荘子 / 徐無鬼
知士無思慮之變則不樂,辯士無談說之序則不樂,察士無淩誶之事則不樂,皆囿於物者也。招世之士興朝,中民之士榮官,筋力之士矜難,勇敢之士奮患,兵革之士樂戰,枯槁之士宿名,法律之士廣治,禮教之士敬容,仁義之士貴際。農夫無草萊之事則不比,商賈無市井之事則不比。庶人有旦暮之業則勸,百工有器械之巧則壯。錢財不積則貪者憂,權勢不尤則夸者悲。勢物之徒樂變,遭時有所用,不能無為也。此皆順比於歲,不物於易者也,馳其形性,潛之萬物,終身不反,悲夫!
新字:知士無思慮之変則不楽,辯士無談説之序則不楽,察士無淩誶之事則不楽,皆囿於物者也。招世之士興朝,中民之士栄官,筋力之士矜難,勇敢之士奮患,兵革之士楽戦,枯槁之士宿名,法律之士広治,礼教之士敬容,仁義之士貴際。農夫無草萊之事則不比,商賈無市井之事則不比。庶人有旦暮之業則勧,百工有器械之巧則壮。銭財不積則貪者憂,権勢不尤則夸者悲。勢物之徒楽変,遭時有所用,不能無為也。此皆順比於歲,不物於易者也,馳其形性,潜之万物,終身不反,悲夫!
書き下し
知士は思慮の変無ければ則ち楽しまず。辯士は談説の序無ければ則ち楽しまず。察士は淩誶(りょうすい)の事無ければ則ち楽しまず。皆な物に囿(かこ)わるる者なり。世を招くの士は朝に興り、民に中(あた)るの士は官に栄え、筋力の士は難を矜(ほこ)り、勇敢の士は患いに奮い、兵革の士は戦を楽しみ、枯槁の士は名に宿り、法律の士は治を広め、礼教の士は容を敬い、仁義の士は際(まじわり)を貴ぶ。農夫は草萊(そうらい)の事無ければ則ち比(したし)まず。商賈(しょうこ)は市井の事無ければ則ち比まず。庶人は旦暮の業有れば則ち勧(つと)む。百工は器械の巧有れば則ち壮んなり。銭財積まざれば則ち貪る者憂う。権勢尤(すぐ)れざれば則ち夸(ほこ)る者悲しむ。勢物の徒は変を楽しむ。時に遭いて用うる所有り、無為なる能わざるなり。此れ皆な歳に順比して、易に物とせざる者なり。其の形性を馳せ、之を万物に潜め、身を終うるまで反らず。悲しいかな。
現代語訳
知恵者は、考えを巡らせる変化がなければ楽しめない。弁論家は、議論の筋道がなければ楽しめない。詮索好きは、人を責め立てる事件がなければ楽しめない。みな、物に囲われている者たちだ。世を渡る士は朝廷で立身し、民に人気のある士は官職で栄え、力自慢の士は困難を誇り、勇敢な士は危難に奮い立ち、軍人は戦を楽しみ、隠者は名声に安住し、法律家は統治を広げ、礼儀の教師は作法を重んじ、仁義の士は交際を貴ぶ。農夫は草取りがなければ落ち着かない。商人は市場の商いがなければ落ち着かない。庶民は日々の仕事があれば励む。職人は道具の工夫があれば張り切る。金が貯まらなければ、欲深い者は憂える。権力が抜きん出なければ、誇る者は悲しむ。権勢を求める者は、変動を楽しむ。時勢に遭えば力を発揮し、何もしないでいることができない。これらはみな、年月に流されて、変化に対して自分を保てない者たちだ。その心身を走らせ、万物の中に沈み込み、生涯にわたって元に戻らない。悲しいことだ。