韓非子 / 備內第十七
故王良愛馬,越王勾踐愛人,爲戰與駞。醫善吮人之傷,含人之血,非骨肉之親也,利所加也。
新字:故王良愛馬,越王勾践愛人,為戦与駞。医善吮人之傷,含人之血,非骨肉之親也,利所加也。
書き下し
醫善く人の瘍を吮い、人の血を含むは、骨肉の親に非ざるなり。利の加わる所なり。
現代語訳
医者が(当時は卑しいとされた)患者の膿(瘍)を吸い出し、血を含んで(治療する)のは、家族愛(骨肉の親)からではない。そうすれば(治療費という)利益(利)が得られるからである。
解説
医者が患者の膿を口で吸い出し、血に触れてまで治療にあたるのは、家族のような情があるからではない。そうすることで治療の礼金という利益が得られるからだ、と韓非は言います。人が骨身を惜しまず働くのは、多くの場合、忠誠心や情の深さからというよりも、それによって給料や役目の向上といった見返りが得られるからです。これは冷たい見方に思えるかもしれませんが、裏を返せば、頑張った人にきちんとした見返りが返る仕組みさえあれば、人は自然と力を尽くすということでもあります。会社の給料や昇進だけでなく、家庭でのお手伝いへのねぎらいの言葉、地域の役目を引き受けてくれた人への感謝の一言も同じ働きをします。人を動かそうとする者は、情に頼るだけでなく、頑張りに見合う見返りをきちんと用意する仕組みを整えることを軽視してはいけません。
この章句が説くこと
インセンティブ動機付け利益報酬やりがい搾取
関連する章句
-
『韓非子』內儲說上七術第三十婦人は蠶を拾い、漁者は鱧を握る。利の在る所は、則ち其の悪む所を忘れて、皆な孟賁と為る。
-
『韓非子』說林下二十三漁者は鱧を持ち、婦人は蠶を拾う。利の在る所、皆な孟賁・諸と為る。
-
『韓非子』外儲說左上第三十二夫れ庸を賣いて播耕する者は、主人家を費やして食を美にし...庸客力を致して疾く耘耕し...皆な自ら為にするの心を挟めばなり。
-
『韓非子』內儲說上七術第三十魯人積澤を焼く。天北風し、火南に倚り、國を焼かんことを恐る。...仲尼曰く、「夫れ獣を逐う者は楽しみて罰無く、火を救う者は苦みて賞無し。此れ火の救わるる無き所以なり。」...乃ち令を下して曰く、「火を救わざる者は、降北の罪に比し、獣を逐う者は、禁に入るの罪に比せん。」...令下りて未だ遍からざるに、火は巳に救わる。
-
『韓非子』說難第十二説く所は名高を為すに出づる者なるに、而も之に説くに厚利を以てせば...(中略)...説く所は厚利に出づる者なるに、而も之に説くに名高を以てせば...
-
老子・第75章民の饑うるは、其の上の税を食むことの多きを以てなり。是を以て饑う。民の治め難きは、其の上の有為なるを以てなり。是を以て治め難し。民の死を軽んずるは、其の上の生を求むることの厚きを以てなり。是を以て死を軽んず。夫れ唯だ生を以て為すこと無き者は、是れ生を貴ぶより賢れり。