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驢鞍橋 / 卷上

夜話の次て、諸人幽靈樣々意恨をなしたる物語を數多語る。師聞て曰く、さなくてはさなくては、かほど大事なる事を知らず、皆人每に死ねばなにも無きやうに思ひ、惡を愼む心もなく、後世を恐るる人も無き間、斯くなくて不叶、扨々笑止千萬なる事なり。時に去る人云、某は加樣の物語を聞いても恐るゝ心無し。師曰く、夫れは業の深き故なり。彼人亦云、業にも恐るゝ心なし。師曰く、業に恐れさる大業人なり。

新字:夜話の次て、諸人幽霊様々意恨をなしたる物語を数多語る。師聞て曰く、さなくてはさなくては、かほど大事なる事を知らず、皆人毎に死ねばなにも無きやうに思ひ、悪を慎む心もなく、後世を恐るる人も無き間、斯くなくて不叶、扨々笑止千万なる事なり。時に去る人云、某は加様の物語を聞いても恐るゝ心無し。師曰く、夫れは業の深き故なり。彼人亦云、業にも恐るゝ心なし。師曰く、業に恐れさる大業人なり。

書き下し

夜話の次て、諸人幽霊様々意恨をなしたる物語を数多語る。師聞て曰く、さなくてはさなくては、かほど大事なる事を知らず、皆人毎に死ねばなにも無きやうに思ひ、悪を慎む心もなく、後世を恐るる人も無き間、斯くなくて不叶、扨々笑止千万なる事なり。時に去る人云、某は加様の物語を聞いても恐るゝ心無し。師曰く、夫れは業の深き故なり。彼人亦云、業にも恐るゝ心なし。師曰く、業に恐れさる大業人なり。

現代語訳

夜話のついでに、人々が幽霊がさまざまに恨みを晴らした話をたくさん語った。師は聞いて言われた。そうでなくては、そうでなくては。これほど大事なことを知らず、誰もが死ねば何もないように思い、悪を慎む心もなく、後世を恐れる人もいないのだから、こうでなくてはならない。なんとも気の毒千万なことである。そのとき、ある人が言った。私はこのような話を聞いても、恐れる心はありません。師は言われた。それは業が深いからである。その人がまた言った。業にも恐れる心はありません。師は言われた。業を恐れない大業人である、と。

解説

幽霊の恨み話を聞いて、正三は、そういう話でもなければ、人は死後を恐れず悪を慎まないのだから、と一定の意味を認める。そこへ、自分は幽霊話も業も恐れないと豪語する人が現れる。正三は、それは業が深いからだ、業を恐れないとは大業人だ、と切り返す。恐れを知らないことを強さと思い込む人への痛烈な一言である。報いを恐れる心が、人を悪から遠ざける。怖いもの知らずの危うさを突いている。
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この章句が説くこと

業恐れ因果幽霊慢心戒め

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