墨子 / 兼愛上
雖至天下之為盜賊者亦然。盜愛其室,不愛其異室,故竊異室以利其室;賊愛其身,不愛人,故賊人以利其身。此何也?皆起不相愛。雖至大夫之相亂家、諸侯之相攻國者亦然。大夫各愛家,不愛異家,故亂異家以利家;諸侯各愛其國,不愛異國,故攻異國以利其國。天下之亂物,具此而已矣。
新字:雖至天下之為盗賊者亦然。盗愛其室,不愛其異室,故竊異室以利其室;賊愛其身,不愛人,故賊人以利其身。此何也?皆起不相愛。雖至大夫之相乱家、諸侯之相攻国者亦然。大夫各愛家,不愛異家,故乱異家以利家;諸侯各愛其国,不愛異国,故攻異国以利其国。天下之乱物,具此而已矣。
書き下し
天下の盜賊を為す者に至ると雖も亦た然り。盜は其の室を愛して、其の異室を愛せず、故に異室を竊みて以て其の室を利す。賊は其の身を愛して、人を愛せず、故に人を賊いて以て其の身を利す。此れ何ぞや。皆な相い愛せざるに起こる。大夫の相い家を亂し、諸侯の相い國を攻むる者に至ると雖も亦た然り。大夫は各おの家を愛して、異家を愛せず、故に異家を亂して以て家を利す。諸侯は各おの其の國を愛して、異國を愛せず、故に異國を攻めて以て其の國を利す。天下の亂物、此に具わるのみ。
現代語訳
天下で盗賊を働く者もまた同じである。盗人は自分の家を愛して他人の家を愛さない、だから他人の家から盗んで自分の家の利にする。人を害する者は自分の身を愛して人を愛さない、だから人を害して自分の身の利にする。これはなぜか。みな互いに愛さないことから起こる。大夫が互いの家を乱し、諸侯が互いの国を攻めるのも同じである。大夫はそれぞれ自分の家を愛して他の家を愛さない、だから他の家を乱して自分の家の利にする。諸侯はそれぞれ自分の国を愛して他の国を愛さない、だから他の国を攻めて自分の国の利にする。天下の乱れごとは、これで尽きている。
解説
盗みも、家どうしの争いも、国どうしの戦争も、まったく同じ一行で説明されます——自分の側を愛して相手の側を愛さないから、相手を損なって自分の利にする。規模だけが違って構造は同一だという主張です。「天下之亂物、具此而已矣」——これで尽きている、と言い切る単純さがこの篇の力であり、同時に後世の批判の的にもなりました。ただ、部門間の争いと会社間の争いを同じ図で見る視点は、実務では有効です。
この章句が説くこと
構造規模盗争い同型
関連する章句
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『墨子』兼愛上此れ何自り起こるかを察するに、皆な相い愛せざるに起こる。若し天下をして兼ねて相い愛せしめば、人、其の身を愛するが若くんば、惡くにか不孝を施さん。猶お不慈なる者有らんや。子弟と臣とを視ること其の身の若くんば、惡くにか不慈を施さん。不慈不孝は亡ぶ。猶お盜賊有らんや。故に人の室を視ること其の室の若くんば、誰か竊まん。人の身を視ること其の身の若くんば、誰か賊わん。故に盜賊は亡ぶこと有り。猶お大夫の相い家を亂し、諸侯の相い國を攻むる者有らんや。人の家を視ること其の家の若くんば、誰か亂さん。人の國を視ること其の國の若くんば、誰か攻めん。故に大夫の相い家を亂し、諸侯の相い國を攻むる者は亡ぶこと有り。若し天下をして兼ねて相い愛せしめば、國と國と相い攻めず、家と家と相い亂さず、盜賊有ること無く、君臣父子も皆な能く孝慈ならん。此くの若くんば則ち天下治まる。
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『墨子』兼愛中今、諸侯は獨り其の國を愛するを知りて、人の國を愛せず。是を以て其の國を舉げて以て人の國を攻むるを憚らず。今、家主は獨り其の家を愛するを知りて、人の家を愛せず。是を以て其の家を舉げて以て人の家を簒うを憚らず。今、人は獨り其の身を愛するを知りて、人の身を愛せず。是を以て其の身を舉げて以て人の身を賊うを憚らず。是の故に諸侯、相い愛せざれば、則ち必ず野戰す。家主、相い愛せざれば、則ち必ず相い簒う。人と人と相い愛せざれば、則ち必ず相い賊う。君臣、相い愛せざれば、則ち惠忠ならず。父子、相い愛せざれば、則ち慈孝ならず。兄弟、相い愛せざれば、則ち和調ならず。天下の人、皆な相い愛せざれば、强は必ず弱を執え、富は必ず貧を侮り、貴は必ず賤を傲り、詐は必ず愚を欺く。凡そ天下の禍簒怨恨、其の起こる所以の者は、相い愛せざるを以て生ずるなり。是を以て仁者は之を非とす。
