列子 / 黄帝篇
明日、列子與之見壺子。出而謂列子曰:「譆!子之先生死矣、弗活矣、不可以旬數矣。吾見怪焉、見濕灰焉。」列子入、涕泣沾衿、以告壺子。壺子曰:「向吾示之以地文、罪乎不誫不止、是殆見吾杜德幾也。
新字:明日、列子与之見壺子。出而謂列子曰:「譆!子之先生死矣、弗活矣、不可以旬数矣。吾見怪焉、見湿灰焉。」列子入、涕泣沾衿、以告壺子。壺子曰:「向吾示之以地文、罪乎不誫不止、是殆見吾杜徳幾也。
書き下し
明日、列子之と壺子に見ゆ。出でて列子に謂いて曰く、譆、子の先生は死せり。活きざらん。旬を以て數うべからず。吾怪を見たり、濕灰を見たり、と。列子入り、涕泣して衿を沾し、以て壺子に告ぐ。壺子曰く、向に吾之に示すに地文を以てす。誫かず止まらざるに罪す。是れ殆ど吾が杜德の幾を見たるならん。
現代語訳
翌日、列子は季咸を連れて壺子に会わせた。季咸は出てきて列子に言った。「ああ、あなたの先生は死ぬ。生きられない。十日と数えられないだろう。私は異様なものを見た。濡れた灰を見た」。列子は部屋に入り、涙で襟を濡らしながら、そのことを壺子に伝えた。壺子は言った。「さっき私は彼に大地の相を見せた。動きもせず止まりもしないところに構えたのだ。彼はおそらく、私が生気を閉ざしているきざしだけを見たのだろう」。
解説
占い師は「濡れた灰」を見て、十日と持たないと断じました。壺子はそれを否定せず、自分が大地の相を見せたのだと説明します。相手が見たものは正しい。ただし、見せたものを見ただけです。ここが四度くり返される問答の型になります。読み手として押さえるべきは、壺子が反論も証明もしていないことです。占いを当てにいくのでもなく、外すのでもなく、示すものを変えている。交渉ごとに置き換えると分かりやすい。相手の読みが鋭いとき、読みそのものを崩そうとすると泥沼になります。読まれる材料のほうを入れ替えれば、相手は勝手に別の結論に着きます。ただしこれは、こちらに底がある人にしかできません。
この章句が説くこと
湿灰を見たり地文を示す杜徳の幾旬を以て数うべからず
関連する章句
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『列子』黄帝篇嘗た又た與に來たれ、と。明日、又た之と壺子に見ゆ。出でて列子に謂いて曰く、幸いなり、子の先生我に遇えるや、瘳ゆること有り。灰然として生有り。吾杜權を見たり、と。列子入りて壺子に告ぐ。壺子曰く、向に吾之に示すに天壤を以てす。名實入らずして、機は踵より發す。此れを杜權と爲す。是れ殆ど吾が善なる者の幾を見たるならん。
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荘子・応帝王鄭に神巫(しんぷ)有り、季咸(きかん)と曰う。人の生死存亡、禍福寿夭(かふくじゅよう)を知り、期するに歳月旬日(さいげつじゅんじつ)を以てす。神の若し。鄭人之を見れば、皆な棄てて走る。列子之を見て心酔し、帰りて以て壺子(こし)に告げて曰く、「始め吾夫子の道を以て至れりと為せり。則ち又た至れる者有り」と。壺子曰く、「吾汝と既に其の文を尽くすも、未だ其の実を尽くさず。而(すなわ)ち固(まこと)に道を得たるか。衆(おお)くの雌ありて雄無くんば、而ち又た奚(なん)ぞ卵せんや。而ち道を以て世と亢(あ)がりて必ず信ぜられんとす。夫れ故に人をして得て女(なんじ)を相(そう)せしむ。嘗(こころ)みに与に来たれ。以て予(われ)を之に示さん」と。明日、列子之と壺子に見ゆ。出でて列子に謂いて曰く、「嘻(ああ)、子の先生は死せり。活きざらん。旬を以て数えざらん。吾怪を焉(そこ)に見たり。溼灰(しっかい)を焉に見たり」と。列子入り、涕を泣きて襟を沾(うるお)し、以て壺子に告ぐ。