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十善法語 / 巻第十・不邪見戒之上

壯熱ニ惱マサルル者ハ譫言シ煩悶シテ死スル。老テ盡ルニ歸スル者ハ羸羸トシテ陽氣カ去ル。陽氣去盡テ形木石ノ如ク。冷骨髓ニ徹スル。膓胃腐爛シテ臭氣外ニ溢ルル。燒ケハ灰埋メハ土ニ成ル。此身滅シテ其心何レノ處ニ殘ルヘキソ。燈火ヲ吹滅スル如ク。更ニ一物ノ留ルヘキ物モナケレハ。去ルヘキ物モナキト。マツ是カ極底下麁相ノ斷見ト云モノシヤ。此樣ニ見定レハ。因果報應ノ理ハ虛誕ニ極マル。善ヲ作シテノ善報モナク。惡ヲ作シテ惡ノ報モナク。カラクリ人形ノソコネタルト同シ事ト云ハネハナラヌ。

新字:壮熱ニ悩マサルル者ハ譫言シ煩悶シテ死スル。老テ尽ルニ帰スル者ハ羸羸トシテ陽気カ去ル。陽気去尽テ形木石ノ如ク。冷骨髄ニ徹スル。膓胃腐爛シテ臭気外ニ溢ルル。焼ケハ灰埋メハ土ニ成ル。此身滅シテ其心何レノ処ニ残ルヘキソ。灯火ヲ吹滅スル如ク。更ニ一物ノ留ルヘキ物モナケレハ。去ルヘキ物モナキト。マツ是カ極底下麁相ノ断見ト云モノシヤ。此様ニ見定レハ。因果報応ノ理ハ虚誕ニ極マル。善ヲ作シテノ善報モナク。悪ヲ作シテ悪ノ報モナク。カラクリ人形ノソコネタルト同シ事ト云ハネハナラヌ。

書き下し

壮熱ニ悩マサルル者ハ譫言シ煩悶シテ死スル。老テ尽ルニ帰スル者ハ羸羸トシテ陽気カ去ル。陽気去尽テ形木石ノ如ク。冷骨髄ニ徹スル。膓胃腐爛シテ臭気外ニ溢ルル。焼ケハ灰埋メハ土ニ成ル。此身滅シテ其心何レノ処ニ残ルヘキソ。灯火ヲ吹滅スル如ク。更ニ一物ノ留ルヘキ物モナケレハ。去ルヘキ物モナキト。マツ是カ極底下麁相ノ断見ト云モノシヤ。此様ニ見定レハ。因果報応ノ理ハ虚誕ニ極マル。善ヲ作シテノ善報モナク。悪ヲ作シテ悪ノ報モナク。カラクリ人形ノソコネタルト同シ事ト云ハネハナラヌ。

現代語訳

高熱に苦しむ者はうわごとを言い、もだえ苦しんで死ぬ。老いて尽きるところに帰する者は、弱り衰えて陽気が去る。陽気が去り尽きると、形は木や石のようになり、冷たさが骨髄にまで徹する。腸胃は腐りただれて臭気が外にあふれる。焼けば灰、埋めれば土になる。この身が滅びて、その心がどこに残るというのか。灯火を吹き消すように、何一つ留まるべきものもなければ、去ってゆくべきものもない、と。まずこれが、最も底の浅い粗雑な断見というものである。このように見定めれば、因果の報いの道理はでたらめに決まってしまう。善を行っての善の報いもなく、悪を行っての悪の報いもなく、からくり人形が壊れたのと同じことだと言わなければならない。

解説

最も粗雑な断見として、人の死を灯火が消えるように何も残らないとする見方を描く段である。尊者は死にゆく身体の変化を生々しく語ったうえで、この見方に立てば因果の報いはでたらめとなり、人はからくり人形が壊れるのと同じになってしまうと指摘する。からくり人形は江戸時代に広く親しまれた機械仕掛けで、聞き手には身近なたとえであった。死後に何も残らないと考えれば、行いの善悪を問う根拠も失われるという論である。自分の行いの意味をどこに見いだすかを考えさせる。

この章句が説くこと

断見因果報いからくり人形無常

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