十七条憲法 / 第十五条
背私向公。是臣道也。凡人有私必有恨。有恨必非同。非同則以私妨公。以情違制。害法損公。故第一章云。上下和諧。其亦是情歟。
書き下し
私(わたくし)に背(そむ)き公(おおやけ)に向(むか)うは、是(こ)れ臣(しん)の道(みち)なり。凡(およ)そ人に私(わたくし)有れば必ず恨(うら)み有り。恨み有れば必ず同(どう)ぜず。同ぜざれば則(すなわ)ち私を以(もっ)て公(おおやけ)を妨(さまた)ぐ。情(じょう)を以て制(せい)に違(たが)い、法(ほう)を害(そこ)ない公を損(そこ)なう。故(ゆえ)に第一章(はじめのまき)に云(い)わく、上下(かみしも)和諧(わかい)せよと。それ亦(また)是(こ)の情(こころ)か。
現代語訳
私心を捨てて公務に向かうのが、臣下(組織人)の道である。人には私心があるため、どうしても他人への恨みや妬みが生じる。恨みがあれば協調できず、私情で公務を妨げることになる。私情でルールに背き、法を犯して公を損なう。だから第一条で「和をもって貴しとなす」と言ったのは、この私情を排するためである。
解説
第十五条は「私に背き公に向かうは、是れ臣の道なり」と説きます。人には誰しも私心があり、私心があれば必ず恨みが生まれ、恨みがあれば人と協調できず、私情で公務を妨げてしまうという因果を、条文は順を追って描きます。リーダーシップにおいて最大の敵は、まさにこの「私情」です。派閥争いや好き嫌い、個人的な恨みを業務に持ち込むことは、組織の判断を歪めます。だからこそ第一条の「和をもって貴しとなす」に立ち返り、組織のミッション(公)を個人の感情(私)より優先させる規範を、リーダー自らが率先して示す必要があるのです。
この章句が説くこと
職業倫理公私混同ミッションコンプライアンス
関連する章句
-
『養生訓』巻第六・択医一我よりまへに、其病人に薬を与へし医の治法、たとひあやまるとも、前医をそしるべからず。他医をそしり、わが術にほこるは、小人のくせなり。医の本意にあらず。其心ざまいやし。聞く人に思ひ下さるるもあさまし。
-
『驢鞍橋』卷上一日或る長老来て曰く、衆僧に経を多く誦せ給ふ事御無用也。誦経する僧も心根は誦ざる僧と替る事なし。師聞て曰く、縦ひ心は替らずとも誦経して亡者を弔ひ、経に替へて飯を喰ふはまだよし。徒に食するは盗み喰ひ也。心こそ替らずとも責めて盗み喰せぬがよき也。
-
言志四録・言志晩録 別存 第四十三条 正と公の二字公晩年余に謂ひて曰く、「吾職に在ること四十九年、幸ひに首領を全うす。訣は二字に在り。之を識るや否や」と。余請ひ問ふ。公曰く、「正の字、公の字」と。余其の言の虚ならざるに服す。公既に館を捐つ。其の翌辛丑、朝政一新す。図らざりき、余濫りに擢挙を蒙り、晩に仕途に就かんとは。官事諳んぜず、暗室に入るが如し。忽ち公の言を憶ひ、奉じて以て周旋す。庶はくは亦能く首領を全うして以て終らん。
-
言志四録・南洲手抄凡そ事を作すには、須らく天に事ふるの心あるを要すべし。人に示すの念あるを要せず。
-
十七条憲法 第八条群卿百寮(ぐんけいひゃくりょう)、早(つと)に朝(まい)りて晏(おそ)く退(しりぞ)け。公事(くじ)盬(しお)きこと靡(な)く、終日(ひねもす)にも尽(つ)くし難(がた)し。是(ここ)を以(もっ)て遅(おそ)く朝(まい)れば急(きゅう)に逮(およ)ばず、早く退(しりぞ)けば必(かなら)ずその功(こう)を尽(つ)くさず。
-
『韓非子』飾邪第十九故に公私に分有り。...明主上に在れば、則ち人臣私心を去り公義を行う。亂主上に在れば、則ち人臣公義を去り私心を行う。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る