荘子 / 列禦寇
人有見宋王者,錫車十乘,以其十乘驕稚莊子。莊子曰:「河上有家貧恃緯蕭而食者,其子沒於淵,得千金之珠。其父謂其子曰『取石來鍛之!夫千金之珠,必在九重之淵而驪龍頷下,子能得珠者,必遭其睡也。使驪龍而寤,子尚奚微之有哉!』今宋國之深,非直九重之淵也;宋王之猛,非直驪龍也。子能得車者,必遭其睡也。使宋王而寤,子為齏粉夫!」
新字:人有見宋王者,錫車十乗,以其十乗驕稚荘子。荘子曰:「河上有家貧恃緯蕭而食者,其子没於淵,得千金之珠。其父謂其子曰『取石来鍛之!夫千金之珠,必在九重之淵而驪竜頷下,子能得珠者,必遭其睡也。使驪竜而寤,子尚奚微之有哉!』今宋国之深,非直九重之淵也;宋王之猛,非直驪竜也。子能得車者,必遭其睡也。使宋王而寤,子為齏粉夫!」
書き下し
人に宋王に見ゆる者有り。車十乗を錫(たま)わる。其の十乗を以て荘子に驕稚(きょうち)す。荘子曰く、「河上に家貧しく緯蕭(いしょう)を恃(たの)みて食らう者有り。其の子淵に没して、千金の珠を得たり。其の父其の子に謂いて曰く、『石を取り来たりて之を鍛(くだ)け。夫れ千金の珠は、必ず九重の淵にして驪竜(りりょう)の頷(あご)の下に在り。子の能く珠を得たるは、必ず其の睡(ねむ)れるに遭えるなり。驪竜をして寤(さ)めしめば、子は尚お奚(なん)ぞ微(び)すること之れ有らんや』と。今、宋国の深きは、直(た)だ九重の淵のみに非ざるなり。宋王の猛(たけ)きは、直だ驪竜のみに非ざるなり。子の能く車を得たるは、必ず其の睡れるに遭えるなり。宋王をして寤めしめば、子は齏粉(せいふん)と為らんかな」と。
現代語訳
宋王に謁見して、車十台を賜った者がいた。その十台を見せびらかして、荘子に威張ってみせた。荘子は言った。「黄河のほとりに、貧しくて蓬を編んで暮らしている家があった。その息子が淵に潜って、千金の値打ちのある珠を手に入れた。父は息子に言った。『石を持ってきて、それを砕け。千金の珠は、必ず九重の淵の底、黒い竜の顎の下にある。お前がその珠を得られたのは、竜が眠っていたからだ。もし竜が目を覚ましていたら、お前は骨の一片も残らなかっただろう』と。今、宋の国の深さは、九重の淵どころではない。宋王の猛々しさは、黒竜どころではない。お前が車を得られたのは、必ず王が眠っていたからだ。もし宋王が目を覚ましていたら、お前は粉々に砕かれていただろう」。
解説
この章句が説くこと
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荘子・列禦寇宋人に曹商(そうしょう)なる者有り。宋王の為に秦に使いす。其の往くや、車数乗を得たり。王之を説(よろこ)び、車百乗を益す。宋に反り、荘子に見えて曰く、「夫れ窮閭阨巷(きゅうりょあいこう)に処り、困窘(こんきん)して屨(くつ)を織り、槁項(こうこう)黄馘(こうかく)なるは、商の短ずる所なり。一たび万乗の主を悟らせて、車百乗を従うるは、商の長ずる所なり」と。荘子曰く、「秦王病有りて医を召す。癰(よう)を破り痤(ざ)を潰す者は車一乗を得、痔を舐(ねぶ)る者は車五乗を得。治むる所愈(いよい)よ下れば、車を得ること愈よ多し。子は豈に其の痔を治めしか。何ぞ車を得ることの多きや。子は行け」と。
