列子 / 黄帝篇
嘗又與來!」明日、又與之見壺子。立未定、自失而走。壺子曰:「追之!」列子追之而不及、反以報壺子、曰:「已滅矣、已失矣、吾不及也。」壺子曰:「向吾示之以未始出吾宗。吾與之虛而猗移、不知其誰何、因以爲茅靡、因以爲波流、故逃也。」然後列子自以爲未始學而歸、三年不出、爲其妻爨、食狶如食人、於事無親、雕瑑復朴、塊然獨以其形立、㤋然而封戎、壹以是終。
新字:嘗又与来!」明日、又与之見壺子。立未定、自失而走。壺子曰:「追之!」列子追之而不及、反以報壺子、曰:「已滅矣、已失矣、吾不及也。」壺子曰:「向吾示之以未始出吾宗。吾与之虚而猗移、不知其誰何、因以為茅靡、因以為波流、故逃也。」然後列子自以為未始学而帰、三年不出、為其妻爨、食狶如食人、於事無親、雕瑑復朴、塊然独以其形立、㤋然而封戎、壱以是終。
書き下し
嘗た又た與に來たれ、と。明日、又た之と壺子に見ゆ。立ちて未だ定まらざるに、自失して走る。壺子曰く、之を追え、と。列子之を追えども及ばず。反りて以て壺子に報じて曰く、已に滅せり、已に失せり、吾及ばざるなり、と。壺子曰く、向に吾之に示すに未だ始めより吾が宗を出でざるを以てす。吾之と虛にして猗移す。其の誰なるかを知らず、因りて以て茅靡と爲し、因りて以て波流と爲す。故に逃げたるなり、と。然る後に列子自ら以爲えらく未だ始めより學ばずと、而して歸り、三年出でず。其の妻の爲に爨ぎ、狶を食わすこと人を食わすが如し。事に於いて親しむ無く、雕瑑して朴に復る。塊然として獨り其の形を以て立ち、㤋然として封戎す。壹に是を以て終わる。
現代語訳
「もう一度連れてきなさい」。翌日、また季咸を連れて壺子に会わせた。季咸は立ち位置も定まらないうちに、われを失って逃げ出した。壺子は言った。「追いかけなさい」。列子は追ったが追いつけない。戻って壺子に報告した。「もう消えました。もう見失いました。追いつけませんでした」。壺子は言った。「さっき私は彼に、まだ一度も自分の根から出ていないさまを見せた。私は彼に対して虚となり、なびくままになった。彼は私が誰なのか分からず、それで草が風になびくようだと思い、波が流れるようだと思った。だから逃げたのだ」。それから列子は、自分はまだ何一つ学んでいなかったと思い、家に帰って三年間外に出なかった。妻のために飯を炊き、豚に食べさせるのを人に食べさせるように扱った。何事にも身びいきをせず、飾りを削り落として素朴に戻った。土くれのようにただ独りその形のままに立ち、乱れた世のなかにあってもそのままであった。そうしてこの生き方のまま生涯を終えた。
解説
この章句が説くこと
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荘子・応帝王鄭に神巫(しんぷ)有り、季咸(きかん)と曰う。人の生死存亡、禍福寿夭(かふくじゅよう)を知り、期するに歳月旬日(さいげつじゅんじつ)を以てす。神の若し。鄭人之を見れば、皆な棄てて走る。列子之を見て心酔し、帰りて以て壺子(こし)に告げて曰く、「始め吾夫子の道を以て至れりと為せり。則ち又た至れる者有り」と。壺子曰く、「吾汝と既に其の文を尽くすも、未だ其の実を尽くさず。而(すなわ)ち固(まこと)に道を得たるか。衆(おお)くの雌ありて雄無くんば、而ち又た奚(なん)ぞ卵せんや。而ち道を以て世と亢(あ)がりて必ず信ぜられんとす。夫れ故に人をして得て女(なんじ)を相(そう)せしむ。嘗(こころ)みに与に来たれ。以て予(われ)を之に示さん」と。明日、列子之と壺子に見ゆ。出でて列子に謂いて曰く、「嘻(ああ)、子の先生は死せり。活きざらん。旬を以て数えざらん。吾怪を焉(そこ)に見たり。溼灰(しっかい)を焉に見たり」と。列子入り、涕を泣きて襟を沾(うるお)し、以て壺子に告ぐ。壺子曰く、「郷(さき)に吾之に示すに地文(ちぶん)を以てせり。萌(ほう)として震(うご)かず正(とど)まらず。是れ殆ど吾が徳機(とくき)を杜(と)ざすを見たるならん。嘗みに又た与に来たれ」と。明日、又た之と壺子に見ゆ。出でて列子に謂いて曰く、「幸いなるかな。子の先生は我に遇えり。瘳(い)ゆること有り。全然として生有り。吾其の杜権(とけん)を見たり」と。列子入り、以て壺子に告ぐ。壺子曰く、「郷に吾之に示すに天壌(てんじょう)を以てせり。名実入らずして、機は踵(かかと)より発す。是れ殆ど吾が善なる者の機を見たるならん。嘗みに又た与に来たれ」と。明日、又た之と壺子に見ゆ。出でて列子に謂いて曰く、「子の先生は斉(ととの)わず。