淮南子 / 兵略訓
今人之與人,非有水火之勝也,而欲以少耦眾,不能成其功,亦明矣。兵家或言曰:「少可以耦眾。」此言所將,非言所戰也。或將眾而用寡者,勢不齊也;將寡而用眾者,用力諧也。若乃人盡其才,悉用其力,以少勝眾者,自古及今,未嘗聞也。神莫貴於天,勢莫便於地,動莫急於時,用莫利於人。凡此四者,兵之幹植也。然必待道而後行,可一用也。夫地利勝天時,巧舉勝地利,勢勝人。故任天者可迷也,任地者可束也,任人者可迫也,任人者可惑也。夫仁勇信廉,人之美才也,然勇者可誘也,仁者可奪也,信者易欺也,廉者易謀也。將眾者有一見焉,則為人禽矣。由此觀之,則兵以道理制勝,而不以人才之賢,亦自明矣。
新字:今人之与人,非有水火之勝也,而欲以少耦眾,不能成其功,亦明矣。兵家或言曰:「少可以耦眾。」此言所将,非言所戦也。或将眾而用寡者,勢不斉也;将寡而用眾者,用力諧也。若乃人尽其才,悉用其力,以少勝眾者,自古及今,未嘗聞也。神莫貴於天,勢莫便於地,動莫急於時,用莫利於人。凡此四者,兵之幹植也。然必待道而後行,可一用也。夫地利勝天時,巧舉勝地利,勢勝人。故任天者可迷也,任地者可束也,任人者可迫也,任人者可惑也。夫仁勇信廉,人之美才也,然勇者可誘也,仁者可奪也,信者易欺也,廉者易謀也。将眾者有一見焉,則為人禽矣。由此観之,則兵以道理制勝,而不以人才之賢,亦自明矣。
書き下し
今 人の人と、水火の勝有るに非ざるなり。而して少を以て眾に耦せんと欲するも、其の功を成す能わざること、亦た明らかなり。兵家 或いは言いて曰く、「少は以て眾に耦す可し」と。此れ將いる所を言うなり、戰う所を言うに非ざるなり。或いは眾を將いて寡を用うる者は、勢 齊しからざればなり。寡を將いて眾を用うる者は、力を用うること諧えばなり。人 其の才を盡くし、悉く其の力を用うるが若きに乃びては、少を以て眾に勝つ者は、古より今に及ぶまで、未だ嘗て聞かざるなり。神は天より貴きは莫く、勢は地より便なるは莫く、動は時より急なるは莫く、用は人より利なるは莫し。凡そ此の四つの者は、兵の幹植なり。然れども必ず道を待ちて而る後に行う。一に用う可きなり。夫れ地利は天時に勝ち、巧舉は地利に勝ち、勢は人に勝つ。故に天に任ずる者は迷う可く、地に任ずる者は束ぬ可く、人に任ずる者は迫る可く、人に任ずる者は惑わす可し。夫れ仁勇信廉は、人の美才なり。然れども勇なる者は誘う可く、仁なる者は奪う可く、信なる者は欺き易く、廉なる者は謀り易し。眾を將いる者に一つ焉に見わるること有らば、則ち人の禽と爲らん。此に由りて之を觀れば、則ち兵は道理を以て勝を制して、人才の賢を以てせざること、亦た自ら明らかなり。
現代語訳
人と人のあいだには、水が火に勝つような差はない。それなのに少数で多数に釣り合わせようとしても、功を成せないのは明らかである。兵法家がこう言うことがある、「少数でも多数に釣り合える」。これは率い方を言っているのであって、戦い方を言っているのではない。多数を率いながら少数しか使えないのは、勢いが揃っていないからである。少数を率いながら多数の働きを引き出せるのは、力の使い方が調っているからである。人がその才を尽くし、力を出し切っているところまで来れば、少数で多数に勝った例は、古今に聞いたことがない。霊妙さは天より貴いものがなく、勢いは地より都合のよいものがなく、動きは時より急なものがなく、用いるものは人より利のあるものがない。この四つは兵の幹である。それでも必ず道を待ってはじめて行える。一つにして用いるべきである。地の利は天の時に勝ち、巧みな挙は地の利に勝ち、勢いは人に勝つ。だから天に頼る者は迷わされ、地に頼る者は縛られ、人に頼る者は迫られ、惑わされる。仁も勇も信も廉も、人の美点である。それでも勇ある者は誘い出せ、仁ある者は奪える、信ある者は欺きやすく、清廉な者は謀りやすい。多数を率いる者にこの一つでも現れれば、人に捕らえられる。これによって見れば、兵は道理によって勝ちを制するのであって、人の才の優れによるのではない。
解説
この章句が説くこと
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『淮南子』兵略訓兵の隱議する所の者は、天道なり。圖畫する所の者は、地形なり。明言する所の者は、人事なり。勝を決する所以の者は、鈐勢なり。故に上將の兵を用うるや、上は天道を得、下は地利を得、中は人心を得たり。乃ち之を行うに機を以てし、之を發するに勢を以てす。是を以て破軍敗兵無し。中將に至るに及びては、上は天道を知らず、下は地利を知らず、專ら人と勢とを用う。未だ必ずしも萬全なる能わずと雖も、勝鈐 必ず多し。下將の兵を用うるや、博聞にして自ら亂れ、多知にして自ら疑う。居れば則ち恐懼し、發すれば則ち猶豫す。是を以て動けば人の禽と爲るなり。
