荘子 / 盗跖
孔子再拜趨走,出門上車,執轡三失,目芒然無見,色若死灰,據軾低頭,不能出氣。歸到魯東門外,適遇柳下季。柳下季曰:「今者闕然數日不見,車馬有行色,得微往見跖邪?」孔子仰天而歎曰:「然。」柳下季曰:「跖得無逆汝意若前乎?」孔子曰:「然。丘所謂無病而自灸也,疾走料虎頭,編虎須,幾不免虎口哉!」
新字:孔子再拝趨走,出門上車,執轡三失,目芒然無見,色若死灰,拠軾低頭,不能出気。帰到魯東門外,適遇柳下季。柳下季曰:「今者闕然数日不見,車馬有行色,得微往見跖邪?」孔子仰天而嘆曰:「然。」柳下季曰:「跖得無逆汝意若前乎?」孔子曰:「然。丘所謂無病而自灸也,疾走料虎頭,編虎須,幾不免虎口哉!」
書き下し
孔子再拝して趨り走り、門を出でて車に上る。轡(たづな)を執ること三たび失す。目は芒然として見る無く、色は死灰の若し。軾(しょく)に拠りて頭を低(た)れ、気を出だす能わず。帰りて魯の東門の外に到り、適(たまた)ま柳下季に遇う。柳下季曰く、「今者(このごろ)闕然(けつぜん)として数日見えず。車馬に行色有り。得(そもそ)も微(な)くも往きて跖に見えしか」と。孔子天を仰ぎて歎じて曰く、「然り」と。柳下季曰く、「跖は汝の意に逆らうこと前の若きこと無からんか」と。孔子曰く、「然り。丘は所謂病無くして自ら灸するなり。疾く走りて虎の頭を料(な)で、虎の鬚を編む。幾(ほとん)ど虎口を免れざらんかな」と。
現代語訳
孔子は二度拝礼して小走りに逃げ出し、門を出て車に乗った。手綱を三度も取り落とした。目はうつろで何も見えず、顔色は冷えた灰のようだった。車の横木にもたれて頭を垂れ、息もできなかった。魯の東門の外まで帰ってきたところで、たまたま柳下季に出会った。柳下季は言った。「このところ数日お見かけしませんでしたが。馬車に旅の色がある。もしや、跖に会いに行かれたのですか」。孔子は天を仰いで嘆息して言った。「その通りだ」。柳下季は「跖は、以前私が申し上げた通り、あなたの意に逆らいませんでしたか」と言った。孔子は言った。「その通りだ。私は、病気でもないのに自分に灸を据えたようなものだ。走って行って虎の頭を撫で、虎の髭を編んだ。あやうく虎の口を免れなかったところだ」。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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荘子・盗跖孔子復た通じて曰く、「丘は季に幸を得たり。願わくは履(くつ)を幕下に望まん」と。謁者復た通ず。盗跖曰く、「来たりて前ましめよ」と。孔子趨(はし)りて進み、席を避けて反り走り、盗跖に再拝す。盗跖大いに怒り、両つながら其の足を展(の)べ、剣を案(お)さえ目を瞋(いか)らす。声は乳虎の如し。曰く、「丘、前に来たれ。若(なんじ)の言う所、吾が意に順えば則ち生き、吾が心に逆らえば則ち死せん」と。
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荘子・盗跖孔子聴かず。顔回御と為り、子貢右と為り、往きて盗跖に見ゆ。盗跖乃ち方(まさ)に卒徒を太山の陽に休ませ、人の肝を膾(なます)にして之を餔(くら)う。孔子車を下りて前み、謁者に見えて曰く、「魯人孔丘、将軍の高義を聞き、敬みて謁者に再拝す」と。謁者入りて通ず。盗跖之を聞きて大いに怒る。目は明星の如く、髪は上りて冠を指す。曰く、「此れ夫の魯国の巧偽人(こうぎじん)孔丘に非ずや。我が為に之に告げよ。『爾(なんじ)は言を作り語を造り、妄りに文・武を称す。枝木の冠を冠し、死牛の脅(あばら)を帯とし、多辞繆説(びゅうせつ)、耕さずして食らい、織らずして衣る。唇を揺らし舌を鼓し、擅(ほしいまま)に是非を生じ、以て天下の主を迷わし、天下の学士をして其の本に反らざらしむ。妄りに孝弟を作りて、封侯富貴に儌倖(ぎょうこう)する者なり。子の罪は大にして極めて重し。疾(と)く走りて帰れ。然らずんば、我将に子の肝を以て昼餔(ちゅうほ)の膳に益さんとす』と」。
