荘子 / 盗跖
盜跖大怒曰:「丘來前!夫可規以利而可諫以言者,皆愚陋恆民之謂耳。今長大美好,人見而悅之者,此吾父母之遺德也。丘雖不吾譽,吾獨不自知邪?且吾聞之:『好面譽人者,亦好背而毀之。』今丘告我以大城眾民,是欲規我以利而恆民畜我也,安可久長也?城之大者,莫大乎天下矣。堯、舜有天下,子孫無置錐之地,湯、武立為天子而後世絕滅,非以其利大故邪?
新字:盗跖大怒曰:「丘来前!夫可規以利而可諫以言者,皆愚陋恒民之謂耳。今長大美好,人見而悦之者,此吾父母之遺徳也。丘雖不吾誉,吾独不自知邪?且吾聞之:『好面誉人者,亦好背而毀之。』今丘告我以大城衆民,是欲規我以利而恒民畜我也,安可久長也?城之大者,莫大乎天下矣。堯、舜有天下,子孫無置錐之地,湯、武立為天子而後世絶滅,非以其利大故邪?
書き下し
盗跖大いに怒りて曰く、「丘、前に来たれ。夫れ利を以て規(さと)すべくして言を以て諫むべき者は、皆な愚陋恒民(ぐろうこうみん)の謂いのみ。今、長大美好にして、人見て之を悦ぶ者は、此れ吾が父母の遺徳なり。丘は吾を誉めずと雖も、吾独り自ら知らざらんや。且つ吾之を聞く、『面を好みて人を誉むる者は、亦た背を好みて之を毀(そし)る』と。今、丘は我に告ぐるに大城衆民を以てす。是れ我を規すに利を以てして、恒民として我を畜(やしな)わんと欲するなり。安(いず)くんぞ久長なるべけんや。城の大なる者は、天下より大なるは莫し。堯・舜は天下を有つも、子孫に錐を置くの地無し。湯・武は立ちて天子と為るも、後世に絶滅す。其の利の大なるを以ての故に非ずや。
現代語訳
盗跖は激怒して言った。「丘、前に来い。利益で説得でき、言葉で諫められるような者は、みな愚かで卑しい凡人だ。今、体格が大きく容姿が美しく、人が見て喜ぶというのは、私の父母から受け継いだ徳だ。お前が褒めなくても、私が自分で知らないとでも思うのか。それに私はこう聞いている。『面と向かって人を褒める者は、陰でその人をけなすことも好む』と。今、お前は私に大きな城と大勢の民を約束した。それは私を利益で誘導し、凡人として飼い慣らそうということだ。そんなものが長続きするものか。城で最も大きいものといえば、天下に勝るものはない。堯や舜は天下を持ったが、その子孫には錐を立てる土地さえなかった。湯王や武王は天子となったが、後の世に断絶した。それは、彼らの得た利益が大きすぎたからではないのか。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
荘子・盗跖孔子曰く、「丘之を聞く。凡そ天下に三徳有り。生まれて長大、美好無双、少長貴賎、見て皆な之を説(よろこ)ぶ。此れ上徳なり。知は天地を維(つな)ぎ、能く諸物を辯ず。此れ中徳なり。勇悍果敢、衆を聚めて兵を率いる。此れ下徳なり。凡そ人、此の一徳有る者は、以て南面して孤(こ)と称するに足る。今、将軍は此の三者を兼ぬ。身の長け八尺二寸、面目に光有り、唇は激丹の如く、歯は斉貝の如く、音は黄鐘に中(あた)る。而も名は盗跖と曰う。丘は竊かに将軍の為に恥じて取らざるなり。将軍、臣を聴くに意有らば、臣請う、南のかた呉・越に使いし、北のかた斉・魯に使いし、東のかた宋・衛に使いし、西のかた晋・楚に使いせん。将軍の為に大城数百里を造り、数十万戸の邑を立て、将軍を尊びて諸侯と為し、天下と与に更(あらた)め始め、兵を罷(や)め卒を休め、昆弟を収養し、共に先祖を祭らしめん。此れ聖人才士の行にして、天下の願いなり」と。
-
荘子・盗跖今、子は文・武の道を修め、天下の辯を掌り、以て後世を教う。縫衣浅帯(ほういせんたい)、矯言偽行(きょうげんぎこう)、以て天下の主を迷惑し、而して富貴を求めんと欲す。盗は子より大なるは莫し。天下何の故に子を謂いて盗丘(とうきゅう)と為さずして、乃ち我を謂いて盗跖と為すか。子は甘辞を以て子路を説きて之を従わしめ、子路をして其の危冠(きかん)を去り、其の長剣を解きて、教えを子に受けしむ。天下皆な曰く『孔丘は能く暴を止め非を禁ず』と。其の卒(つい)に之れ、子路は衛君を殺さんと欲して事成らず、身は衛の東門の上に菹(しし)にせらる。是れ子の教えの至らざるなり。子は自ら才士聖人と謂うか。則ち再び魯に逐われ、跡を衛に削られ、斉に窮し、陳・蔡に囲まれ、身を天下に容れられず。子は子路を教えて此の患いに菹にす。上は以て身を為(おさ)むる無く、下は以て人を為むる無し。子の道、豈に貴ぶに足らんや。
-
