南洲翁遺訓 / 第三条
政の大体は、文を興し、武を振ひ、農を励ますの三つに在り。其の他百般の事務は皆此の三つの物を助るの具也。此の三つの物の中に於て、時に従ひ勢に因り、施行先後の順序は有れど、此の三つの物を後にして他を先にするは更に無し。
書き下し
政の大体は、文を興し、武を振ひ、農を励ますの三つに在り。其の他百般の事務は皆此の三つの物を助るの具也。此の三つの物の中に於て、時に従ひ勢に因り、施行先後の順序は有れど、此の三つの物を後にして他を先にするは更に無し。
現代語訳
政の大筋は、文を興し、武を振るい、農を励ますの三つにある。その他あらゆる事務は、みなこの三つを助ける道具である。この三つのうちで、時に従い勢いによって、施行の先後の順序はあるけれども、この三つを後にして他を先にすることは決してない。
解説
わずか百字ほどで、政治の全体を三つに畳む。文・武・農。そして残りすべてを「此の三つの物を助るの具也」——道具だと言い切る。組織の目的と手段を、これほど短く仕分けた文章は少ない。注目したいのは中間の一句だ。「時に従ひ勢に因り、施行先後の順序は有れど」——三つの間の優先順位は状況で変わる。ここは『帝範』崇文篇や『神皇正統記』の文武論と同じ構えである。しかし「此の三つの物を後にして他を先にするは更に無し」と、順序が入れ替わるのは三つの内側だけで、外のものが先に来ることは絶対にない、と念を押す。日々の業務に追われて、本業が後回しになる——その構造を先回りして塞いでいる。
この章句が説くこと
文を興し武を振るい農を励ます政の大体助くるの具優先順位
関連する章句
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孟子・告子章句上孟子曰く、「人の身に於けるや、愛する所を兼ぬ。愛する所を兼ぬれば、則ち養う所を兼ぬ。無尺寸の膚も愛せざること無ければ、則ち尺寸の膚も養わざること無きなり。其の善不善を考うる所以の者は、豈に他有らんや。己に於て之を取るのみ。體に貴賤有り、小大有り。小を以て大を害すること無く、賤を以て貴を害すること無かれ。其の小を養う者は小人為り、其の大を養う者は大人為り。今場師有り。其の梧檟(ゴ・カ)を舎てて、其の樲棘(ジ・キョク)を養わば、則ち賤場師と為さん。其の一指を養いて、而も其の肩背を失いて知らざれば、則ち狼疾人と為さん。飲食の人は、則ち人之を賤む。其の小を養いて以て大を失うが為なり。飲食の人も失うこと有る無ければ、則ち口腹豈に適だ尺寸の膚の為のみならんや。」
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言志四録・言志後録 第十五条 今日学ばずして来日有りと謂ふ勿れ凡そ人の宜しく急に做すべき所の者は、肯へて急に做さず、必ずしも急に做さざるべき者は、卻って急に做さんと要す。皆錯慮なり。斯の学の如きは、即ち当下の事、即ち急務実用の事なり。今日学ばずして来日有りと謂ふ勿れ。讌を張り客を会し、山に登り湖に泛ぶが如き、凡そ意に適ふ游観の事は、則ち宜しく今日為さずとも猶ほ来日有りと謂ひて可なり。
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孟子・告子章句上孟子曰く、「今、無名の指、屈して信びざる有り。疾痛して事に害あるに非ざるなり。如し能く之を信ばす者有れば、則ち秦楚の路をも遠しとせず。指の人に若かざるが為なり。指の人に若かざるは、則ち之を惡むことを知る。心の人に若かざるは、則ち惡むことを知らず。此を之れ類を知らずと謂うなり。」
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論語・顔淵篇子貢、政を問う。子曰く、「食を足し、兵を足し、民之を信ず。」子貢曰く、「必ず已むを得ずして去らば、斯の三者に於いて何をか先にせん。」曰く、「兵を去らん。」子貢曰く、「必ず已むを得ずして去らば、斯の二者に於いて何をか先にせん。」曰く、「食を去らん。古より皆死有り、民信無くんば立たず。」
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論語・郷党篇廄焚けたり。子、朝より退きて曰く、「人を傷つけたるか。」馬を問わず。
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孟子・盡心章句上孟子曰く、「知者は知らざること無きなり。當に務むべきを之れ急と為す。仁者は愛せざること無きなり。賢を親しむを急にするを之れ務と為す。堯舜の知にして物に遍からざるは、先務を急にすればなり。堯舜の仁にして人を愛するに遍らざるは、賢を親しむを急にすればなり。三年の喪を能くせずして、緦(シ)・小功を之れ察し、放飯・流歠(セツ)して、齒決すること無きを問う、是を之れ務めを知らずと謂う。」
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