韓非子 / 二柄第七
此人主失刑德之患也。夫虎之所以能服狗者,爪牙也,使虎釋其爪牙而使狗用之,則虎反服於狗矣。
新字:此人主失刑徳之患也。夫虎之所以能服狗者,爪牙也,使虎釈其爪牙而使狗用之,則虎反服於狗矣。
書き下し
夫の虎の能く狗を服する所以の者は、爪牙なり。虎をして其の爪牙を釋てしめて狗をして之を用いしめば、則ち虎は反って狗に服せん。
現代語訳
そもそも虎が犬を従わせられるのは、「爪」と「牙」を持っているからだ。もし虎がその爪と牙を手放して犬に使わせれば、虎は逆に犬に従うことになる。
解説
そもそも虎が犬を従わせられるのは、鋭い爪と牙を持っているからです。もし虎がその爪と牙を手放して、代わりに犬にそれを使わせるようになれば、立場は逆転し、虎の方が犬に従うようになってしまいます。ここでいう爪と牙とは、人を褒めたり罰したりする力、つまり人の評価や処遇を決める権限のことです。人の上に立つ人がこの権限を手放し、部下や周りの人に評価をすっかり任せてしまえば、いつの間にか主導権は相手に移り、上に立つ人自身が周りに振り回される立場になってしまいます。これは会社の管理職に限らず、家庭で本来しつけの権限を持つはずの親が、子どもの機嫌を取ることばかり優先して叱れなくなる場合にも似ています。人をまとめる立場にある人は、褒めることと戒めることの力を、自分の手の中にきちんと保っておく必要があるのです。
この章句が説くこと
人事権権限リーダーの武器統制力権力
関連する章句
-
『韓非子』二柄第七人主、自ら其の刑徳を用うれば、則ち群臣、其の威を畏れて其の利に歸せん。
-
『韓非子』老第二十一人君賞を見(あらわ)せば、人臣其の勢を用ひ、人君罰を見せば、人臣其の威に乘ず。故に曰く、「邦の利器は、以て人に示す可からず」と。越王は吴に入りて宦(つか)へ、之に齊を伐たしめて以て吳を弊(つか)らす。吳兵既に齊人に艾陵に勝ち、之を江・濟に張り、之を黄池に強くす、故に五湖に制す可かりき。
-
論語・季氏篇孔子曰く、天下に道有れば、則ち礼楽征伐は天子より出づ。天下に道無ければ、則ち礼楽征伐は諸侯より出づ。諸侯より出づれば、蓋し十世にして失わざるは希なり。大夫より出づれば、五世にして失わざるは希なり。陪臣国命を執れば、三世にして失わざるは希なり。天下に道有れば、則ち政は大夫に在らず。天下に道有れば、則ち庶人は議せず。
-
『韓非子』二柄第七明主の其の民を導制する所の者は、二柄のみ。二柄とは、刑・徳なり。
-
論語・八佾篇林放礼の本を問う。子曰く、「大なるかな問いや。礼は其の奢らんよりは、寧ろ倹せよ。喪は其の易めんよりは、寧ろ戚めよ。」
-
『韓非子』外儲説右上第三十四夫れ鳥を馴らす者は其の下翎を断つ。其の下翎を斷たば、則ち必ず人に恃みて食う。焉んぞ馴れざるを得んや。夫れ明主の臣を畜うも亦た然り。