塩鉄論 / 疾貪篇
賢良曰:「古之制爵祿也、卿大夫足以潤賢厚士、士足以優身及黨、庶人為官者、足以代其耕而食其祿。今小吏祿薄、郡國繇役、遠至三輔、粟米貴、不足相贍。常居則匱於衣食、有故則賣畜粥業。非徒是也、繇使相遣、官庭攝追、小計權吏、行施乞貸、長吏侵漁、上府下求之縣、縣求之鄉、鄉安取之哉?語曰:『貨賂下流、猶水之赴下、不竭不止。』今大川江河飲巨海、巨海受之、而欲溪谷之讓流潦、百官之廉、不可得也。夫欲影正者端其表、欲下廉者先之身。故貪鄙在率不在下、教訓在政不在民也。」
新字:賢良曰:「古之制爵禄也、卿大夫足以潤賢厚士、士足以優身及党、庶人為官者、足以代其耕而食其禄。今小吏禄薄、郡国繇役、遠至三輔、粟米貴、不足相贍。常居則匱於衣食、有故則売畜粥業。非徒是也、繇使相遣、官庭摂追、小計権吏、行施乞貸、長吏侵漁、上府下求之県、県求之鄉、鄉安取之哉?語曰:『貨賂下流、猶水之赴下、不竭不止。』今大川江河飲巨海、巨海受之、而欲渓谷之譲流潦、百官之廉、不可得也。夫欲影正者端其表、欲下廉者先之身。故貪鄙在率不在下、教訓在政不在民也。」
書き下し
賢良曰く、古の爵祿を制するや、卿大夫は以て賢を潤し士を厚くするに足り、士は以て身を優にし黨に及ぼすに足り、庶人の官と為る者は、以て其の耕に代えて其の祿を食むに足る。今、小吏は祿薄く、郡國の繇役は遠く三輔に至り、粟米は貴くして、相い贍うに足らず。常居すれば則ち衣食に匱しく、故有れば則ち畜を賣り業を粥ぐ。徒だ是のみに非ず、繇使相い遣り、官庭に攝追し、小計權吏、行施乞貸し、長吏は侵漁し、上府は下して之を縣に求め、縣は之を鄉に求む、鄉は安くにか之を取らんや。語に曰く、『貨賂の下に流るるは、猶お水の下に赴くがごとし、竭きざれば止まず』と。今、大川江河は巨海に飲がれ、巨海之を受く、而して溪谷の流潦を讓らんことを欲するも、百官の廉なるは、得べからざるなり。夫れ影の正しからんことを欲する者は其の表を端しくし、下の廉ならんことを欲する者は之を身に先んず。故に貪鄙は率に在りて下に在らず、教訓は政に在りて民に在らざるなり。
現代語訳
賢良が言った。「昔、爵禄を定めたときは、卿大夫の禄は賢者を潤し士を厚遇するに足り、士の禄は自分の暮らしを楽にして一族にまで及ぼすに足り、庶人で官についた者の禄は、耕作をやめてもそれで食べていけるだけありました。いまは下級官吏の禄は薄く、郡国の労役は遠く三輔にまで及び、穀物は高くて、まかないきれない。普段は衣食に事欠き、何かあれば家畜を売り家業を手放す。それだけではありません。使役に人を出し合い、役所の庭で追い立てられ、下役の権限を持つ吏は方々に施しを求めて借り、上級の役人は搾り取る。上の役所は下ろして県に求め、県は郷に求める。郷はいったいどこから取ればよいのですか。ことわざに言います。『財貨や賄賂が下へ流れるのは、水が低い方へ向かうようなもので、尽きるまで止まらない』と。いま大河も長江も黄河も大海に吸い込まれ、大海はそれを受け取る。それでいて谷川に溜まり水を譲れと求めても、百官が清廉であることなど、得られるはずがありません。そもそも影をまっすぐにしたい者は、まず物差しの方をまっすぐにする。下の者を清廉にしたい者は、まず自分の身から始める。だから貪りは率いる側にあって下にあるのではなく、教え導く責任は政治にあって民にあるのではないのです」
解説
この章句が説くこと
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『韓非子』亡徵第十五官職は重を以て求む可く、爵祿は貨を以て得可き者は、亡ぶ可きなり。
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論語・衛霊公篇子曰わく、君子はこれを己に求め、小人はこれを人に求む。
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論語・季氏篇孔子曰く、禄の公室を去ること、五世なり。政の大夫に逮ぶこと、四世なり。故に夫の三桓の子孫、微なり。
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論語・里仁篇子曰わく、父母在すれば、遠く遊ばず。遊ぶに必ず方有り。
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葉隠・聞書第一役儀(やくぎ)を危(あぶ)なきと思うは、すくたれ者なり。外(ほか)の事、私(わたくし)の事にて仕損(しそん)ずるとこそ辱(はじ)にてもあるべし。その事に備(そな)わりたる身なれば、その事にて仕損ずるは定まりたることなり。不調法(ぶちょうほう)にて何と相勤(あいつと)むべきやとの心遣(こころづか)いは、あるべき事なり。