帝範 / 崇倹第八
夫聖世之君,存乎節儉。富貴廣大,守之以約;睿智聰明,守之以愚。不以身尊而驕人,不以徳厚而矜物。茅茨不剪,采椽不斵,舟車不飾,衣服無文,土堦不崇,大羮不和。非憎榮而惡味,乃處薄而行儉。
新字:夫聖世之君,存乎節倹。富貴広大,守之以約;睿智聰明,守之以愚。不以身尊而驕人,不以徳厚而矜物。茅茨不剪,采椽不斵,舟車不飾,衣服無文,土階不崇,大羹不和。非憎栄而悪味,乃処薄而行倹。
書き下し
夫(そ)れ聖世(せいせい)の君(きみ)は、節儉(せっけん)に存(そん)す。富貴(ふうき)廣大(こうだい)なれば、之(これ)を守(まも)るに約(やく)を以(も)ってし、睿智(えいち)聰明(そうめい)なれば、之(これ)を守(まも)るに愚(ぐ)を以(も)ってす。身(み)の尊(たっと)きを以(も)って人(ひと)に驕(おご)らず、徳(とく)の厚(あつ)きを以(も)って物(もの)に矜(ほこ)らず。茅茨(ぼうし)は剪(き)らず、采椽(さいてん)は斵(けづ)らず、舟車(しゅうしゃ)は飾(かざ)らず、衣服(いふく)は文(あや)無(な)く、土堦(どかい)は崇(たか)からず、大羮(たいこう)は和(あ)へず。榮(えい)を憎(にく)みて味(あぢ)を惡(にく)むに非(あら)ず、乃(すなは)ち薄(はく)に處(を)りて儉(けん)を行(おこな)ふなり。
現代語訳
そもそも聖なる世の君主は、節倹に身を置く。富み貴く広大であれば、それを守るのに約やかさをもってし、聡明で智があれば、それを守るのに愚をもってする。身が尊いからといって人に驕らず、徳が厚いからといって人に誇らない。茅葺きの軒は切りそろえず、切り出した垂木は削らず、舟や車は飾らず、衣服には模様がなく、土の階段は高くせず、祭祀の羹には味付けをしない。栄えを憎み味を嫌っているのではない。薄いところに身を置いて倹を行っているのである。
解説
崇倹篇の要は「富貴廣大なれば、之を守るに約を以ってし、睿智聰明なれば、之を守るに愚を以ってす」の対句である。持っているものと逆の姿勢で守れという。富があるほど質素に、賢いほど愚かに。これは『荀子』宥坐篇に見える孔子の持満の教え——聡明睿智なれば之を守るに愚を以ってす——を踏まえたもので、満ちたものは必ず覆るという前提に立っている。後半に並ぶ茅茨・采椽・土堦は堯舜の質素を語る定型句だが、太宗はその意味を最後に一言で押さえ直す。「榮を憎みて味を惡むに非ず」——贅沢を嫌っているのではない。禁欲そのものが目的ではなく、薄いところに身を置くという姿勢が目的なのだ。倹約を美徳として振りかざすのではなく、傾かないための重心の取り方として語られている。
この章句が説くこと
崇倹守之以愚茅茨采椽持満
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貞観政要・君道聖哲は機に乗じ、其の危溺を拯(すく)う。八柱傾きて復た正しく、四維弛(ゆる)みて更に張る。遠きは粛(つつし)み邇(ちか)きは安んず、期月を逾(こ)えず。残に勝ち殺を去るは、百年を待つ無し。今、宮観台榭は、尽く之に居れり。奇珍異物は、尽く之を収めたり。姫姜淑媛(ききょうしゅくえん)は、尽く側に侍せり。四海九州は、尽く臣妾と為れり。若し能く彼の失う所以を鑒(かんが)み、我の得る所以を念(おも)い、日に一日を慎み、休すと雖も休する勿かれ。鹿台の宝衣を焚き、阿房の広殿を毀(こぼ)ち、危亡を峻宇に懼れ、安処を卑宮に思わば、則ち神化潜かに通じ、無為にして治まらん。徳の上なり。若し成功を毀たず、即ち其の旧に仍(よ)り、其の不急を除き、之を損して又た損じ、茅茨(ぼうし)を桂棟に雑(まじ)え、玉砌(ぎょくせつ)に土階を参(まじ)え、悦ばしめて以て人を使い、其の力を竭(つ)くさず。常に之に居る者は逸し、之を作る者は労するを念わば、億兆は悦びて子のごとく来たり、群生は仰ぎて性を遂げん。徳の次なり。若し惟れ聖にして念う罔(な)く、厥(そ)の終わりを慎まず、締構の艱難を忘れ、天命の恃むべしと謂い、采椽(さいてん)の恭倹を忽(ゆるが)せにし、雕牆(ちょうしょう)の靡麗を追い、其の基に因りて以て之を広め、其の旧に増して之を飾り、類に触れて長ぜば、止足を知らず。人は徳を見ずして、労役是れ聞かん。斯(これ)を下と為す。之を譬うれば薪を負いて火を救い、湯を揚げて沸くを止むるがごとし。暴を以て乱に易(か)うるは、乱と道を同じくす。測るべき莫し。後嗣何をか観ん。夫れ事に観るべき無ければ則ち人怨む。人怨めば則ち神怒る。神怒れば則ち災害必ず生ず。災害既に生ずれば、則ち禍乱必ず作(おこ)る。禍乱既に作りて、能く身と名とを以て全うする者は鮮し。順天革命の後、将に七百の祚を隆んにし、厥の子孫に貽(のこ)し、之を万葉に伝えんとす。得難く失い易し。念わざるべけんや。
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