荘子 / 譲王
舜以天下讓其友北人無擇,北人無擇曰:「異哉!后之為人也,居於甽畝之中,而遊堯之門。不若是而已,又欲以其辱行漫我。吾羞見之。」因自投清泠之淵。
新字:舜以天下譲其友北人無択,北人無択曰:「異哉!后之為人也,居於甽畝之中,而遊堯之門。不若是而已,又欲以其辱行漫我。吾羞見之。」因自投清泠之淵。
書き下し
舜天下を以て其の友北人無択(ほくじんむたく)に譲る。北人無択曰く、「異なるかな。后(きみ)の人と為りや、甽畝(けんぽ)の中に居りて、堯の門に遊ぶ。是の若くにして已(や)まざるのみならず、又た其の辱行(じょくこう)を以て我を漫(けが)さんと欲す。吾は之を見るを羞(は)ず」と。因りて自ら清泠(せいれい)の淵に投ず。
現代語訳
舜が天下を、友人の北人無択に譲ろうとした。北人無択は言った。「不思議なことだ。あなたという人は、田畑の畝の中に暮らしていたのに、堯の門に出入りするようになった。それだけでも十分なのに、さらにその汚らわしい行いで、私まで汚そうというのか。私はあなたに会うことすら恥ずかしい」。そして自ら清泠の淵に身を投げた。
解説
天下を譲られて、身を投げてしまう。この激しさが際立つ一段です。北人無択にとって、舜が権力の座に就いたこと自体が「汚らわしい行い」でした。しかもその汚れを、自分にまで及ぼそうとしている。会うことすら恥ずかしい、と。この潔癖さは、常軌を逸しているようにも見えます。しかし、それほどまでに権力を穢れと見る感覚が、確かに存在したのです。譲る側の善意が、受ける側には侮辱になる。この断絶の深さが描かれています。