呂氏春秋 / 蕩兵③
夫有以饐死者,欲禁天下之食,悖〔矣〕;有以乘舟死者,欲禁天下之船,悖〔矣〕;有以用兵喪其國者,欲偃天下之兵,悖〔矣〕。(夫)兵〔之〕不可偃也,譬之若水火然,善用之則為福,不能用之則為禍;(若)〔善〕用藥者〔亦〕然,得良藥則活人,得惡藥則殺人。義兵之為天下良藥也亦大矣。
新字:夫有以饐死者,欲禁天下之食,悖〔矣〕;有以乗舟死者,欲禁天下之船,悖〔矣〕;有以用兵喪其国者,欲偃天下之兵,悖〔矣〕。(夫)兵〔之〕不可偃也,譬之若水火然,善用之則為福,不能用之則為禍;(若)〔善〕用薬者〔亦〕然,得良薬則活人,得悪薬則殺人。義兵之為天下良薬也亦大矣。
書き下し
夫れ饐を以て死する者有りて、天下の食を禁ぜんと欲するは悖れり。舟に乘るを以て死する者有りて、天下の船を禁ぜんと欲するは悖れり。兵を用うるを以て其の國を喪う者有りて、天下の兵を偃めんと欲するは悖れり。夫れ兵は偃む可からず。之を譬うれば、水火の若く然り。善く之を用うれば則ち福を為し、之を用うること能わざれば、則ち禍いを為す。藥を用うる者の若く然り。良藥を得れば則ち人を活かし、惡藥を得れば則ち人を殺す。義兵の天下の良藥為るや亦た大なり。
現代語訳
のどを詰まらせて死んだ者がいるからといって、天下の食事を禁じようとするのは道理に反する。舟に乗って死んだ者がいるからといって天下の舟を禁じようとするのも、戦で国を失った者がいるからといって天下の兵を廃止しようとするのも、同じく道理に反する。そもそも兵は廃止できない。たとえるなら水火のようなもので、うまく使えば福となり、使えなければ禍となる。薬を使う者も同じで、良薬を得れば人を生かし、悪薬を得れば人を殺す。義兵が天下の良薬であることも、また大きいのである。
解説
兵を廃止できない理由を、身近なたとえで説いた名高い一段です。食で窒息死する者がいても食を禁じないように、戦で国を失う者がいても兵を廃止するのは筋違いだと論じ、兵を水火や薬になぞらえます。使い方次第で福にも禍にもなる——だからこそ正しく用いる義兵は天下の良薬だ、というのが呂氏春秋の主張です。道具そのものを善悪で断ぜず、用いる者の巧拙を問う視点は、技術や力の是非を考える普遍的な知恵を含みます。全面否定ではなく適切な運用を求める発想は、現代のリスク論にも通じます。
この章句が説くこと
義兵水火良薬偃兵比喩運用
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