荘子 / 徐無鬼
徐無鬼見武侯,武侯曰:「先生居山林,食芧栗,厭蔥韭,以賓寡人,久矣夫!今老邪?其欲干酒肉之味邪?其寡人亦有社稷之福邪?」徐無鬼曰:「無鬼生於貧賤,未嘗敢飲食君之酒肉,將來勞君也。」君曰:「何哉?奚勞寡人?」曰:「勞君之神與形。」武侯曰:「何謂邪?」徐無鬼曰:「天地之養也一,登高不可以為長,居下不可以為短。君獨為萬乘之主,以苦一國之民,以養耳目鼻口,夫神者不自許也。夫神者,好和而惡姦。夫姦,病也,故勞之。唯君所病之,何也?」
新字:徐無鬼見武侯,武侯曰:「先生居山林,食芧栗,厭蔥韭,以賓寡人,久矣夫!今老邪?其欲干酒肉之味邪?其寡人亦有社稷之福邪?」徐無鬼曰:「無鬼生於貧賤,未嘗敢飲食君之酒肉,将来労君也。」君曰:「何哉?奚労寡人?」曰:「労君之神与形。」武侯曰:「何謂邪?」徐無鬼曰:「天地之養也一,登高不可以為長,居下不可以為短。君独為万乗之主,以苦一国之民,以養耳目鼻口,夫神者不自許也。夫神者,好和而悪姦。夫姦,病也,故労之。唯君所病之,何也?」
書き下し
徐無鬼武侯に見ゆ。武侯曰く、「先生は山林に居り、芧栗(じょりつ)を食らい、蔥韭(そうきゅう)に厭(あ)き、以て寡人を賓(しりぞ)くること、久しきかな。今老いたるか。其れ酒肉の味を干(もと)めんと欲するか。其れ寡人にも亦た社稷の福有るか」と。徐無鬼曰く、「無鬼は貧賤に生まる。未だ嘗て敢えて君の酒肉を飲食せず。将に来たりて君を労わらんとす」と。君曰く、「何ぞや。奚(なん)ぞ寡人を労わる」と。曰く、「君の神と形とを労わる」と。武侯曰く、「何の謂いぞや」と。徐無鬼曰く、「天地の養うや一なり。高きに登るも以て長しと為すべからず。下に居るも以て短しと為すべからず。君独り万乗の主と為り、以て一国の民を苦しめ、以て耳目鼻口を養う。夫れ神なる者は自ら許さざるなり。夫れ神なる者は、和を好みて姦を悪む。夫れ姦は、病なり。故に之を労わる。唯だ君の之を病む所、何ぞや」と。
現代語訳
徐無鬼が武侯に会った。武侯は言った。「先生は山林に住み、どんぐりや栗を食べ、葱や韮に飽きて、私を遠ざけること久しい。もう年をとられたか。それとも酒や肉の味が欲しくなられたか。それとも私にも、国家の幸運が巡ってきたのか」。徐無鬼は言った。「私は貧しい生まれです。あなたの酒や肉をいただこうなどとは思いません。ただ、あなたをねぎらいに来たのです」。武侯は「なぜだ。なぜ私をねぎらうのか」と言った。「あなたの精神と体をねぎらうのです」。「どういうことか」。徐無鬼は言った。「天地が万物を養うのは、等しくです。高いところに登っても、それで背が高くなるわけではありません。低いところにいても、背が低くなるわけではありません。あなただけが万乗の国の主となり、一国の民を苦しめて、自分の耳や目や鼻や口を養っている。しかし精神は、それを許しません。精神は調和を好み、乱れを憎みます。乱れとは、病です。だからねぎらうのです。ところであなたは、いったい何を病んでおられるのですか」と。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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荘子・徐無鬼徐無鬼(じょむき)女商(じょしょう)に因りて魏の武侯に見(まみ)ゆ。武侯之を労(ねぎら)いて曰く、「先生病めり。山林の労に苦しむ。故に乃ち肯(あ)えて寡人に見ゆるか」と。徐無鬼曰く、「我は則ち君を労わらん。君は何ぞ我を労わること有らんや。君将に耆欲(しよく)を盈(み)たし、好悪を長ぜんとせば、則ち性命の情病まん。君将に耆欲を黜(しりぞ)け、好悪を掔(す)てんとせば、則ち耳目病まん。我は将に君を労わらんとす。君は何ぞ我を労わること有らんや」と。武侯超然として対えず。