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『淮南子』兵略訓今夫れ天下 皆な其の末を治むるを事とするを知りて、其の本を修むるを務むるを知る莫し。其の根を釋てて其の枝を樹うるなり。夫れ兵の勝を佐くる所以の者は眾くして、必ず勝つ所以の者は寡なし。甲 堅く兵 利く、車 固く馬 良く、畜積 給足し、士卒 殷軫なるは、此れ軍の大資なり。而して勝は焉に亡し。星辰日月の運、刑德奇該の數、背鄉左右の便に明らかなるは、此れ戰の助なり。而して全は焉に亡し。良將の必ず勝つ所以の者は、恒に原づかざるの智、道わざるの道有り。以て眾と同じくし難きなり。
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『淮南子』兵略訓兵の勝敗は、本 政に在り。政 其の民に勝ちて、下 其の上に附けば、則ち兵 強し。民 其の政に勝ちて、下 其の上に畔けば、則ち兵 弱し。故に德義 以て天下の民を懷くるに足り、事業 以て天下の急に當たるに足り、選舉 以て賢士の心を得るに足り、謀慮 以て強弱の勢を知るに足る。此れ必勝の本なり。地 廣く人 眾きも、以て強と爲すに足らず。甲 堅く兵 利きも、以て勝と爲すに足らず。城 高く池 深きも、以て固と爲すに足らず。令 嚴に刑 繁きも、以て威と爲すに足らず。存の政を爲す者は、小なりと雖も必ず存す。亡の政を爲す者は、大なりと雖も必ず亡ぶ。
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『淮南子』兵略訓故に前後 正齊し、四方 繩の如く、出入解續して、相い越淩せず、翼 輕く邊 利にして、或いは前に或いは後に、離合散聚して、行伍を失わざるは、此れ善く行陳を修むる者なり。奇正賌に明らかに、陰陽・刑德・五行・望氣・候星・龜策・禨祥に該きは、此れ善く天道を爲す者なり。規慮を設け、蔚伏を施し、水火を用うるを見わし、珍怪を出だし、軍を鼓噪するは、其の耳を營す所以なり。梢を曳き柴を肆べ、塵を揚げ堨を起こすは、其の目を營す所以なり。此れ善く詐佯を爲す者なり。錞鉞 牢重、固く植えて恐れ難く、勢利も誘う能わず、死亡も動かす能わざるは、此れ善く充榦を爲す者なり。剽疾輕悍、勇敢にして敵を輕んじ、疾きこと滅沒の若きは、此れ善く輕きを用い奇を出だす者なり。地形を相し、次舍に處り、壁壘を治め、煙斥を審らかにし、高陵に居り、出處を舍するは、此れ善く地形を爲す者なり。其の饑渴凍暍、勞倦怠亂、恐懼窘步に因り、之に乘ずるに選卒を以てし、之を擊つに宵夜を以てするは、此れ善く時に因り變に應ずる者なり。易ければ則ち車を用い、險なれば則ち騎を用い、水を涉れば弓を多くし、隘なれば則ち弩を用い、晝は則ち旌を多くし、夜は則ち火を多くし、晦冥には鼓を多くするは、此れ善く設施を爲す者なり。凡そ此の八つの者は、一つも無かる可からず。然れども兵の貴ぶ者に非ざるなり。
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『淮南子』兵略訓今 兩人をして刃を接せしむるに、巧詘 異ならずして、勇士 必ず勝つ者は、何ぞや。其の行うこと之れ誠なればなり。夫れ巨斧を以て桐薪を擊つに、利時良日を待ちて而る後に之を破らず。巨斧を桐薪の上に加えて、人力の奉ずる無ければ、招搖に順い、刑德を挾むと雖も、而も破る能わざる者は、其の勢無きを以てなり。故に水 激すれば則ち悍く、矢 激すれば則ち遠し。夫れ栝淇衛箘簵、載するに銀錫を以てするも、薄縞の幨、腐荷の矰有りと雖も、然れども猶お獨り射る能わざるなり。之に筋角の力、弓弩の勢を假れば、則ち兕甲を貫きて革盾を徑るなり。夫れ風の疾きは、屋を飛ばし木を折るに至る。虛舉の下は大いに遲し。高丘より上るは、人の推す所有ればなり。是の故に善く兵を用うる者は、勢 積水を千仞の堤に決するが如く、員石を萬丈の溪に轉ずるが若し。天下 吾が兵の必ず用いらるるを見れば、則ち孰か敢えて我と戰わん者あらんや。故に百人の必死は、萬人の必北に賢る。況んや三軍の眾を以て、水火に赴きて踵を還さざるをや。天下に誂いて刃を合わすと雖も、誰か敢えて上に在らんや。
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『淮南子』兵略訓權勢 必ず形れ、吏卒 專精し、良を選び才を用い、官 其の人を得、計 定まり謀 決し、死生に明らかに、舉錯得失、振驚せざる莫し。故に攻むるに沖隆雲梯を待たずして城 拔け、戰うに兵を交え刃を接するに至らずして敵 破る。必勝の攻めに明らかなればなり。故に兵 必ず勝たざれば、苟くも刃を接せず。攻めて必ず取らざれば、苟くも發を爲さず。故に勝 定まりて而る後に戰い、鈴 縣けて而る後に動く。故に眾 聚まりて虛しく散ぜず、兵 出でて徒らに歸らず。唯だ一動する無し。動けば則ち天を淩ぎ地を振るう。泰山を抗げ、四海を蕩かし、鬼神 移徙し、鳥獸 驚駭す。此くの如くんば、則ち野に校兵無く、國に守城無し。