荘子 / 盗跖
孔子不聽,顏回為御,子貢為右,往見盜跖。盜跖乃方休卒徒太山之陽,膾人肝而餔之。孔子下車而前,見謁者曰:「魯人孔丘,聞將軍高義,敬再拜謁者。」謁者入通,盜跖聞之大怒,目如明星,髮上指冠,曰:「此夫魯國之巧偽人孔丘非邪?為我告之:『爾作言造語,妄稱文、武,冠枝木之冠,帶死牛之脅,多辭繆說,不耕而食,不織而衣,搖脣鼓舌,擅生是非,以迷天下之主,使天下學士不反其本,妄作孝弟而儌倖於封侯富貴者也。子之罪大極重,疾走歸!不然,我將以子肝益晝餔之膳。』」
新字:孔子不聴,顔回為御,子貢為右,往見盗跖。盗跖乃方休卒徒太山之陽,膾人肝而餔之。孔子下車而前,見謁者曰:「魯人孔丘,聞将軍高義,敬再拝謁者。」謁者入通,盗跖聞之大怒,目如明星,髪上指冠,曰:「此夫魯国之巧偽人孔丘非邪?為我告之:『爾作言造語,妄称文、武,冠枝木之冠,帯死牛之脅,多辞繆説,不耕而食,不織而衣,揺脣鼓舌,擅生是非,以迷天下之主,使天下学士不反其本,妄作孝弟而儌倖於封侯富貴者也。子之罪大極重,疾走帰!不然,我将以子肝益昼餔之膳。』」
書き下し
孔子聴かず。顔回御と為り、子貢右と為り、往きて盗跖に見ゆ。盗跖乃ち方(まさ)に卒徒を太山の陽に休ませ、人の肝を膾(なます)にして之を餔(くら)う。孔子車を下りて前み、謁者に見えて曰く、「魯人孔丘、将軍の高義を聞き、敬みて謁者に再拝す」と。謁者入りて通ず。盗跖之を聞きて大いに怒る。目は明星の如く、髪は上りて冠を指す。曰く、「此れ夫の魯国の巧偽人(こうぎじん)孔丘に非ずや。我が為に之に告げよ。『爾(なんじ)は言を作り語を造り、妄りに文・武を称す。枝木の冠を冠し、死牛の脅(あばら)を帯とし、多辞繆説(びゅうせつ)、耕さずして食らい、織らずして衣る。唇を揺らし舌を鼓し、擅(ほしいまま)に是非を生じ、以て天下の主を迷わし、天下の学士をして其の本に反らざらしむ。妄りに孝弟を作りて、封侯富貴に儌倖(ぎょうこう)する者なり。子の罪は大にして極めて重し。疾(と)く走りて帰れ。然らずんば、我将に子の肝を以て昼餔(ちゅうほ)の膳に益さんとす』と」。
現代語訳
孔子は聞き入れなかった。顔回に馬車を御させ、子貢を右に乗せて、盗跖に会いに行った。盗跖はちょうど手下たちを太山の南で休ませ、人の肝を膾にして食べていた。孔子は車を降りて進み出て、取次役に会って言った。「魯の者、孔丘と申します。将軍の高い義を聞き、謹んでご挨拶申し上げます」。取次役が中に入って伝えた。盗跖はそれを聞いて激怒した。目は明星のように光り、髪は逆立って冠を突き上げた。「あの魯の国の、巧みな偽善者、孔丘ではないか。こう伝えろ。『お前は言葉をこしらえ、でたらめに文王や武王を持ち出す。枝を編んだ冠をかぶり、死んだ牛の皮を帯にして、無駄口とこじつけばかり。耕さずに食い、織らずに着る。唇を動かし舌を鳴らして、勝手に是非をでっち上げ、天下の君主を惑わし、天下の学者を根本から遠ざける。でたらめに孝行や悌順をこしらえて、諸侯の位や富貴にありつこうとする輩だ。お前の罪は極めて重い。さっさと帰れ。さもなくば、お前の肝を昼飯のおかずに加えてやる』」。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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荘子・盗跖今、子は文・武の道を修め、天下の辯を掌り、以て後世を教う。縫衣浅帯(ほういせんたい)、矯言偽行(きょうげんぎこう)、以て天下の主を迷惑し、而して富貴を求めんと欲す。盗は子より大なるは莫し。天下何の故に子を謂いて盗丘(とうきゅう)と為さずして、乃ち我を謂いて盗跖と為すか。子は甘辞を以て子路を説きて之を従わしめ、子路をして其の危冠(きかん)を去り、其の長剣を解きて、教えを子に受けしむ。天下皆な曰く『孔丘は能く暴を止め非を禁ず』と。其の卒(つい)に之れ、子路は衛君を殺さんと欲して事成らず、身は衛の東門の上に菹(しし)にせらる。是れ子の教えの至らざるなり。子は自ら才士聖人と謂うか。則ち再び魯に逐われ、跡を衛に削られ、斉に窮し、陳・蔡に囲まれ、身を天下に容れられず。子は子路を教えて此の患いに菹にす。上は以て身を為(おさ)むる無く、下は以て人を為むる無し。子の道、豈に貴ぶに足らんや。
