韓非子 / 外儲說左下第三十三
故明主者,不恃其不我叛也,恃吾不可叛也;不恃其不我欺也,恃吾不可欺也。
書き下し
故に明主は、其の我に叛かざるを恃まず、吾が叛く可からざるを恃むなり。...吾が欺く可からざるを恃むなり。
現代語訳
それゆえ賢明な君主は、臣下が自分に背かないことを頼みにするのではなく、自分が背かれない(背くことができない)状態であることを頼みにする。自分を欺かないことを頼みにするのではなく、自分が欺かれない(欺くことができない)状態であることを頼みにする。
解説
賢い君主は、家来が自分を裏切らないだろうという期待や、家来の善意を当てにはしません。そうではなく、そもそも裏切ることができないような仕組みを整えておくことを頼みとします。人を欺かないだろうと信じるのではなく、欺こうとしても欺けない状態を作っておくのです。これは、人の心を信じるなという冷たい話ではなく、人の心はうつろいやすく、状況次第でいくらでも変わってしまうものだという現実を見つめた考え方です。家庭でも、家族を「信じているから大丈夫」と鍵もかけず貴重品を放っておくより、きちんと保管の決まりを作っておいた方が、結局は誰も疑わずに済みます。職場でも、お金や大事な情報の扱いは、担当者の人柄の良し悪しにかかわらず、不正がそもそも起きにくい確かめの手順を作っておくべきです。人の善意に頼るより、仕組みで支える方が、人間関係も長続きします。
この章句が説くこと
性悪説仕組み化内部統制リスク管理性善説の否定
関連する章句
-
『韓非子』八説第四十七故に有道の主は、清潔の吏を求めずして、必ず知るの術を務むるなり。・・・是れ境内の事盡く衡石の如くなればなり。
-
『韓非子』顯學第五十夫れ聖人の國を治むるは、人の吾が為に善なるを恃まずして、而して其の非を為すを得ざるを用うるなり。
-
『韓非子』五蠹第四十九故に明主の道は、法を一にして智を求めず、術を固くして信を慕わず。故に法敗れずして、群官姦詐無し。
-
『韓非子』守道第二十六法を立つるは・史に備うる所以に非ざるなり、庸主をして能く盗跖を止めしむる所以なり。
-
『韓非子』外儲說左下第三十三陽虎は之を取ることを務め、我は之を守ることを務む。...遂に術を執りて之を御す。陽虎敢て非を為さず。
-
『韓非子』難三第三十八姦必ず耳目の及ぶ所を待ちて而る後之を知らば、則ち鄭國の姦を得る者寡からん。... 故に宋人語りて曰く、『天下を以て之が羅と為せば、則ち雀は失われず。』