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『墨子』兼愛上聖人の天下を治むるを以て事と為す者は、亂の自り起こる所を察せざる可からず。當に亂の何自り起こるかを察すべし。相い愛せざるに起こる。臣子の君父に孝ならざる、謂う所の亂なり。子は自ら愛して父を愛せず、故に父を虧きて自ら利す。弟は自ら愛して兄を愛せず、故に兄を虧きて自ら利す。臣は自ら愛して君を愛せず、故に君を虧きて自ら利す。此れ謂う所の亂なり。父の子に慈ならず、兄の弟に慈ならず、君の臣に慈ならざると雖も、此れ亦た天下の謂う所の亂なり。父は自ら愛するなり、子を愛せず、故に子を虧きて自ら利す。兄は自ら愛するなり、弟を愛せず、故に弟を虧きて自ら利す。君は自ら愛するなり、臣を愛せず、故に臣を虧きて自ら利す。是れ何ぞや。皆な相い愛せざるに起こる。
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『墨子』兼愛下子墨子言いて曰く、仁人の事は、必ず務めて天下の利を興し、天下の害を除かんことを求む。然らば當今の時、天下の害、孰れをか大と為さん。曰く、大國の小國を攻むる、大家の小家を亂す、强の弱を劫かす、衆の寡を暴う、詐の愚を謀る、貴の賤に傲るが若き、此れ天下の害なり。又た人君為る者の惠ならざる、臣為る者の忠ならざる、父為る者の慈ならざる、子為る者の孝ならざると與に、此れ又た天下の害なり。又た今、人の賤人、其の兵刃・毒藥・水火を執りて、以て交ごも相い虧賊すると與に、此れ又た天下の害なり。姑く嘗みに若の衆害の自る所を本原せんに、此れ胡自り生ずるか。此れ人を愛し人を利するより生ずるか。即ち必ず然らずと曰わん。必ず人を惡み人を賊うより生ずと曰わん。天下に名を分かつに、人を惡みて人を賊う者は、兼か、别か。即ち必ず别なり。然らば即ち之の交ごも别する者は、果たして天下の大害を生ずる者か。是の故に别は非なり。
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『墨子』兼愛中既に以て之を非とす。何を以て之を易えん。子墨子言いて曰く、兼ねて相い愛し、交ごも相い利するの法を以て之を易う。然らば則ち兼ねて相い愛し、交ごも相い利するの法は將に奈何せんとするや。子墨子言う、人の國を視ること其の國を視るが若くし、人の家を視ること其の家を視るが若くし、人の身を視ること其の身を視るが若くす。是の故に諸侯、相い愛すれば則ち野戰せず。家主、相い愛すれば則ち相い簒わず。人と人と相い愛すれば則ち相い賊わず。貴は賤に傲らず、詐は愚を欺かず。凡そ天下の禍簒怨恨をして起こる毋からしむ可き者は、仁者、之を譽む。然り而して今、天下の士、君臣相い愛すれば則ち惠忠なり。父子相い愛すれば則ち慈孝なり。兄弟相い愛すれば則ち和調なり。天下の人、皆な相い愛すれば、强は弱を執えず、衆は寡を劫かさず、富は貧を侮らず。
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『墨子』兼愛中子墨子言いて曰く、仁人の事を為す所以の者は、必ず天下の利を興し、天下の害を除去す。此を以て事と為す者なり。然らば則ち天下の利とは何ぞや。天下の害とは何ぞや。子墨子言いて曰く、今、國と國と相い攻め、家と家と相い簒い、人と人と相い賊い、君臣、惠忠ならず、父子、慈孝ならず、兄弟、和調ならざるが若きは、則ち此れ天下の害なり。然らば則ち此の害を崇くするは亦た何に用りて生ずるや。相い愛せざるを以て生ずるか。子墨子言う、相い愛せざるを以て生ず、と。