荘子 / 譲王
越人三世弒其君,王子搜患之,逃乎丹穴。而越國無君,求王子搜不得,從之丹穴。王子搜不肯出,越人薰之以艾,乘以王輿。王子搜援綏登車,仰天而呼曰:「君乎君乎!獨不可以舍我乎!」王子搜非惡為君也,惡為君之患也。若王子搜者,可謂不以國傷生矣,此固越人之所欲得為君也。
新字:越人三世弒其君,王子捜患之,逃乎丹穴。而越国無君,求王子捜不得,従之丹穴。王子捜不肯出,越人薫之以艾,乗以王輿。王子捜援綏登車,仰天而呼曰:「君乎君乎!独不可以舎我乎!」王子捜非悪為君也,悪為君之患也。若王子捜者,可謂不以国傷生矣,此固越人之所欲得為君也。
書き下し
越人三世其の君を弑(しい)す。王子捜(おうしそう)之を患え、丹穴(たんけつ)に逃る。而して越国に君無し。王子捜を求むるも得ず。之を丹穴に従う。王子捜肯(あ)えて出でず。越人之を薫(くん)ずるに艾(がい)を以てし、乗するに王輿(おうよ)を以てす。王子捜綏(すい)を援(と)りて車に登り、天を仰ぎて呼びて曰く、「君か君か。独り以て我を舎(ゆる)すべからざるか」と。王子捜は君と為るを悪(にく)むに非ざるなり。君と為るの患いを悪むなり。王子捜の若き者は、国を以て生を傷わずと謂うべし。此れ固より越人の君と為ることを得んと欲する所以なり。
現代語訳
越の人々は、三代にわたって君主を殺した。王子の捜はそれを恐れて、丹穴の洞窟に逃げ込んだ。越の国に君主がいなくなった。人々は王子捜を探したが見つからず、丹穴まで追いかけてきた。王子捜は出ようとしない。越の人々はよもぎを燻して彼を追い出し、王の車に乗せた。王子捜は車の綱を掴んで乗り込み、天を仰いで叫んだ。「君主か、君主か。私だけは、勘弁してくれないのか」。王子捜は、君主になることを嫌がったのではない。君主になることの災いを嫌がったのだ。王子捜のような人こそ、国のために生を損なわない人と言うべきだ。だからこそ越の人々は、彼を君主にしたがったのである。
解説
君主の座から逃げ回り、洞窟から燻し出されて、泣きながら王座に就く。この場面が哀れで、しかも深い一段です。「私だけは、勘弁してくれないのか」。この叫びが痛切です。彼は権力が嫌なのではなく、権力に伴う災いが嫌なのです。そして最後の一句が決定的。だからこそ人々は、彼を君主にしたがった。欲しがらない人にこそ、任せたくなる。欲しがる人に任せれば、必ず私物化されるからです。