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呂氏春秋 / 察傳②

凡聞言必熟論,其於人必驗之以理。魯哀公問於孔子曰:「樂正夔一足,信乎?」孔子曰:「昔者舜欲以樂傳教於天下,乃令重黎舉夔於草莽之中而進之,舜以為樂正。夔於是正六律,和五聲,以通八風,而天下大服。重黎又欲益求人,舜曰:『夫樂,天地之精也,得失之節也,故唯聖人為能和。樂之本也。夔能和之,以平天下。若夔者一而足矣。』故曰夔一足,非一足也。」宋之丁氏,家無井而出溉汲,常一人居外。及其家穿井,告人曰:「吾穿井得一人。」有聞而傳之者曰:「丁氏穿井得一人。」國人道之,聞之於宋君,宋君令人問之於丁氏,丁氏對曰:「得一人之使,非得一人於井中也。」求能之若此,不若無聞也。

新字:凡聞言必熟論,其於人必験之以理。魯哀公問於孔子曰:「楽正夔一足,信乎?」孔子曰:「昔者舜欲以楽伝教於天下,乃令重黎舉夔於草莽之中而進之,舜以為楽正。夔於是正六律,和五声,以通八風,而天下大服。重黎又欲益求人,舜曰:『夫楽,天地之精也,得失之節也,故唯聖人為能和。楽之本也。夔能和之,以平天下。若夔者一而足矣。』故曰夔一足,非一足也。」宋之丁氏,家無井而出溉汲,常一人居外。及其家穿井,告人曰:「吾穿井得一人。」有聞而伝之者曰:「丁氏穿井得一人。」国人道之,聞之於宋君,宋君令人問之於丁氏,丁氏対曰:「得一人之使,非得一人於井中也。」求能之若此,不若無聞也。

書き下し

凡そ言を聞くには必ず熟論し、其の人に於けるや、必ず之を驗するに理を以てす。魯の哀公、孔子に問いて曰く、「樂正夔は一足なりとは、信なるか。」孔子曰く、「昔者、舜、樂を以て教えを天下に傳えんと欲し、乃ち重黎をして夔を草莽の中より舉げて之を進めしむ。舜以て樂正と為す。夔、是に於て六律を正し、五聲を和し、以て八風に通ぜしめて、天下大いに服す。重黎又益々人を求めんと欲す。舜曰く、『夫れ樂は天地の精なり、得失の節なり。故に唯だ聖人のみ能く和すと為す。樂の本なり、夔能く之を和して、以て天下を平らかにす。夔の若き者は一にして足れり。』故に夔は一にして足る、と曰う。一足に非ざるなり。」宋の丁氏は、家に井無くして出でて溉汲するに、常に一人外に居る。其の家、井を穿つに及び、人に告げて曰く、「吾井を穿ちて一人を得たり。」聞きて之を傳うる者有りて曰く、「丁氏井を穿ちて一人を得たり。」國人之を道い、之を宋君に聞す。宋君、人をして之を丁氏に問わしむ。丁氏對えて曰く、「一人の使いを得たり。一人を井中に得たるに非ざるなり。」能を求むるの此の若くんば、聞くこと無きに若かざるなり。

現代語訳

およそ言葉を聞くには必ずよく吟味し、その人物についても必ず道理に照らして検証しなければならない。魯の哀公が孔子に尋ねた。「楽正の夔は一本足だったというのは本当ですか。」孔子は答えた。「昔、舜が音楽によって教化を天下に広めようとして、重黎に命じて夔を民間から抜擢し推挙させました。舜は夔を楽正としました。夔はそこで六律を正し、五声を調和させ、八方の風に通じさせて、天下は大いに心服しました。重黎がさらに人材を増やそうとすると、舜は『そもそも音楽は天地の精であり、政治の得失を映す節度である。だから聖人だけがよくこれを調和できる。音楽は根本だ。夔はよくこれを調和させて天下を平らかにした。夔のような者は一人で十分だ』と言いました。だから『夔は一で足る』と言ったのです。一本足という意味ではありません。」宋の丁氏は、家に井戸がなく外へ出て水を汲むため、常に一人がその仕事にかかりきりだった。自分の家に井戸を掘ると、人に『私は井戸を掘って一人を得た』と告げた。これを聞いて伝える者が『丁氏は井戸を掘って中から一人を得た』と言い、国中の人が言いふらして宋の君主の耳にまで達した。宋君が人をやって丁氏に尋ねさせると、丁氏は『一人分の働きを得たのであって、井戸の中から人を掘り出したのではありません』と答えた。人づての話を求めることがこのようなありさまなら、聞かない方がましである。

解説

言葉は道理に照らして検証せよという主張を、二つの逸話で示す一段です。前半では、魯の哀公が「夔は一足(いっそく)」を「一本足」と誤解したのに対し、孔子が「夔のような名人は一人で十分だ」の意だと解き明かします。後半の宋の丁氏の話では、井戸を掘って水汲みの手間が省け『一人分の働きを得た』と言ったのが、伝わるうちに『井戸の中から人を掘り出した』に変わり、君主の耳にまで達しました。いずれも言葉が伝わる過程で意味がすり替わる好例です。呂氏春秋は、字面を鵜呑みにせず本人に確かめ道理で判断せよと説きます。うわさが誇張・変質して広まる仕組みは古今変わらず、情報の出所に当たって事実を確かめる姿勢の大切さは、現代の情報社会にもそのまま通じる教訓です。

この章句が説くこと

察伝夔一足丁氏穿井得一人誤解伝聞

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