荘子 / 天下
然惠施之口談,自以為最賢,曰:「天地其壯乎!」施存雄而無術。南方有倚人焉,曰黃繚,問天地所以不墜不陷,風雨雷霆之故。惠施不辭而應,不慮而對,遍為萬物說;說而不休,多而無已,猶以為寡,益之以怪。以反人為實,而欲以勝人為名,是以與眾不適也。弱於德,強於物,其塗隩矣。由天地之道觀惠施之能,其猶一蚉一虻之勞者也,其於物也何庸!夫充一尚可,曰愈貴,道幾矣!惠施不能以此自寧,散於萬物而不厭,卒以善辯為名。惜乎!惠施之才,駘蕩而不得,逐萬物而不反,是窮響以聲,形與影競走也。悲夫!
新字:然恵施之口談,自以為最賢,曰:「天地其壮乎!」施存雄而無術。南方有倚人焉,曰黄繚,問天地所以不墜不陥,風雨雷霆之故。恵施不辞而応,不慮而対,遍為万物説;説而不休,多而無已,猶以為寡,益之以怪。以反人為実,而欲以勝人為名,是以与眾不適也。弱於徳,強於物,其塗隩矣。由天地之道観恵施之能,其猶一蚉一虻之労者也,其於物也何庸!夫充一尚可,曰愈貴,道幾矣!恵施不能以此自寧,散於万物而不厭,卒以善辯為名。惜乎!恵施之才,駘蕩而不得,逐万物而不反,是窮響以声,形与影競走也。悲夫!
書き下し
然れども恵施の口談、自ら以て最も賢しと為して曰く、「天地は其れ壮なるかな」と。施は雄を存して術無し。南方に倚人(きじん)有り、黄繚(こうりょう)と曰う。天地の墜ちず陥らざる所以、風雨雷霆(らいてい)の故を問う。恵施は辞せずして応じ、慮らずして対え、遍く万物の為に説く。説きて休まず、多くして已(や)む無し。猶お以て寡(すく)なしと為し、之を益すに怪を以てす。人に反するを以て実と為し、而して人に勝つを以て名と為さんと欲す。是を以て衆と適(かな)わざるなり。徳に弱く、物に強し。其の塗(みち)は隩(おく)まれり。天地の道に由りて恵施の能を観れば、其れ猶お一蚉(いちぶん)一虻(いちぼう)の労のごとし。其の物に於けるや何ぞ庸(もち)いん。夫れ一を充つるは尚お可なり。曰く、愈(いよい)よ貴しと。道に幾(ちか)からんか。恵施は此を以て自ら寧(やす)んずる能わず、万物に散じて厭(あ)かず。卒(つい)に善く辯ずるを以て名と為す。惜しいかな、恵施の才、駘蕩(たいとう)として得ず、万物を逐(お)いて反らず。是れ響を窮むるに声を以てし、形と影と競い走るなり。悲しいかな。
現代語訳
しかし恵施は自分の弁舌を、自ら最も賢いと思って言った。「天地は、なんと壮大なことか」。恵施には雄々しさはあったが、術がなかった。南方に変わり者がいて、黄繚といった。彼は「天地はなぜ落ちも陥りもしないのか。風雨や雷はなぜ起こるのか」と尋ねた。恵施は辞退もせずに応じ、考えもせずに答え、あらゆる万物について説明した。説き続けて休まず、多く語ってやめない。それでもまだ足りないと思い、奇抜な説を付け加えた。人に逆らうことを実とし、人に勝つことを名声としようとした。だから多くの人と噛み合わなかった。徳においては弱く、物においては強い。彼の道は、行き詰まっている。天地の道から恵施の才能を眺めれば、それは蚊やアブ一匹の骨折りのようなものだ。物事において、何の役に立とうか。一つのことを極めるだけでも、まだよい。それを『いよいよ貴い』と言うなら、道に近づけただろう。ところが恵施は、それで自分を安んじることができず、万物に散らばって飽きることがなかった。ついに、弁論が巧みだという名声だけを得た。惜しいことだ。恵施の才能は、だらだらと広がって何も掴めず、万物を追いかけて戻ってこなかった。それは、こだまを声で追いかけ、形が影と競走するようなものだ。悲しいことだ。