牧民忠告 / 受代
近代東原吳曼慶為某所憲長,既代,諄諄告新上者曰:「某事有少許未完,某獄已具而未決,某案有如是可疑,某人有許能可用。」一部之政,毫分縷析,惟恐其不知,知之惟恐其不盡。嗚呼!今之仕者,方其在職,尚不肯用心,況已代去,而敢責其如是哉?
新字:近代東原吳曼慶為某所憲長,既代,諄諄告新上者曰:「某事有少許未完,某獄已具而未決,某案有如是可疑,某人有許能可用。」一部之政,毫分縷析,惟恐其不知,知之惟恐其不尽。嗚呼!今之仕者,方其在職,尚不肯用心,況已代去,而敢責其如是哉?
書き下し
近代、東原(とうげん)の呉曼慶(ごまんけい)、某(それがし)の所の憲長と為り、既に代わるや、諄諄(じゅんじゅん)として新たに上(のぼ)る者に告げて曰く、「某事は少許(しょうきょ)未だ完(お)えず、某獄(ぼくごく)は已(すで)に具(そな)わりて未だ決せず、某案は是(か)くの如く疑うべき有り、某人は許(すこ)しの能有りて用うべし」と。一部の政、毫分縷析(ごうぶんるせき)し、惟だ其の知らざるを恐れ、之を知らしむること惟だ其の尽くさざるを恐る。嗚呼、今の仕うる者、方(まさ)に其の職に在るすら、尚お心を用うるを肯(がえ)んぜず、況んや已に代わり去りて、敢えて其の是くの如きを責めんや。
現代語訳
近頃、東原の呉曼慶がある地の長官であったとき、交代するにあたって、新任者に懇切丁寧にこう告げた。「この件はまだわずかに未完成である。この訴訟はもう調書はできているがまだ判決していない。この案件はこれこれの点が疑わしい。この人物にはこれこれの能力があり登用してよい」と。管轄の政務を髪の毛を分けるように細かく説明し、ただ相手が知らないままになることを恐れ、伝えたら伝えたで足りないところがあるのではと恐れた。ああ、今の役人は、その職にある間ですら心を用いようとしないのに、まして既に交代して去った後で、このような引き継ぎの丁寧さを求めることなどできようか。
解説
本条は、呉曼慶という実在の官吏の逸話を引き、離任にあたっての丁寧な引き継ぎのあるべき姿を示す。未完の案件、係属中の訴訟、疑わしい事案、有能な人材の情報まで、細部にわたり後任に伝えようとする姿勢は、自分の在職中の職責を最後まで果たそうとする誠実さの表れである。末尾では、現職中ですら十分な引き継ぎ資料を残さない怠慢な役人を痛烈に批判している。現代の業務でも、異動や退職の際の引き継ぎの質は、後任の立ち上がりの速さと組織全体の損失の大きさを左右する。詳細な記録を残すことは、自分の仕事への責任の取り方そのものである。
この章句が説くこと
告以旧政引き継ぎ呉曼慶責任
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