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荘子・盗跖孔子柳下季に謂いて曰く、「夫れ人の父たる者は、必ず能く其の子に詔(つ)ぐ。人の兄たる者は、必ず能く其の弟を教う。若し父は其の子に詔ぐ能わず、兄は其の弟を教うる能わずんば、則ち父子兄弟の親を貴ぶこと無からん。今、先生は世の才士なり。弟は盗跖と為り、天下の害を為す。而も教うる能わざるなり。丘は竊(ひそ)かに先生の為に之を羞(は)ず。丘請う、先生の為に往きて之を説かん」と。柳下季曰く、「先生は『人の父たる者は必ず能く其の子に詔ぎ、人の兄たる者は必ず能く其の弟を教う』と言う。若し子は父の詔ぎを聴かず、弟は兄の教えを受けずんば、今、先生の辯有りと雖も、将に之を奈何(いかん)せんとするか。且つ跖の人と為りや、心は涌泉の如く、意は飄風の如し。強は以て敵を距(ふせ)ぐに足り、辯は以て非を飾るに足る。其の心に順えば則ち喜び、其の心に逆らえば則ち怒る。人を辱むるに言を以てするを易しとす。先生必ず往くこと無かれ」と。
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荘子・盗跖孔子は柳下季(りゅうかき)と友と為る。柳下季の弟、名を盗跖(とうせき)と曰う。盗跖は従卒九千人、天下を横行し、諸侯を侵暴す。室を穴(うが)ち戸を枢(こじあ)け、人の牛馬を駆り、人の婦女を取る。得るを貪りて親を忘れ、父母兄弟を顧みず、先祖を祭らず。過ぐる所の邑(むら)、大国は城を守り、小国は保(とりで)に入る。万民之に苦しむ。
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荘子・盗跖今、子は文・武の道を修め、天下の辯を掌り、以て後世を教う。縫衣浅帯(ほういせんたい)、矯言偽行(きょうげんぎこう)、以て天下の主を迷惑し、而して富貴を求めんと欲す。盗は子より大なるは莫し。天下何の故に子を謂いて盗丘(とうきゅう)と為さずして、乃ち我を謂いて盗跖と為すか。子は甘辞を以て子路を説きて之を従わしめ、子路をして其の危冠(きかん)を去り、其の長剣を解きて、教えを子に受けしむ。天下皆な曰く『孔丘は能く暴を止め非を禁ず』と。其の卒(つい)に之れ、子路は衛君を殺さんと欲して事成らず、身は衛の東門の上に菹(しし)にせらる。是れ子の教えの至らざるなり。子は自ら才士聖人と謂うか。則ち再び魯に逐われ、跡を衛に削られ、斉に窮し、陳・蔡に囲まれ、身を天下に容れられず。子は子路を教えて此の患いに菹にす。上は以て身を為(おさ)むる無く、下は以て人を為むる無し。子の道、豈に貴ぶに足らんや。
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荘子・漁父孔子愀然(しゅうぜん)として歎じ、再拝して起ちて曰く、「丘は再び魯に逐われ、跡を衛に削られ、樹を宋に伐られ、陳・蔡に囲まる。丘は失う所を知らず。而して此の四謗に離(かか)るは何ぞや」と。客悽然(せいぜん)として容を変じて曰く、「甚だしいかな子の悟り難きや。人に影を畏れ跡を悪みて之を去りて走る者有り。足を挙ぐること愈(いよい)よ数(しばしば)にして跡愈よ多く、走ること愈よ疾(と)くして影は身を離れず。自ら以為(おも)えらく尚お遅しと。疾く走りて休まず、力を絶して死せり。陰に処りて以て影を休め、静に処りて以て跡を息(や)むるを知らず。愚も亦た甚だし。子は仁義の間を審らかにし、同異の際を察し、動静の変を観、受与の度に適し、好悪の情を理(おさ)め、喜怒の節を和す。而も不免に幾(ちか)し。謹みて而(なんじ)の身を修め、慎みて其の真を守り、還(ま)た物を以て人に与えば、則ち累(わずら)わさるる所無からん。今、之を身に修めずして之を人に求む。亦た外ならずや」と。
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