吾得て相する無し。試みに斉えよ。且つ復た之を相せん」と。列子入り、以て壺子に告ぐ。壺子曰く、「吾郷に之に示すに太沖莫勝(たいちゅうばくしょう)を以てせり。是れ殆ど吾が衡気(こうき)の機を見たるならん。鯢桓(げいかん)の審(ふか)きを淵と為し、止水の審きを淵と為し、流水の審きを淵と為す。淵に九名有り。此に三つを処(お)く。嘗みに又た与に来たれ」と。明日、又た之と壺子に見ゆ。立ちて未だ定まらざるに、自失して走る。壺子曰く、「之を追え」と。列子之を追うも及ばず、反りて以て壺子に報じて曰く、「已に滅せり、已に失せり。吾及ばざるなり」と。壺子曰く、「郷に吾之に示すに未だ始めより吾が宗を出でざるを以てせり。吾之と虚にして委蛇(いい)たり。其の誰何(たれ)なるを知らず。因りて以て弟靡(ていび)と為し、因りて以て波流と為す。故に逃げたるなり」と。然る後に列子は自ら以て未だ始めより学ばずと為して帰り、三年出でず。其の妻の為に爨(かし)ぎ、豕(ぶた)を食(やしな)うこと人を食うが如し。事に於いて与に親しむ無く、彫琢(ちょうたく)して朴(ぼく)に復(かえ)る。塊然(かいぜん)として独り其の形を以て立つ。紛(ふん)として封(ふう)ぜられ、一に是を以て終わる。
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『列子』黄帝篇神巫有り齊より來たりて鄭に處る。命けて季咸と曰う。人の死生・存亡・禍福・壽夭を知り、期するに歲・月・旬・日を以てすること、神の如し。鄭人之を見れば、皆な避けて走る。列子之を見て心醉し、歸りて以て壺丘子に告げて曰く、始め吾夫子の道を以て至れりと爲す。則ち又た至れる者有り、と。壺子曰く、吾汝と其の文を無くすも、未だ其の實を既くさず。而るに固より道を得たるか。衆雌にして雄無くんば、而ち又た奚ぞ卵せんや。而ち道を以て世と抗するも、必ず信ぜられん。夫れ故に人をして得て汝を相せしむ。嘗試みに與に來たれ、予を以て之に示せ、と。
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『列子』黄帝篇明日、列子之と壺子に見ゆ。出でて列子に謂いて曰く、譆、子の先生は死せり。活きざらん。旬を以て數うべからず。吾怪を見たり、濕灰を見たり、と。列子入り、涕泣して衿を沾し、以て壺子に告ぐ。壺子曰く、向に吾之に示すに地文を以てす。誫かず止まらざるに罪す。是れ殆ど吾が杜德の幾を見たるならん。
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『列子』黄帝篇嘗た又た與に來たれ、と。明日、又た之と壺子に見ゆ。出でて列子に謂いて曰く、幸いなり、子の先生我に遇えるや、瘳ゆること有り。灰然として生有り。吾杜權を見たり、と。列子入りて壺子に告ぐ。壺子曰く、向に吾之に示すに天壤を以てす。名實入らずして、機は踵より發す。此れを杜權と爲す。是れ殆ど吾が善なる者の幾を見たるならん。
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『列子』黄帝篇嘗た又た與に來たれ、と。明日、又た之と壺子に見ゆ。出でて列子に謂いて曰く、子の先生は坐して齋せず。吾得て相する無し。試みに齋せば、將た且に復た之を相せん、と。列子入りて壺子に告ぐ。壺子曰く、向に吾之に示すに太沖莫眹を以てす。是れ殆ど吾が衡氣の幾を見たるならん。鯢旋の潘を淵と爲し、止水の潘を淵と爲し、流水の潘を淵と爲し、濫水の潘を淵と爲し、沃水の潘を淵と爲し、氿水の潘を淵と爲し、雍水の潘を淵と爲し、汧水の潘を淵と爲し、肥水の潘を淵と爲す。是れを九淵と爲す。
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『列子』黄帝篇子列子齊に之き、中道にして反る。伯昏瞀人に遇う。伯昏瞀人曰く、奚に方きて反る、と。曰く、吾驚けり、と。惡くにか驚く、と。曰く、吾十漿に食らうに、五漿先ず饋る、と。伯昏瞀人曰く、是くの若くんば、則ち汝何爲れぞ己を驚かすや、と。曰く、夫れ内誠解けざれば、形諜として光を成し、外を以て人の心を鎮め、人をして貴老を輕んぜしめ、而して其の患う所を𩐎らす。夫れ漿人は特だ食羹の貨、多餘の贏を爲すのみ。其の利を爲すや薄く、其の權を爲すや輕し。而るに猶お是くの若し。而るを況んや萬乘の主、身は國に勞し、智は事に盡くるをや。彼將に我に任ずるに事を以てし、我に效むるに功を以てせんとす。吾是を以て驚けり、と。