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荘子・列禦寇列御寇斉に之(ゆ)く。中道にして反り、伯昏瞀人(はくこんぼうじん)に遇う。伯昏瞀人曰く、「奚(なん)ぞ方(まさ)に反れるか」と。曰く、「吾は驚けり」と。曰く、「悪(いず)くにか驚けるか」と。曰く、「吾嘗て十漿(じっしょう)に食らう。而して五漿は先ず饋(おく)れり」と。伯昏瞀人曰く、「是(かく)の若くんば、則ち汝は何を為して驚けるのみ」と。曰く、「夫れ内の誠解けず、形は諜(かたち)として光を成し、以て外より人心を鎮む。人をして貴老を軽んぜしめ、而して其の患う所を齏(くだ)く。夫れ漿は特(た)だ食羹(しょっこう)の貨を為すのみ。余り多きの贏(あまり)なり。其の利為(た)るや薄く、其の権為るや軽し。而も猶お是の若し。而るを況んや万乗の主に於けるをや。身は国に労し、知は事に尽くさる。彼将に我に任ずるに事を以てして、我に効(もと)むるに功を以てせんとす。吾是を以て驚けり」と。伯昏瞀人曰く、「善いかな観るや。汝処(お)れ、人将に汝を保(したが)わんとす」と。
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荘子・列禦寇幾何(いくばく)も無くして往けば、則ち戸外の屨(くつ)満てり。伯昏瞀人北面して立ち、杖を敦(つ)きて之を頤(おとがい)に蹙(せま)る。立つこと間有り、言わずして出づ。賓者以て列子に告ぐ。列子は屨を提(さ)げ、跣(はだし)にて走り、門に暨(およ)びて曰く、「先生既に来たる。曾(すなわ)ち薬を発せざるか」と。曰く、「已(や)めよ。吾固より汝に告げて曰く『人将に汝を保わん』と。果たして汝を保えり。汝の能く人をして汝を保わしむるに非ず。而して汝は人をして汝を保う無からしむる能わざるなり。而るに焉(なん)ぞ之を用いて感(うご)き豫(あらかじ)め異を出だすや。必ず且つ感有り、而の本才を揺るがす。又た謂う無きなり。汝と遊ぶ者、又た汝に告ぐる莫し。彼の小言する所は、尽く人の毒なり。覚る莫く悟る莫し。何ぞ相孰(あいじゅく)せんや。巧者は労して知者は憂う。無能者は求むる所無く、飽食して敖遊(ごうゆう)す。汎(ぼう)として繋がざる舟の若く、虚しくして敖遊する者なり」と。
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荘子・譲王子列子窮す。容貌に飢色有り。客に之を鄭の子陽(しよう)に言う者有りて曰く、「列御寇は、蓋(けだ)し有道の士なり。君の国に居りて窮す。君乃ち士を好まずと為すこと無からんや」と。鄭の子陽即ち官に令して之に粟を遺(おく)らしむ。子列子使者を見て、再拝して辞す。使者去る。子列子入る。其の妻之を望みて心を拊(う)ちて曰く、「妾聞く、有道者の妻子と為れば、皆な佚楽(いつらく)を得と。今、飢色有り。君過(あやま)ちて先生に食を遺る。先生受けず。豈に命ならずや」と。子列子笑いて之に謂いて曰く、「君は自ら我を知るに非ざるなり。人の言を以て我に粟を遺る。其の我を罪するに至るや、又た且つ人の言を以てせん。此れ吾の受けざる所以なり」と。其の卒(つい)に、民果たして難を作(な)して子陽を殺す。
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荘子・列禦寇或るひと荘子を聘(へい)す。荘子其の使に応えて曰く、「子は夫の犠牛(ぎぎゅう)を見るか。衣(き)するに文繡(ぶんしゅう)を以てし、食らわしむるに芻叔(すうしゅく)を以てす。其の牽かれて太廟に入るに及びて、孤犢(ことく)と為らんと欲すと雖も、其れ得べけんや」と。
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