荘子 / 盗跖
今子修文、武之道,掌天下之辯,以教後世,縫衣淺帶,矯言偽行,以迷惑天下之主,而欲求富貴焉,盜莫大於子。天下何故不謂子為盜丘而乃謂我為盜跖?子以甘辭說子路而使從之,使子路去其危冠,解其長劍,而受教於子,天下皆曰『孔丘能止暴禁非』。其卒之也,子路欲殺衛君而事不成,身菹於衛東門之上,是子教之不至也。子自謂才士聖人邪!則再逐於魯,削跡於衛,窮於齊,圍於陳、蔡,不容身於天下。子教子路菹此患,上無以為身,下無以為人,子之道豈足貴邪?
新字:今子修文、武之道,掌天下之弁,以教後世,縫衣浅帯,矯言偽行,以迷惑天下之主,而欲求富貴焉,盗莫大於子。天下何故不謂子為盗丘而乃謂我為盗跖?子以甘辞説子路而使従之,使子路去其危冠,解其長剣,而受教於子,天下皆曰『孔丘能止暴禁非』。其卒之也,子路欲殺衛君而事不成,身菹於衛東門之上,是子教之不至也。子自謂才士聖人邪!則再逐於魯,削跡於衛,窮於斉,囲於陳、蔡,不容身於天下。子教子路菹此患,上無以為身,下無以為人,子之道豈足貴邪?
書き下し
今、子は文・武の道を修め、天下の辯を掌り、以て後世を教う。縫衣浅帯(ほういせんたい)、矯言偽行(きょうげんぎこう)、以て天下の主を迷惑し、而して富貴を求めんと欲す。盗は子より大なるは莫し。天下何の故に子を謂いて盗丘(とうきゅう)と為さずして、乃ち我を謂いて盗跖と為すか。子は甘辞を以て子路を説きて之を従わしめ、子路をして其の危冠(きかん)を去り、其の長剣を解きて、教えを子に受けしむ。天下皆な曰く『孔丘は能く暴を止め非を禁ず』と。其の卒(つい)に之れ、子路は衛君を殺さんと欲して事成らず、身は衛の東門の上に菹(しし)にせらる。是れ子の教えの至らざるなり。子は自ら才士聖人と謂うか。則ち再び魯に逐われ、跡を衛に削られ、斉に窮し、陳・蔡に囲まれ、身を天下に容れられず。子は子路を教えて此の患いに菹にす。上は以て身を為(おさ)むる無く、下は以て人を為むる無し。子の道、豈に貴ぶに足らんや。
現代語訳
今、お前は文王や武王の道を修め、天下の弁論を握って、後の世に教えている。だぶだぶの衣に幅の狭い帯、こしらえた言葉と偽りの行いで、天下の君主を惑わし、富貴を求めている。盗人としては、お前ほど大きな者はいない。天下はどうして、お前を『盗丘』と呼ばず、私だけを『盗跖』と呼ぶのか。お前は甘い言葉で子路を口説いて従わせ、その高い冠を脱がせ、長剣を解かせて、お前の教えを受けさせた。天下はみな『孔丘は暴力を止め、悪事を禁じられる』と言った。ところが結末はどうだ。子路は衛の君主を殺そうとして失敗し、その死体は衛の東門の上で塩漬けにされた。それはお前の教えが行き届かなかったからだ。お前は自分を才士だ聖人だと言うのか。二度も魯を追われ、衛では足跡を消され、斉で行き詰まり、陳と蔡で包囲され、天下に身の置き所もない。お前は子路を教えて、こんな災いに遭わせた。上は自分の身も治められず、下は人も治められない。お前の道の、どこが尊いというのか。
解説
この章句が説くこと
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荘子・盗跖孔子聴かず。顔回御と為り、子貢右と為り、往きて盗跖に見ゆ。盗跖乃ち方(まさ)に卒徒を太山の陽に休ませ、人の肝を膾(なます)にして之を餔(くら)う。孔子車を下りて前み、謁者に見えて曰く、「魯人孔丘、将軍の高義を聞き、敬みて謁者に再拝す」と。謁者入りて通ず。盗跖之を聞きて大いに怒る。目は明星の如く、髪は上りて冠を指す。曰く、「此れ夫の魯国の巧偽人(こうぎじん)孔丘に非ずや。我が為に之に告げよ。『爾(なんじ)は言を作り語を造り、妄りに文・武を称す。枝木の冠を冠し、死牛の脅(あばら)を帯とし、多辞繆説(びゅうせつ)、耕さずして食らい、織らずして衣る。唇を揺らし舌を鼓し、擅(ほしいまま)に是非を生じ、以て天下の主を迷わし、天下の学士をして其の本に反らざらしむ。妄りに孝弟を作りて、封侯富貴に儌倖(ぎょうこう)する者なり。子の罪は大にして極めて重し。疾(と)く走りて帰れ。然らずんば、我将に子の肝を以て昼餔(ちゅうほ)の膳に益さんとす』と」。
