牧民忠告 / 上任
故事:牧民官既上,必告境內所當祀之神,宜以不賄自為誓,庶堅其遷善之心焉。爾後雖欲轉移,亦必有所畏而不敢。
新字:故事:牧民官既上,必告境內所当祀之神,宜以不賄自為誓,庶堅其遷善之心焉。爾後雖欲転移,亦必有所畏而不敢。
書き下し
故事に、牧民官既に上(のぼ)らば、必ず境内当(まさ)に祀るべき所の神に告げ、宜しく賄(まかない)せざるを以て自ら誓いと為すべし、庶(こいねが)わくは其の善に遷るの心を堅くせんことを。爾後(じご)転移せんと欲すと雖も、亦必ず畏るる所有りて敢えてせず。
現代語訳
古くからの慣例では、地方長官が着任したなら、必ず領内の祀るべき神に告げ、賄賂を受け取らないことを自らへの誓いとするべきである。そうすれば、善に向かおうとする心をより堅固にできることを願うのである。その後、たとえ気持ちが移ろいそうになっても、やはり必ず畏れ憚るところがあって、あえて不正をしないだろう。
解説
この条は、着任時に神に対して不正を働かないことを誓うという儀礼を紹介し、それを単なる形式ではなく自己拘束の手段として位置づける。人の意志は移ろいやすいものだが、神前での誓いという外的な仕組みを設けることで、後に心が揺らいでも踏みとどまる歯止めになるという発想である。実務書でありながら精神論に終始せず、誓いという具体的な儀礼行為に意志の弱さを補う仕組みを見出している点が興味深い。現代においても、決意を表明する場を設けたり、公にコミットメントを示したりすることが、後々の誘惑に対する歯止めとして機能するという示唆を読み取れる。
この章句が説くこと
告廟誓い自制儀礼