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荘子・盗跖孔子復た通じて曰く、「丘は季に幸を得たり。願わくは履(くつ)を幕下に望まん」と。謁者復た通ず。盗跖曰く、「来たりて前ましめよ」と。孔子趨(はし)りて進み、席を避けて反り走り、盗跖に再拝す。盗跖大いに怒り、両つながら其の足を展(の)べ、剣を案(お)さえ目を瞋(いか)らす。声は乳虎の如し。曰く、「丘、前に来たれ。若(なんじ)の言う所、吾が意に順えば則ち生き、吾が心に逆らえば則ち死せん」と。
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荘子・盗跖孔子曰く、「丘之を聞く。凡そ天下に三徳有り。生まれて長大、美好無双、少長貴賎、見て皆な之を説(よろこ)ぶ。此れ上徳なり。知は天地を維(つな)ぎ、能く諸物を辯ず。此れ中徳なり。勇悍果敢、衆を聚めて兵を率いる。此れ下徳なり。凡そ人、此の一徳有る者は、以て南面して孤(こ)と称するに足る。今、将軍は此の三者を兼ぬ。身の長け八尺二寸、面目に光有り、唇は激丹の如く、歯は斉貝の如く、音は黄鐘に中(あた)る。而も名は盗跖と曰う。丘は竊かに将軍の為に恥じて取らざるなり。将軍、臣を聴くに意有らば、臣請う、南のかた呉・越に使いし、北のかた斉・魯に使いし、東のかた宋・衛に使いし、西のかた晋・楚に使いせん。将軍の為に大城数百里を造り、数十万戸の邑を立て、将軍を尊びて諸侯と為し、天下と与に更(あらた)め始め、兵を罷(や)め卒を休め、昆弟を収養し、共に先祖を祭らしめん。此れ聖人才士の行にして、天下の願いなり」と。
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荘子・盗跖孔子は柳下季(りゅうかき)と友と為る。柳下季の弟、名を盗跖(とうせき)と曰う。盗跖は従卒九千人、天下を横行し、諸侯を侵暴す。室を穴(うが)ち戸を枢(こじあ)け、人の牛馬を駆り、人の婦女を取る。得るを貪りて親を忘れ、父母兄弟を顧みず、先祖を祭らず。過ぐる所の邑(むら)、大国は城を守り、小国は保(とりで)に入る。万民之に苦しむ。
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荘子・盗跖孔子再拝して趨り走り、門を出でて車に上る。轡(たづな)を執ること三たび失す。目は芒然として見る無く、色は死灰の若し。軾(しょく)に拠りて頭を低(た)れ、気を出だす能わず。帰りて魯の東門の外に到り、適(たまた)ま柳下季に遇う。柳下季曰く、「今者(このごろ)闕然(けつぜん)として数日見えず。車馬に行色有り。得(そもそ)も微(な)くも往きて跖に見えしか」と。孔子天を仰ぎて歎じて曰く、「然り」と。柳下季曰く、「跖は汝の意に逆らうこと前の若きこと無からんか」と。孔子曰く、「然り。丘は所謂病無くして自ら灸するなり。疾く走りて虎の頭を料(な)で、虎の鬚を編む。幾(ほとん)ど虎口を免れざらんかな」と。
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荘子・盗跖孔子柳下季に謂いて曰く、「夫れ人の父たる者は、必ず能く其の子に詔(つ)ぐ。人の兄たる者は、必ず能く其の弟を教う。若し父は其の子に詔ぐ能わず、兄は其の弟を教うる能わずんば、則ち父子兄弟の親を貴ぶこと無からん。今、先生は世の才士なり。弟は盗跖と為り、天下の害を為す。而も教うる能わざるなり。丘は竊(ひそ)かに先生の為に之を羞(は)ず。丘請う、先生の為に往きて之を説かん」と。柳下季曰く、「先生は『人の父たる者は必ず能く其の子に詔ぎ、人の兄たる者は必ず能く其の弟を教う』と言う。若し子は父の詔ぎを聴かず、弟は兄の教えを受けずんば、今、先生の辯有りと雖も、将に之を奈何(いかん)せんとするか。且つ跖の人と為りや、心は涌泉の如く、意は飄風の如し。強は以て敵を距(ふせ)ぐに足り、辯は以て非を飾るに足る。其の心に順えば則ち喜び、其の心に逆らえば則ち怒る。人を辱むるに言を以てするを易しとす。先生必ず往くこと無かれ」と。
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