荘子 / 漁父
客曰:「同類相從,同聲相應,固天之理也。吾請釋吾之所有而經子之所以。子之所以者,人事也。天子、諸侯、大夫、庶人,此四者自正,治之美也,四者離位而亂莫大焉。官治其職,人憂其事,乃無所陵。故田荒室露,衣食不足,徵賦不屬,妻妾不和,長少無序,庶人之憂也;能不勝任,官事不治,行不清白,群下荒怠,功美不有,爵祿不持,大夫之憂也;廷無忠臣,國家昏亂,工技不巧,貢職不美,春秋後倫,不順天子,諸侯之憂也;陰陽不和,寒暑不時,以傷庶物,諸侯暴亂,擅相攘伐,以殘民人,禮樂不節,財用窮匱,人倫不飭,百姓淫亂,天子有司之憂也。今子既上無君侯有司之勢,而下無大臣職事之官,而擅飭禮樂,選人倫,以化齊民,不泰多事乎?且人有八疵,事有四患,不可不察也。非其事而事之,謂之摠;莫之顧而進之,謂之佞;希意道言,謂之諂;不擇是非而言,謂之諛;好言人之惡,謂之讒;析交離親,謂之賊;稱譽詐偽以敗惡人,謂之慝;不擇善否,兩容頰適,偷拔其所欲,謂之險。此八疵者,外以亂人,內以傷身,君子不友,明君不臣。所謂四患者,好經大事,變更易常,以挂功名,謂之叨;專知擅事,侵人自用,謂之貪;見過不更,聞諫愈甚,謂之很;人同於己則可,不同於己,雖善不善,謂之矜。此四患也。能去八疵,無行四患,而始可教已。」
新字:客曰:「同類相従,同声相応,固天之理也。吾請釈吾之所有而経子之所以。子之所以者,人事也。天子、諸侯、大夫、庶人,此四者自正,治之美也,四者離位而乱莫大焉。官治其職,人憂其事,乃無所陵。故田荒室露,衣食不足,徴賦不属,妻妾不和,長少無序,庶人之憂也;能不勝任,官事不治,行不清白,群下荒怠,功美不有,爵禄不持,大夫之憂也;廷無忠臣,国家昏乱,工技不巧,貢職不美,春秋後倫,不順天子,諸侯之憂也;陰陽不和,寒暑不時,以傷庶物,諸侯暴乱,擅相攘伐,以残民人,礼楽不節,財用窮匱,人倫不飭,百姓淫乱,天子有司之憂也。今子既上無君侯有司之勢,而下無大臣職事之官,而擅飭礼楽,選人倫,以化斉民,不泰多事乎?且人有八疵,事有四患,不可不察也。非其事而事之,謂之摠;莫之顧而進之,謂之佞;希意道言,謂之諂;不択是非而言,謂之諛;好言人之悪,謂之讒;析交離親,謂之賊;称誉詐偽以敗悪人,謂之慝;不択善否,両容頬適,偸抜其所欲,謂之険。此八疵者,外以乱人,内以傷身,君子不友,明君不臣。所謂四患者,好経大事,変更易常,以挂功名,謂之叨;専知擅事,侵人自用,謂之貪;見過不更,聞諫愈甚,謂之很;人同於己則可,不同於己,雖善不善,謂之矜。此四患也。能去八疵,無行四患,而始可教已。」
書き下し
客曰く、「同類相従い、同声相応ずるは、固より天の理なり。吾請う、吾の有する所を釈(お)きて子の以(な)す所を経(おさ)めん。子の以す所の者は、人事なり。天子・諸侯・大夫・庶人、此の四者自ら正しきは、治の美なり。四者位を離るれば乱れ焉より大なるは莫し。官は其の職を治め、人は其の事を憂う。乃ち陵(しの)ぐ所無し。故に田荒れ室露(あ)れ、衣食足らず、徴賦属(つづ)かず、妻妾和せず、長少序無きは、庶人の憂いなり。能は任に勝えず、官事治まらず、行は清白ならず、群下荒怠し、功美有らず、爵禄持たざるは、大夫の憂いなり。廷に忠臣無く、国家昏乱し、工技巧ならず、貢職美ならず、春秋の倫に後(おく)れ、天子に順わざるは、諸侯の憂いなり。陰陽和せず、寒暑時ならず、以て庶物を傷(そこな)い、諸侯暴乱し、擅(ほしいまま)に相攘伐(じょうばつ)して以て民人を残(そこな)い、礼楽節ならず、財用窮匱(きゅうき)し、人倫飭(ととの)わず、百姓淫乱するは、天子有司の憂いなり。