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学問のすゝめ / 九編・生々したる痕跡を遺して後世子孫に伝う

右所論のごとく、古の時代より有力の人物、心身を労して世のために事をなす者少なからず。今この人物の心事を想うに、豈衣食住の饒かなるをもってみずから足れりとする者ならんや。人間交際の義務を重んじて、その志すところけだし高遠にあるなり。今の学者はこの人物より文明の遺物を受けて、まさしく進歩の先鋒に立ちたるものなれば、その進むところに極度あるべからず。今より数十の星霜を経て後の文明の世に至れば、また後人をしてわが輩の徳沢を仰ぐこと、今わが輩が古人を崇むがごとくならしめざるべからず。概してこれを言えば、わが輩の職務は今日この世に居り、わが輩の生々したる痕跡を遺して遠くこれを後世子孫に伝うるの一事にあり。その任また重しと言うべし。

書き下し

右所論のごとく、古の時代より有力の人物、心身を労して世のために事をなす者少なからず。今この人物の心事を想うに、豈衣食住の饒かなるをもってみずから足れりとする者ならんや。人間交際の義務を重んじて、その志すところけだし高遠にあるなり。今の学者はこの人物より文明の遺物を受けて、まさしく進歩の先鋒に立ちたるものなれば、その進むところに極度あるべからず。今より数十の星霜を経て後の文明の世に至れば、また後人をしてわが輩の徳沢を仰ぐこと、今わが輩が古人を崇むがごとくならしめざるべからず。概してこれを言えば、わが輩の職務は今日この世に居り、わが輩の生々したる痕跡を遺して遠くこれを後世子孫に伝うるの一事にあり。その任また重しと言うべし。

現代語訳

右に論じたように、古い時代から力のある人物が心身を労して世のために事をなした者は少なくありません。今この人物の心を想像すると、どうして衣食住が豊かであることで自ら足れりとする者でしょうか。人の交わりの義務を重んじて、その志すところは思うに高く遠いのです。今の学者はこの人物から文明の遺産を受け、まさしく進歩の先鋒に立った者ですから、その進むところに限度があってはなりません。今から数十年の歳月を経た後の文明の世に至れば、また後の人に私たちの恵みを仰がせること、今私たちが古人を崇めるようにしなければなりません。まとめて言えば、私たちの職務は今日この世にいて、私たちが生きた痕跡を残し、遠くこれを後世の子孫に伝えるという一事にあります。その任務もまた重いと言うべきです。

解説

受け取った側の義務が定義されます。古人から遺産を受けたのだから、数十年後の人に同じように仰がれるものを残せ、と。恩返しの相手が過去ではなく未来に設定されているのが特徴です。そして職務が一文にまとめられます。生きた痕跡を残して後世に伝えること。九編の冒頭で低く見積もられた一人の働きが、ここで世代を跨ぐ仕事として置き直され、その任は重いと結ばれます。
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この章句が説くこと

遺産返礼未来痕跡責任

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