荘子 / 説剣
王曰:「庶人之劍何如?」曰:「庶人之劍,蓬頭、突鬢、垂冠,曼胡之纓,短後之衣,瞋目而語難,相擊於前,上斬頸領,下決肝肺。此庶人之劍,無異於鬥雞,一旦命已絕矣,無所用於國事。今大王有天子之位,而好庶人之劍,臣竊為大王薄之。」
新字:王曰:「庶人之剣何如?」曰:「庶人之剣,蓬頭、突鬢、垂冠,曼胡之纓,短後之衣,瞋目而語難,相撃於前,上斬頸領,下決肝肺。此庶人之剣,無異於鬥鶏,一旦命已絶矣,無所用於国事。今大王有天子之位,而好庶人之剣,臣窃為大王薄之。」
書き下し
王曰く、「庶人の剣は何如」と。曰く、「庶人の剣は、蓬頭・突鬢・垂冠、曼胡の纓、短後の衣、目を瞋(いか)らして語ること難く、前に相撃つ。上は頸領を斬り、下は肝肺を決す。此れ庶人の剣、闘鶏に異なる無し。一旦、命已に絶えん。国事に用うる所無し。今、大王は天子の位有り。而して庶人の剣を好む。臣は竊かに大王の為に之を薄しとす」と。
現代語訳
王は「庶人の剣とは、どのようなものか」と尋ねた。荘子は言った。「庶人の剣は、髪を振り乱し、鬢を突き立て、冠を垂らし、太い紐を結び、後ろの短い衣を着て、目を怒らせ、言葉少なに、人前で斬り合います。上は首を斬り、下は肝や肺を裂く。この庶人の剣は、闘鶏と何ら変わりません。ある日、命が尽きるだけです。国政には何の役にも立ちません。今、大王は天子の位にありながら、庶人の剣を好んでおられる。私はひそかに、大王のために情けなく思うのです」。
解説
ここで一気に核心を突く一段です。天子の剣、諸侯の剣と語ってきて、最後に「あなたが好んでいるのは庶人の剣です」と言い放つ。しかも「闘鶏と変わりません」。三千人の剣士を集め、年に百人を死なせている王の趣味を、鶏の喧嘩と同じだと切り捨てる。ここまで持ち上げてから落とす構成が見事です。もし最初からこう言えば、斬られていたでしょう。順序と構成が、この諫言を成立させています。
この章句が説くこと
庶人之剣闘鶏に異ならず持ち上げてから落とす諫言の構成
関連する章句
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荘子・説剣王曰く、「願わくは三剣を聞かん」と。曰く、「天子の剣有り、諸侯の剣有り、庶人の剣有り」と。王曰く、「天子の剣は何如」と。曰く、「天子の剣は、燕谿・石城を以て鋒(きっさき)と為し、斉・岱(たい)を以て鍔(つば)と為し、晋・魏を以て脊(みね)と為し、周・宋を以て鐔(つか)と為し、韓・魏を以て夾(はさみ)と為す。包むに四夷を以てし、裹(つつ)むに四時を以てし、繞(めぐ)らすに渤海を以てし、帯するに常山を以てす。制するに五行を以てし、論ずるに刑徳を以てし、開くに陰陽を以てし、持するに春夏を以てし、行うに秋冬を以てす。此の剣、之を直(あ)つれば前無く、之を挙ぐれば上無く、之を案ずれば下無く、之を運らせば旁(かたわら)無し。上は浮雲を決し、下は地紀を絶つ。此の剣、一たび用うれば、諸侯を匡(ただ)し、天下服す。此れ天子の剣なり」と。
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荘子・説剣荘子殿門に入りて趨(はし)らず、王に見えて拝せず。王曰く、「子は何を以て寡人に教えんと欲して、太子をして先んぜしむるか」と。曰く、「臣は大王の剣を喜むを聞く。故に剣を以て王に見ゆ」と。王曰く、「子の剣は何をか能く禁制する」と。曰く、「臣の剣は、十歩に一人、千里に行を留めず」と。王大いに之を悦びて曰く、「天下に敵無きなり」と。荘子曰く、「夫れ剣を為す者は、之に示すに虚を以てし、之を開くに利を以てし、之に後(おく)れて発し、之に先んじて至る。願わくは之を試むるを得ん」と。王曰く、「夫子休して舎に就け。命令を待ちて戯(ぎ)を設け、夫子を請わん」と。王乃ち剣士を校(くら)ぶること七日、死傷する者六十余人。五六人を得て、剣を殿下に奉ぜしめ、乃ち荘子を召す。王曰く、「今日、試みに士をして剣を敦(きそ)わしめん」と。荘子曰く、「之を望むこと久し」と。王曰く、「夫子の御する所の杖、長短は何如」と。曰く、「臣の奉ずる所は皆な可なり。然れども臣に三剣有り。唯だ王の用うる所なり。請う、先ず言いて後に試みん」と。
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荘子・説剣昔、趙の文王剣を喜む。剣士門を夾(はさ)みて客三千余人。日夜前に相撃ち、死傷する者歳に百余人。之を好みて厭(あ)かず。是(かく)の如くすること三年、国衰え、諸侯之を謀る。太子悝(かい)之を患え、左右に募りて曰く、「孰(たれ)か能く王の意を説きて剣士を止めん者あらば、之に千金を賜わん」と。左右曰く、「荘子当(まさ)に能くすべし」と。
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荘子・説剣太子乃ち人をして千金を以て荘子に奉ぜしむ。荘子受けず、使者と俱に往きて太子に見えて曰く、「太子は何を以て周に教え、周に千金を賜わんとするか」と。太子曰く、「夫子の明聖なるを聞く。謹みて千金を奉じて以て従者に幣す。夫子受けず。悝は尚お何ぞ敢えて言わんや」と。荘子曰く、「太子の周を用いんと欲する所を聞くに、王の喜好を絶たんと欲するなり。臣をして上は大王に説きて王の意に逆らい、下は太子に当たらざらしめば、則ち身は刑せられて死せん。周は尚お安(いず)くにか金を事とする所あらんや。臣をして上は大王に説き、下は太子に当たらしめば、趙国何を求めて得ざらんや」と。太子曰く、「然り。吾が王の見る所は、唯だ剣士のみ」と。荘子曰く、「諾。周は善く剣を為す」と。太子曰く、「然れども吾が王の見る所の剣士は、皆な蓬頭・突鬢(とつびん)・垂冠、曼胡(まんこ)の纓(えい)、短後の衣、目を嗔(いか)らして語ること難(かた)し。王乃ち之を説(よろこ)ぶ。今、夫子必ず儒服して王に見えば、事必ず大いに逆らわん」と。荘子曰く、「請う、剣服を治めん」と。剣服を治むること三日、乃ち太子に見ゆ。太子乃ち与に王に見ゆ。王は白刃を脱して之を待つ。
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