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荘子・盗跖孔子曰く、「丘之を聞く。凡そ天下に三徳有り。生まれて長大、美好無双、少長貴賎、見て皆な之を説(よろこ)ぶ。此れ上徳なり。知は天地を維(つな)ぎ、能く諸物を辯ず。此れ中徳なり。勇悍果敢、衆を聚めて兵を率いる。此れ下徳なり。凡そ人、此の一徳有る者は、以て南面して孤(こ)と称するに足る。今、将軍は此の三者を兼ぬ。身の長け八尺二寸、面目に光有り、唇は激丹の如く、歯は斉貝の如く、音は黄鐘に中(あた)る。而も名は盗跖と曰う。丘は竊かに将軍の為に恥じて取らざるなり。将軍、臣を聴くに意有らば、臣請う、南のかた呉・越に使いし、北のかた斉・魯に使いし、東のかた宋・衛に使いし、西のかた晋・楚に使いせん。将軍の為に大城数百里を造り、数十万戸の邑を立て、将軍を尊びて諸侯と為し、天下と与に更(あらた)め始め、兵を罷(や)め卒を休め、昆弟を収養し、共に先祖を祭らしめん。此れ聖人才士の行にして、天下の願いなり」と。
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荘子・盗跖盗跖大いに怒りて曰く、「丘、前に来たれ。夫れ利を以て規(さと)すべくして言を以て諫むべき者は、皆な愚陋恒民(ぐろうこうみん)の謂いのみ。今、長大美好にして、人見て之を悦ぶ者は、此れ吾が父母の遺徳なり。丘は吾を誉めずと雖も、吾独り自ら知らざらんや。且つ吾之を聞く、『面を好みて人を誉むる者は、亦た背を好みて之を毀(そし)る』と。今、丘は我に告ぐるに大城衆民を以てす。是れ我を規すに利を以てして、恒民として我を畜(やしな)わんと欲するなり。安(いず)くんぞ久長なるべけんや。城の大なる者は、天下より大なるは莫し。堯・舜は天下を有つも、子孫に錐を置くの地無し。湯・武は立ちて天子と為るも、後世に絶滅す。其の利の大なるを以ての故に非ずや。
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荘子・盗跖孔子は柳下季(りゅうかき)と友と為る。柳下季の弟、名を盗跖(とうせき)と曰う。盗跖は従卒九千人、天下を横行し、諸侯を侵暴す。室を穴(うが)ち戸を枢(こじあ)け、人の牛馬を駆り、人の婦女を取る。得るを貪りて親を忘れ、父母兄弟を顧みず、先祖を祭らず。過ぐる所の邑(むら)、大国は城を守り、小国は保(とりで)に入る。万民之に苦しむ。
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荘子・盗跖孔子柳下季に謂いて曰く、「夫れ人の父たる者は、必ず能く其の子に詔(つ)ぐ。人の兄たる者は、必ず能く其の弟を教う。若し父は其の子に詔ぐ能わず、兄は其の弟を教うる能わずんば、則ち父子兄弟の親を貴ぶこと無からん。今、先生は世の才士なり。弟は盗跖と為り、天下の害を為す。而も教うる能わざるなり。丘は竊(ひそ)かに先生の為に之を羞(は)ず。丘請う、先生の為に往きて之を説かん」と。柳下季曰く、「先生は『人の父たる者は必ず能く其の子に詔ぎ、人の兄たる者は必ず能く其の弟を教う』と言う。若し子は父の詔ぎを聴かず、弟は兄の教えを受けずんば、今、先生の辯有りと雖も、将に之を奈何(いかん)せんとするか。且つ跖の人と為りや、心は涌泉の如く、意は飄風の如し。強は以て敵を距(ふせ)ぐに足り、辯は以て非を飾るに足る。其の心に順えば則ち喜び、其の心に逆らえば則ち怒る。人を辱むるに言を以てするを易しとす。先生必ず往くこと無かれ」と。
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荘子・盗跖子張曰く、「昔者、桀・紂は貴きこと天子と為り、富は天下を有つ。今、臧聚(ぞうしゅう)に謂いて『汝の行いは桀・紂の如し』と曰わば、則ち怍色(さくしょく)有り、服せざるの心有らん。小人の賎しむ所なり。仲尼・墨翟は、窮して匹夫たり。今、宰相に謂いて『子の行いは仲尼・墨翟の如し』と曰わば、則ち容を変じ色を易えて足らずと称せん。士は誠に貴きなり。故に勢は天子と為るも、未だ必ずしも貴からず。窮して匹夫たるも、未だ必ずしも賎しからず。貴賎の分は、行いの美悪に在り」と。満苟得曰く、「小盗は拘(とら)えられ、大盗は諸侯と為る。諸侯の門に、義士存す。昔者、桓公小白は兄を殺し嫂(あによめ)に入る。而も管仲は臣と為る。田成子常は君を殺し国を竊(ぬす)む。而も孔子は幣を受く。論ずれば則ち之を賎しみ、行えば則ち之に下る。則ち是れ言行の情、胸中に悖戦(はいせん)するなり。亦た拂(もと)らずや。故に《書》に曰く、『孰(いず)れか悪しく孰れか美なる。成る者は首と為り、成らざる者は尾と為る』と」。
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