荘子・盗跖子張曰く、「昔者、桀・紂は貴きこと天子と為り、富は天下を有つ。今、臧聚(ぞうしゅう)に謂いて『汝の行いは桀・紂の如し』と曰わば、則ち怍色(さくしょく)有り、服せざるの心有らん。小人の賎しむ所なり。仲尼・墨翟は、窮して匹夫たり。今、宰相に謂いて『子の行いは仲尼・墨翟の如し』と曰わば、則ち容を変じ色を易えて足らずと称せん。士は誠に貴きなり。故に勢は天子と為るも、未だ必ずしも貴からず。窮して匹夫たるも、未だ必ずしも賎しからず。貴賎の分は、行いの美悪に在り」と。満苟得曰く、「小盗は拘(とら)えられ、大盗は諸侯と為る。諸侯の門に、義士存す。昔者、桓公小白は兄を殺し嫂(あによめ)に入る。而も管仲は臣と為る。田成子常は君を殺し国を竊(ぬす)む。而も孔子は幣を受く。論ずれば則ち之を賎しみ、行えば則ち之に下る。則ち是れ言行の情、胸中に悖戦(はいせん)するなり。亦た拂(もと)らずや。故に《書》に曰く、『孰(いず)れか悪しく孰れか美なる。成る者は首と為り、成らざる者は尾と為る』と」。
-
荘子・盗跖孔子聴かず。顔回御と為り、子貢右と為り、往きて盗跖に見ゆ。盗跖乃ち方(まさ)に卒徒を太山の陽に休ませ、人の肝を膾(なます)にして之を餔(くら)う。孔子車を下りて前み、謁者に見えて曰く、「魯人孔丘、将軍の高義を聞き、敬みて謁者に再拝す」と。謁者入りて通ず。盗跖之を聞きて大いに怒る。目は明星の如く、髪は上りて冠を指す。曰く、「此れ夫の魯国の巧偽人(こうぎじん)孔丘に非ずや。我が為に之に告げよ。『爾(なんじ)は言を作り語を造り、妄りに文・武を称す。枝木の冠を冠し、死牛の脅(あばら)を帯とし、多辞繆説(びゅうせつ)、耕さずして食らい、織らずして衣る。唇を揺らし舌を鼓し、擅(ほしいまま)に是非を生じ、以て天下の主を迷わし、天下の学士をして其の本に反らざらしむ。妄りに孝弟を作りて、封侯富貴に儌倖(ぎょうこう)する者なり。子の罪は大にして極めて重し。疾(と)く走りて帰れ。然らずんば、我将に子の肝を以て昼餔(ちゅうほ)の膳に益さんとす』と」。
-
荘子・盗跖無足曰く、「夫れ富の人に於けるや、利あらざる所無し。美を窮め埶(せい)を究む。至人の逮(およ)ぶを得ざる所、賢人の及ぶ能わざる所なり。人の勇力を俠(か)りて威強を為さず、人の知謀を秉(と)りて以て明察と為し、人の徳に因りて以て賢良と為す。国を享(う)くるに非ずして厳なること君父の若し。且つ夫れ声色・滋味・権勢の人に於けるや、心は学ぶを待たずして之を楽しみ、体は象(かたど)るを待たずして之に安んず。夫れ欲悪避就は、固より師を待たず。此れ人の性なり。天下我を非とすと雖も、孰か能く之を辞せんや」と。知和曰く、「知者の為すや、故に動くに百姓を以てし、其の度に違わず。是を以て足りて争わず。以て為す無き故に求めず。足らざる故に之を求め、四処に争いて自ら以て貪と為さず。余り有る故に之を辞し、天下を棄てて自ら以て廉と為さず。廉貪の実は、外に迫らるるを以てするに非ず。反りて之を度に監みるなり。勢は天子と為るも貴を以て人に驕らず、富は天下を有つも財を以て人に戯(たわむ)れず。其の患いを計り、其の反を慮り、以て性を害すと為す。故に辞して受けず。名誉を要(もと)むるを以てするに非ざるなり。堯・舜は帝と為りて雍(やわら)ぐ。天下に仁なるに非ざるなり。美を以て生を害せざるなり。善巻・許由は帝を得て受けず。虚しく辞譲するに非ざるなり。事を以て己を害せざるなり。此れ皆な其の利に就き、其の害を辞して、天下之を賢と称す。則ち以て之を有つべきも、彼は名誉を興すを以てするに非ざるなり」と。
-
荘子・盗跖丘の我を説く所以の者、若し我に告ぐるに鬼事を以てせば、則ち我は知る能わず。若し我に告ぐるに人事を以てせば、此に過ぎず。皆な吾の聞知する所なり。今、吾は子に告ぐるに人の情を以てせん。目は色を視んと欲し、耳は声を聴かんと欲し、口は味を察せんと欲し、志気は盈(み)たんと欲す。人の上寿は百歳、中寿は八十、下寿は六十なり。病瘦(びょうそう)、死喪、憂患を除けば、其の中に口を開きて笑う者は、一月の中、四五日に過ぎざるのみ。天と地とは窮まり無く、人の死する者は時有り。時有るの具を操りて無窮の間に託す。忽然として騏驥(きき)の隙を馳せ過ぐるに異なる無し。其の志意を説(よろこ)ばせ、其の寿命を養う能わざる者は、皆な道に通ずる者に非ざるなり。丘の言う所は、皆な吾の棄つる所なり。亟(すみ)やかに去り走りて帰れ。復た之を言うこと無かれ。子の道は、狂狂汲汲(きょうきょうきゅうきゅう)、詐巧虚偽の事なり。真を全うすべきに非ざるなり。奚(なん)ぞ論ずるに足らんや」と。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る