呂氏春秋 / 精通①
人或謂兔絲無根。兔絲非無根也,其根不屬也,伏苓是。慈石召鐵,或引之也。樹相近而靡,或軵之也。聖人南面而立,以愛利民為心,號令未出而天下皆延頸舉踵矣,則精通乎民也。夫賊害於人,人亦然。
新字:人或謂兔糸無根。兔糸非無根也,其根不属也,伏苓是。慈石召鉄,或引之也。樹相近而靡,或軵之也。聖人南面而立,以愛利民為心,号令未出而天下皆延頸舉踵矣,則精通乎民也。夫賊害於人,人亦然。
書き下し
人に兔絲は根無しと謂うもの或り。兔絲は根無きに非ざるなり。其の根屬ならざるなり。伏苓是れなり。慈石の鐵を召ぶは、之を引く或るなり。樹相近づきて靡くは、之を軵す或るなり。聖人南面して立てば、民を愛利するを以て心と為す。號令未だ出でずして天下皆頸を延べ踵を舉ぐるは、則ち精、民に通ずればなり。夫れ人を賊害すれば、人も亦た然り。
現代語訳
人の中には、兔絲(ねなしかずら)には根がないと言う者がいる。兔絲は根がないのではない。その根が地につながっていないだけである。その根は伏苓(茯苓)がそれである。磁石が鉄を引き寄せるのは、何かがそれを引くのである。木が互いに近づいて一方がなびくのは、何かがそれを押しているのである。聖人が南面して立ち、民を愛し利することを心とすれば、号令がまだ発せられないうちから、天下の民はみな首を伸ばしかかとを上げて慕い待ち望む。これは聖人の精神が民に通じているからである。そもそも人を害しようとすれば、その気は相手にもまた同じように通じて伝わる。
解説
「精通」篇の総論で、目に見えない精神・気が人や物に感応し通じ合うことを説きます。要点は、兔絲の根や磁石の引力のように、直接見えなくても働きは通じており、聖人の民を愛する心も号令を待たず民に伝わるという「精通(精神が通じる)」の思想です。背景として、古代中国には万物が気によって感応し合うという感応思想があり、為政者の内心が言葉に先立って民に伝わると考えられました。害意もまた伝わると戒めます。現代でも、リーダーの本心や態度は言葉以前に伝わるという洞察は、信頼形成や組織の空気づくりに通じます。
この章句が説くこと
精通兔絲兔糸磁石感応聖人
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