帝範 / 去讒第六
以疎間親,宋有伊戾之禍;以邪敗正,楚有郤宛之誅。斯乃暗主庸君之所迷惑,忠臣孝子之可泣寃。故藂蘭欲茂,秋風敗之;王者欲眀,䜛人蔽之。此姦佞之危也。斯二者,危國之本。
新字:以疎間親,宋有伊戻之禍;以邪敗正,楚有郤宛之誅。斯乃暗主庸君之所迷惑,忠臣孝子之可泣冤。故叢蘭欲茂,秋風敗之;王者欲明,讒人蔽之。此姦佞之危也。斯二者,危国之本。
書き下し
疎(そ)を以(も)って親(しん)を間(へだ)つれば、宋(そう)に伊戾(いれい)の禍(わざはひ)有(あ)り、邪(じゃ)を以(も)って正(せい)を敗(やぶ)れば、楚(そ)に郤宛(げきえん)の誅(ちゅう)有(あ)り。斯(こ)れ乃(すなは)ち暗主(あんしゅ)庸君(ようくん)の迷惑(めいわく)する所(ところ)、忠臣(ちゅうしん)孝子(こうし)の泣寃(きゅうえん)す可(べ)きなり。故(ゆゑ)に藂蘭(そうらん)茂(しげ)らんと欲(ほっ)すれば、秋風(しゅうふう)之(これ)を敗(やぶ)り、王者(おうじゃ)眀(あき)らかならんと欲(ほっ)すれば、䜛人(ざんじん)之(これ)を蔽(おほ)ふ。此(こ)れ姦佞(かんねい)の危(あや)ふきなり。斯(こ)の二者(にしゃ)は、危國(きこく)の本(もと)なり。
現代語訳
疎い者に親しい者を隔てさせれば、宋には伊戾が太子を陥れた禍があり、よこしまな者に正しい者を敗らせれば、楚には郤宛が誅された事件があった。これこそ暗愚な君主が惑わされるところであり、忠臣や孝子が冤罪に泣かされるところである。だから、群がり生えた蘭が茂ろうとすると秋風がこれを枯らし、王者が明らかであろうとすると讒言する者がこれを覆い隠す。これが奸佞の危うさである。この二つ、すなわち讒言と佞言が、国を危うくする根本である。
解説
「藂蘭茂らんと欲すれば、秋風之を敗る」——群れて咲こうとする蘭を、秋風が枯らす。この対句が去讒篇でもっとも知られた一節である。魏の李康『運命論』に「木秀於林、風必摧之」(木、林に秀づれば風必ず之を摧く)とある発想と同じ系譜にあり、優れたものほど狙われるという構造を言う。ここで太宗が言い添えるのは、狙われるのは蘭だけではないということだ。「王者眀らかならんと欲すれば、䜛人之を蔽ふ」。明らかであろうとする努力そのものが、讒言者の標的になる。見ようとするから隠される。前半に挙げた二つの故事は、いずれも君主が信じた讒言によって無実の者が死んだ事件である。讒言の被害者は名指しされた側であり、その責任は信じた側にあるという配分が、この章では動かない。
この章句が説くこと
叢蘭秋風伊戻郤宛讒言の責任