が本病と成る也と云ふ。師聞て曰、是れは其方の様なる者の為めに云ひ置かれたる物語也。詮無き事を楽みて死す。むだ事に損ある証拠也。人は仮初にも実めなが能し。其方も何とぞして向後実めに成りめされよと也。

現代語訳

ある日、冗談好きの者が来た。ちょうど病僧がいるのを見て言った。あれは売僧が過ぎて病んでいるのだ。古い話に、ある者が、自分が死んだら子どもたちはどうするだろうと思って、死んだふりをした。子どもは兄弟がいたが、嘆きながら棺に入れ、前後を担いで行った。父はこらえきれずに笑い出した。子どもたちは魔が入ったと思って、思わず放り捨てた。ちょうど崖の端を通るときだったので、谷底に落ちて本当に死んでしまったという。あの僧も、仮病が本当の病になったのだ、と言った。師は聞いて言われた。これはあなたのような者のために言い置かれた物語だ。つまらないことを楽しんで死ぬ。むだ事に損がある証拠である。人はかりそめにも真面目なのがよい。あなたもどうか今後は真面目になりなさい、と。

解説

病気の僧を、仮病が本当の病になったのだろうとからかう冗談好きの男が、死んだふりをして本当に死んだ男の笑い話を持ち出す。正三は、その話こそ、あなたのようなふざけた者への戒めだと切り返す。つまらない冗談で身を滅ぼす証拠だ、と。人をからかう軽口が、思わぬ形で自分に返ってくることは多い。かりそめの場面でも真面目でいることの大切さを、相手の持ち出した話でそのまま諭す機知が見事である。

この章句が説くこと

冗談軽口戒め真面目因果機知

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