今、子は既に上は君侯有司の勢無く、而して下は大臣職事の官無し。而るに擅に礼楽を飭え、人倫を選び、以て斉民を化す。泰(はなは)だ事多からずや。且つ人に八疵(はっし)有り、事に四患有り。察せざるべからざるなり。其の事に非ずして之を事とする、之を摠(そう)と謂う。之を顧みる莫くして之を進むる、之を佞(ねい)と謂う。意を希(うかが)いて言を道(い)う、之を諂(てん)と謂う。是非を択ばずして言う、之を諛(ゆ)と謂う。好んで人の悪を言う、之を讒(ざん)と謂う。交わりを析(さ)き親を離す、之を賊と謂う。詐偽を称誉して以て人を敗悪す、之を慝(とく)と謂う。善否を択ばず、両(ふた)つながら容れ頬適し、偸(ひそ)かに其の欲する所を抜く、之を険と謂う。此の八疵なる者は、外は以て人を乱し、内は以て身を傷る。君子は友とせず、明君は臣とせず。所謂四患なる者は、好んで大事を経(おさ)め、常を変更し易(か)えて、以て功名に挂(か)くる、之を叨(とう)と謂う。知を専らにし事を擅にし、人を侵して自ら用う、之を貪と謂う。過ちを見て更(あらた)めず、諫めを聞きて愈(いよい)よ甚だし、之を很(こん)と謂う。人の己に同じければ則ち可とし、己に同じからざれば、善しと雖も善しとせず、之を矜(きょう)と謂う。此れ四患なり。能く八疵を去り、四患を行う無くして、始めて教うべきのみ」と。
現代語訳
客は言った。「同類は互いに従い、同じ音は互いに響き合う。これが天の理だ。私は自分の持論をひとまず置いて、あなたのやっていることを整理してみよう。あなたのやっていることは、人の世のことだ。天子・諸侯・大夫・庶人、この四者がそれぞれ正しくあること。これが治の美しさだ。四者がその位を離れれば、これほど大きな乱れはない。役人は職務を果たし、人はそれぞれの仕事に心を砕く。そうすれば互いに侵し合うこともない。だから、田が荒れ家が傷み、衣食が足りず、税が納められず、妻妾が和せず、長幼の序がないのは、庶人の憂いだ。能力が任に堪えず、職務が治まらず、行いが清らかでなく、部下が怠け、功績も上がらず、爵禄も保てないのは、大夫の憂いだ。朝廷に忠臣がなく、国家が乱れ、技術が拙く、貢物が粗末で、朝見の序列に遅れ、天子に従わないのは、諸侯の憂いだ。陰陽が調和せず、寒暑が時を得ず、万物を損ない、諸侯が暴れて勝手に攻め合い民を害し、礼楽が節度を失い、財政が窮乏し、人倫が乱れ、民が淫らになるのは、天子とその役人の憂いだ。今あなたは、上は君主や役人の権勢もなく、下は大臣や職務を持つ官職もない。それなのに勝手に礼楽を整え、人の道を明らかにし、民を教化しようとしている。あまりにも余計なお節介ではないか。それに、人には八つの欠点があり、事には四つの患いがある。よく見きわめねばならない。自分の仕事でないのに手を出すことを『摠』という。求められてもいないのに意見することを『佞』という。相手の心を探って言葉を合わせることを『諂』という。是非を選ばずに調子を合わせることを『諛』という。人の悪口を好んで言うことを『讒』という。交わりを裂き親しい者を引き離すことを『賊』という。偽りを褒めて人を陥れることを『慝』という。善悪を選ばず、両方にいい顔をして、ひそかに自分の欲しいものを抜き取ることを『険』という。この八つの欠点は、外では人を乱し、内では自分の身を損なう。君子は友とせず、賢明な君主は臣下としない。四つの患いとは何か。大事に手を出したがり、常道を変えて功名にありつこうとすることを『叨』という。知恵を独占し、事を専断し、人を侵して自分勝手にすることを『貪』という。過ちを見ても改めず、諫められるとますますひどくなることを『很』という。人が自分と同じ意見なら認め、違えば、たとえ善くても善しとしないことを『矜』という。これが四つの患いだ。八つの欠点を取り除き、四つの患いを行わなくなって、初めて教えを受けられるのだ」。
