荘子 / 譲王
舜以天下讓善卷,善卷曰:「余立於宇宙之中,冬日衣皮毛,夏日衣葛絺;春耕種,形足以勞動;秋收斂,身足以休息;日出而作,日入而息,逍遙於天地之間而心意自得。吾何以天下為哉?悲夫!子之不知余也!」遂不受。於是去而入深山,莫知其處。
新字:舜以天下譲善巻,善巻曰:「余立於宇宙之中,冬日衣皮毛,夏日衣葛絺;春耕種,形足以労動;秋収斂,身足以休息;日出而作,日入而息,逍遥於天地之間而心意自得。吾何以天下為哉?悲夫!子之不知余也!」遂不受。於是去而入深山,莫知其処。
書き下し
舜天下を以て善巻(ぜんけん)に譲る。善巻曰く、「余は宇宙の中に立ち、冬日は皮毛を衣(き)、夏日は葛絺(かっち)を衣る。春は耕種し、形は以て労動するに足る。秋は収斂し、身は以て休息するに足る。日出でて作(はたら)き、日入りて息(いこ)う。天地の間に逍遥して心意自得す。吾何ぞ天下を以て為さんや。悲しいかな、子の余を知らざるや」と。遂に受けず。是に於いて去りて深山に入り、其の処を知る莫し。
現代語訳
舜が天下を善巻に譲ろうとした。善巻は言った。「私は宇宙の中に立ち、冬は毛皮を着て、夏は葛の薄物を着る。春には耕して種を蒔き、体は働くのに十分だ。秋には収穫し、身は休むのに十分だ。日が出れば働き、日が沈めば休む。天地の間を自在に遊び、心は満ち足りている。私が天下など、どうしようというのか。悲しいことだ、あなたが私を分かっていないとは」。そして受けなかった。そのまま去って深い山に入り、行方を知る者はいなかった。
解説
「悲しいことだ、あなたが私を分かっていないとは」。この一言が胸を打つ一段です。善巻は、天下を断ったことより、天下を差し出されたこと自体を悲しんでいます。自分が天下を喜ぶような人間だと思われたことが、悲しいのです。日が出れば働き、日が沈めば休む。それで満ち足りている。その充足を理解してもらえなかった。良かれと思って差し出したものが、相手を傷つけることがある。この痛みが、静かに描かれています。
この章句が説くこと
日出而作日入而息悲夫子之不知余也満ち足りた人善意が傷つける
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