荘子 / 譲王
堯以天下讓許由,許由不受。又讓於子州支父,子州支父曰:「以為我天子,猶之可也。雖然,我適有幽憂之病,方且治之,未暇治天下也。」夫天下至重也,而不以害其生,又況他物乎!唯無以天下為者,可以託天下也。
新字:堯以天下譲許由,許由不受。又譲於子州支父,子州支父曰:「以為我天子,猶之可也。雖然,我適有幽憂之病,方且治之,未暇治天下也。」夫天下至重也,而不以害其生,又況他物乎!唯無以天下為者,可以託天下也。
書き下し
堯天下を以て許由に譲る。許由受けず。又た子州支父(ししゅうしほ)に譲る。子州支父曰く、「以て我を天子と為すは、猶お之れ可なり。然りと雖も、我適(たまた)ま幽憂の病有り。方(まさ)に且つ之を治めんとす。未だ天下を治むるに暇あらざるなり」と。夫れ天下は至重なり。而も以て其の生を害せず。又た況んや他物をや。唯だ天下を以て為(な)す無き者のみ、以て天下を託すべし。
現代語訳
堯が天下を許由に譲ろうとしたが、許由は受けなかった。次に子州支父に譲ろうとした。子州支父は言った。「私を天子にすることは、まあ、できなくもないでしょう。しかし私は今、ふさぎの病にかかっていて、それを治そうとしているところです。天下を治めている暇はありません」。天下は最も重いものである。それでも彼は、それによって自分の生を損なわなかった。まして、他のつまらぬ物であればなおさらだ。ただ、天下を大したものと思わない者にこそ、天下を託すことができるのだ。
解説
譲王篇の冒頭で、天子の位を断る理由が「持病を治すのに忙しいから」というのが痛快な一段です。天下より、自分の体調のほうが大事だ、と。ここには、価値の逆転があります。世界で最も重いとされる天下より、一人の人間の生のほうが重い。そして結論が鮮やかです。「天下を大したものと思わない者にこそ、天下を託せる」。天下を欲しがる人に渡せば、必ずそれを利用します。欲しがらない人だけが、正しく扱えるのです。