長短経 / 詭俗
臧武仲曰、“孟孫之惡我、藥石也、季孫之愛我、美疢也。疢毒滋厚、藥石猶生我。”此惡之而為美者也。〔孫卿曰、“非我而當者、吾師也、是我而當者、吾友也、謟諛我者、吾賊也。”商君曰、“貌言、華也、至言、實也、苦言、藥也、甘言、疾也。〕韓子曰、“為故人行私、謂之不棄、以公財分施、謂之仁人、輕禄重身、謂之君子、枉法曲親、謂之有行、棄官寵交、謂之有俠、離俗遁世、謂之髙慤交争逆令、謂之剛材、行惠取衆、謂之得人。不棄者、吏有姦也、仁人者、公財損也、君子者、人難使也、有行者、法制毁也、有俠者、官職曠也、髙慤者、人不事也、剛材者、令不行也、得人者、君上孤也。此八者、匹夫之私譽、而人主之大敗也。”〔人主不察社稷之利害、而用匹夫之私譽、家國無危亂、不可得也。〕
新字:臧武仲曰、“孟孫之悪我、薬石也、季孫之愛我、美疢也。疢毒滋厚、薬石猶生我。”此悪之而為美者也。〔孫卿曰、“非我而当者、吾師也、是我而当者、吾友也、謟諛我者、吾賊也。”商君曰、“貌言、華也、至言、実也、苦言、薬也、甘言、疾也。〕韓子曰、“為故人行私、謂之不棄、以公財分施、謂之仁人、軽禄重身、謂之君子、枉法曲親、謂之有行、棄官寵交、謂之有侠、離俗遁世、謂之高慤交争逆令、謂之剛材、行恵取衆、謂之得人。不棄者、吏有姦也、仁人者、公財損也、君子者、人難使也、有行者、法制毀也、有侠者、官職曠也、高慤者、人不事也、剛材者、令不行也、得人者、君上孤也。此八者、匹夫之私誉、而人主之大敗也。”〔人主不察社稷之利害、而用匹夫之私誉、家国無危乱、不可得也。〕
書き下し
臧武仲曰く「孟孫の我を悪むは、薬石なり。季孫の我を愛するは、美疢なり。疢の毒は滋々厚く、薬石は猶お我を生かす」と。此れ之を悪みて美と為す者なり。〔孫卿曰く「我を非として当たる者は、吾が師なり。我を是として当たる者は、吾が友なり。我に諂諛する者は、吾が賊なり」と。商君曰く「貌言は華なり。至言は実なり。苦言は薬なり。甘言は疾なり」と。〕韓子曰く「故人の為に私を行う、之を棄てずと謂う。公財を以て分施す、之を仁人と謂う。禄を軽んじ身を重んず、之を君子と謂う。法を枉げ親を曲ぐ、之を行い有りと謂う。官を棄てて交わりを寵す、之を侠有りと謂う。俗を離れ世を遁る、之を高愨と謂う。交々争いて令に逆らう、之を剛材と謂う。恵を行いて衆を取る、之を人を得と謂う。棄てざる者は、吏に姦有るなり。仁人なる者は、公財損なわるるなり。君子なる者は、人使い難きなり。行い有る者は、法制毀るるなり。侠有る者は、官職曠しきなり。高愨なる者は、人事えざるなり。剛材なる者は、令行われざるなり。人を得る者は、君上孤なるなり。此の八者は、匹夫の私誉にして、人主の大敗なり」と。〔人主社稷の利害を察せずして、匹夫の私誉を用うれば、家国危乱無きこと、得べからざるなり。〕
現代語訳
臧武仲は言った。「孟孫が私を憎むのは薬や鍼のようなものだ。季孫が私を愛するのは心地よい病のようなものだ。病の毒はますます深くなるが、薬や鍼はまだ私を生かしてくれる」。これが、憎まれることがかえって美となる例である。〔荀子は「私を非として正しい者は私の師、私を是として正しい者は私の友、私にへつらう者は私の賊である」と言った。商鞅は「見かけのよい言葉は花、真心の言葉は実、苦い言葉は薬、甘い言葉は病である」と言った。〕韓非子は言う。「古い友人のために私情で便宜を図るのを、見捨てない人と言う。公の財を配るのを、仁ある人と言う。俸禄を軽んじ自分の身を重んじるのを、君子と言う。法を曲げて身内をかばうのを、行いのある人と言う。官職を捨てて交友を大事にするのを、侠気がある人と言う。俗世を離れて隠れるのを、高潔な人と言う。争って命令に逆らうのを、剛い人材と言う。恵みを施して人を集めるのを、人心を得ると言う。しかし見捨てない人がいれば役人に不正が生じ、仁ある人がいれば公の財が損なわれ、君子がいれば人を使いにくく、行いのある人がいれば法制が壊れ、侠気のある人がいれば官職が空き、高潔な人がいれば人が仕えず、剛い人材がいれば命令が行われず、人心を得る者がいれば君主が孤立する。この八つは庶民の間の私的な誉れで、君主にとっては大きな失敗である」。〔君主が国家の利害を見極めずに庶民の私的な誉れを用いれば、家も国も危うく乱れずにはいられない。〕
解説
この章句が説くこと
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『韓非子』難言第三范雎は魏に脅(あばら)を折らる。此の十數人は、皆世の仁賢忠良にして道術有るの士なり、不幸にして悖亂闇惑の主に遇ひて死せり。然らば則ち賢聖と雖も死亡を逃れ戮辱を避くる能はざる者は、何ぞや。則ち愚者は說き難ければなり、故に君子は言ひ難きなり。且つ至言は耳に忤(さか)らひて心に倒(もと)る、賢聖に非ざれば能く聽く莫し、願はくは大王之を熟察せよ。
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『韓非子』安危第二十五病みて痛みを忍ばざれば、則ち扁鵲の巧を失い、危うくして耳に拂らざれば、則ち聖人の意を失う。
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『長短経』詭順〔韓子曰く「斉・晋の嗣を絶つは、亦た宜ならずや。桓公は能く管仲の功を用いて、射鉤の怨みを忘る。文公は能く寺人の言を聴きて、斬袪の罪を棄つ。桓公・文公は能く二子を容る。後世の君は、明は二公に及ぶこと能わず。後世の臣は、賢は二子に如かず。不忠の臣を以て、不明の君に事う。君知らざれば、則ち子罕・田常の劫有り。之を知れば、則ち管仲・寺人を以て自ら解く。君必ず誅せずして、自ら以為えらく桓・文の徳有りと。是れ其の讐を臣とするなり。桓・文有りて後世の君自ら以て賢と為して惑わずんば、則ち後嗣無しと雖も、亦た可ならずや」と。〕