荘子 / 徐無鬼
濡需者,豕蝨是也。擇疏鬣,自以為廣宮大囿,奎蹄曲隈,乳閒股腳,自以為安室利處,不知屠者之一旦鼓臂、布草、操煙火,而己與豕俱焦也。此以域進,此以域退,此其所謂濡需者也。
新字:濡需者,豕蝨是也。択疏鬣,自以為広宮大囿,奎蹄曲隈,乳閒股脚,自以為安室利処,不知屠者之一旦鼓臂、布草、操煙火,而己与豕倶焦也。此以域進,此以域退,此其所謂濡需者也。
書き下し
濡需なる者は、豕蝨(しじつ)是れなり。疎鬣(そりょう)を択び、自ら以て広宮大囿(こうきゅうたいゆう)と為す。奎蹄(けいてい)曲隈(きょくわい)、乳間(にゅうかん)股脚(こきゃく)を、自ら以て安室利処と為す。屠者の一旦臂(うで)を鼓し、草を布き、煙火を操りて、己と豕(ぶた)と倶に焦がるるを知らず。此れ域を以て進み、此れ域を以て退く。此れ其の所謂濡需なる者なり。
現代語訳
『濡需』とは、豚に寄生するシラミのことだ。毛の疎らなところを選んで、そこを広大な宮殿や庭園だと思い込む。豚の股や蹄の曲がったところ、乳の間や脚の付け根を、安全で快適な住まいだと思い込む。ところが、いつか屠殺人が腕まくりをして、藁を敷き、火を焚けば、自分も豚もろとも焼かれてしまうことを知らない。この者は、その領域の中でだけ進み、その領域の中でだけ退く。これが『濡需』というものだ。
解説
豚のシラミが、股ぐらを「快適な住まい」だと思い込んでいる。この比喩の残酷さが際立つ一段です。彼にとって、そこは広大な宮殿です。しかし豚が屠られれば、もろとも焼かれます。自分が乗っている土台そのものが失われる可能性を、彼は考えていません。組織の中で快適な場所を見つけ、そこに安住する。しかしその組織そのものが消えれば、快適さも消えます。土台の外を見ないこと。それが濡需の型です。
この章句が説くこと
濡需豕蝨土台ごと失われる快適な場所への安住
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