解説
この章句が説くこと
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荘子・在宥天下を在宥(ざいゆう)するを聞くも、天下を治むるを聞かざるなり。之を在(あ)らしむるとは、天下の其の性に淫(いん)せんことを恐るればなり。之を宥(ゆる)すとは、天下の其の徳を遷(うつ)さんことを恐るればなり。天下其の性に淫せず、其の徳を遷さずんば、天下を治むる者有らんや。昔堯の天下を治むるや、天下をして欣欣焉(きんきんえん)として人其の性を楽しましむ。是れ恬(てん)ならざるなり。桀の天下を治むるや、天下をして瘁瘁焉(すいすいえん)として人其の性を苦しましむ。是れ愉(ゆ)ならざるなり。夫れ恬ならず愉ならざるは、徳に非ざるなり。徳に非ずして長久なるべき者は、天下に之れ無し。人大いに喜べば、陽に毗(そ)う。大いに怒れば、陰に毗う。陰陽並び毗えば、四時至らず、寒暑の和成らず。其れ反って人の形を傷(そこな)わんか。人をして喜怒位を失い、居処常無く、思慮自得せず、中道にして章を成さざらしむ。是に於いてか天下始めて喬詰(きょうきつ)・卓鷙(たくし)たり。而る後に盗跖・曾・史の行有り。故に天下を挙げて以て其の善なる者を賞するも足らず、天下を挙げて以て其の悪なる者を罰するも給せず。故に天下の大なるも以て賞罰するに足らず。三代より以下は、匈匈焉(きょうきょうえん)として終に賞罰を以て事と為す。彼何ぞ其の性命の情に安んずるに暇あらんや。而も且つ明を説(よろこ)ぶか、是れ色に淫するなり。聡を説ぶか、是れ声に淫するなり。仁を説ぶか、是れ徳を乱すなり。義を説ぶか、是れ理に悖(もと)るなり。礼を説ぶか、是れ技を相(たす)くるなり。楽を説ぶか、是れ淫を相くるなり。聖を説ぶか、是れ芸を相くるなり。知を説ぶか、是れ疵(きず)を相くるなり。天下将に其の性命の情に安んぜんとせば、之の八者は、存するも可なり、亡(な)きも可なり。天下将に其の性命の情に安んぜざらんとせば、之の八者は、乃ち始めて臠巻(れんけん)・獊嚢(そうのう)して天下を乱すなり。而して天下は乃ち始めて之を尊び之を惜しむ。甚だしいかな天下の惑いや。豈に直(た)だ過ぎて之を去るのみならんや。乃ち斉戒して以て之を言い、跪坐(きざ)して以て之を進め、鼓歌して以て之を儛(ま)う。吾是(かく)の若きを何せんや。故に君子已むを得ずして天下に臨まば、無為に若くは莫し。無為にして、而る後に其の性命の情に安んず。故に身を貴ぶこと天下を為(おさ)むるよりもすれば、則ち以て天下を託すべし。身を愛すること天下を為むるよりもすれば、則ち以て天下を寄すべし。故に君子苟(いやしく)も能く其の五蔵を解(と)く無く、其の聡明を擢(ぬ)く無くんば、尸居(しきょ)して竜見(あら)われ、淵黙(えんもく)して雷声あり、神動きて天随う。従容無為にして万物炊累(すいるい)す。吾又た何ぞ天下を治むるに暇あらんや。
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