壺子曰く、「郷(さき)に吾之に示すに地文(ちぶん)を以てせり。萌(ほう)として震(うご)かず正(とど)まらず。是れ殆ど吾が徳機(とくき)を杜(と)ざすを見たるならん。嘗みに又た与に来たれ」と。明日、又た之と壺子に見ゆ。出でて列子に謂いて曰く、「幸いなるかな。子の先生は我に遇えり。瘳(い)ゆること有り。全然として生有り。吾其の杜権(とけん)を見たり」と。列子入り、以て壺子に告ぐ。壺子曰く、「郷に吾之に示すに天壌(てんじょう)を以てせり。名実入らずして、機は踵(かかと)より発す。是れ殆ど吾が善なる者の機を見たるならん。嘗みに又た与に来たれ」と。明日、又た之と壺子に見ゆ。出でて列子に謂いて曰く、「子の先生は斉(ととの)わず。吾得て相する無し。試みに斉えよ。且つ復た之を相せん」と。列子入り、以て壺子に告ぐ。壺子曰く、「吾郷に之に示すに太沖莫勝(たいちゅうばくしょう)を以てせり。是れ殆ど吾が衡気(こうき)の機を見たるならん。鯢桓(げいかん)の審(ふか)きを淵と為し、止水の審きを淵と為し、流水の審きを淵と為す。淵に九名有り。此に三つを処(お)く。嘗みに又た与に来たれ」と。明日、又た之と壺子に見ゆ。立ちて未だ定まらざるに、自失して走る。壺子曰く、「之を追え」と。列子之を追うも及ばず、反りて以て壺子に報じて曰く、「已に滅せり、已に失せり。吾及ばざるなり」と。壺子曰く、「郷に吾之に示すに未だ始めより吾が宗を出でざるを以てせり。吾之と虚にして委蛇(いい)たり。其の誰何(たれ)なるを知らず。因りて以て弟靡(ていび)と為し、因りて以て波流と為す。故に逃げたるなり」と。然る後に列子は自ら以て未だ始めより学ばずと為して帰り、三年出でず。其の妻の為に爨(かし)ぎ、豕(ぶた)を食(やしな)うこと人を食うが如し。事に於いて与に親しむ無く、彫琢(ちょうたく)して朴(ぼく)に復(かえ)る。塊然(かいぜん)として独り其の形を以て立つ。紛(ふん)として封(ふう)ぜられ、一に是を以て終わる。
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『列子』黄帝篇神巫有り齊より來たりて鄭に處る。命けて季咸と曰う。人の死生・存亡・禍福・壽夭を知り、期するに歲・月・旬・日を以てすること、神の如し。鄭人之を見れば、皆な避けて走る。列子之を見て心醉し、歸りて以て壺丘子に告げて曰く、始め吾夫子の道を以て至れりと爲す。則ち又た至れる者有り、と。壺子曰く、吾汝と其の文を無くすも、未だ其の實を既くさず。而るに固より道を得たるか。衆雌にして雄無くんば、而ち又た奚ぞ卵せんや。而ち道を以て世と抗するも、必ず信ぜられん。夫れ故に人をして得て汝を相せしむ。嘗試みに與に來たれ、予を以て之に示せ、と。
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『列子』黄帝篇伯昏瞀人曰く、善いかな觀るや。汝己に處らば、人將に汝を保らんとす、と。幾何も無くして往けば、則ち戶外の屨滿てり。伯昏瞀人北面して立ち、杖を敦てて之を頤に蹙む。立つこと閒有りて、言わずして出づ。賓者以て列子に告ぐ。列子履を提げ徒跣にして走り、門に暨びて問いて曰く、先生既に來たり、曾て藥を廢てざるか、と。曰く、已めよ。吾固より汝に告げて曰えり、人將に汝を保らんとす、と。果たして汝を保れり。汝の能く人をして汝を保らしむるに非ずして、汝の能く人をして汝を保ること無からしめざるなり。而ち焉んぞ之を感ずるを用いん。感ずれば豫め異を出だす。且つ必ず感ずること有らば、而の本身を搖るがす。又た謂う無きなり。汝と遊ぶ者は、汝に告ぐる莫し。彼の小言する所は、盡く人の毒なり。覺る莫く悟る莫し。何ぞ相い孰せんや、と。