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荘子・徐無鬼武侯曰く、「先生に見えんと欲すること久し。吾は民を愛して義を為し兵を偃(ふ)せんと欲す。可ならんか」と。徐無鬼曰く、「不可なり。民を愛するは、民を害するの始めなり。義を為し兵を偃するは、兵を造るの本なり。君此より之を為さば、則ち殆(ほとん)ど成らざらん。凡そ美を成すは、悪しき器なり。君は仁義を為すと雖も、幾(ほとん)ど且つ偽ならんかな。形は固より形を造り、成は固より伐(ほこ)る有り、変は固より外に戦う。君も亦た必ず鶴列(かくれつ)を麗譙(れいしょう)の間に盛んにする無かれ。徒驥(とき)を錙壇(しだん)の宮に無かれ。逆を得に蔵する無かれ。巧を以て人に勝つ無かれ。謀を以て人に勝つ無かれ。戦を以て人に勝つ無かれ。夫れ人の士民を殺し、人の土地を兼ねて、以て吾が私と吾が神とを養う者は、其の戦は孰(いず)れか善きかを知らず。勝ちは悪(いず)くにか在らんや。君若し已(や)むこと勿くんば、胸中の誠を修めて、以て天地の情に応じて攖(みだ)す勿かれ。夫れ民は死已に脱せん。君将に悪くんぞ夫の兵を偃するを用いんや」と。
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荘子・徐無鬼徐無鬼出づ。女商曰く、「先生は独り何を以て吾が君を説(よろこ)ばせしか。吾が吾が君を説ばする所以の者は、横(よこざま)に之を説けば則ち《詩》《書》《礼》《楽》を以てし、従(たて)に之を説けば則ち金板・六弢(りくとう)を以てす。事を奉じて大いに功有る者は数を為すべからず。而も吾が君は未だ嘗て歯を啓(ひら)かず。今先生は何を以て吾が君を説き、吾が君をして説ぶこと此(かく)の若くならしめしか」と。徐無鬼曰く、「吾は直(た)だ之に吾が狗馬を相するを告げしのみ」と。女商曰く、「是の若きか」と。曰く、「子は夫の越の流人を聞かずや。国を去りて数日、其の知れる所を見て喜ぶ。国を去りて旬月、其の嘗て国中に見し所の者を見て喜ぶ。期年に及ぶや、人に似たる者を見て喜ぶ。亦た人を去ること滋(いよい)よ久しければ、人を思うこと滋よ深からずや。夫れ虚空に逃るる者は、藜(れい)・藋(ちょう)鼪(せい)・鼬(ゆう)の逕(みち)に柱(ふさ)がり、踉位(ろうい)して其れ空し。人の足音の跫然(きょうぜん)たるを聞きて喜ぶ。而るを況んや兄弟親戚の其の側に謦欬(けいがい)する者をや。久しいかな、真人の言を以て吾が君の側に謦欬すること莫きこと」と。
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荘子・徐無鬼少(しばら)くして、徐無鬼曰く、「嘗みに君に語らん。吾が狗を相(そう)するや。下の質は、飽くを執りて止む。是れ狸の徳なり。中の質は、日を視るが若し。上の質は、其の一を亡(うしな)えるが若し。吾が狗を相するは、又た吾が馬を相するに若かざるなり。吾が馬を相するや、直なる者は縄に中(あた)り、曲なる者は鉤に中り、方なる者は矩に中り、円なる者は規に中る。是れ国馬なり。而も未だ天下の馬に若かざるなり。天下の馬は成材有り。卹(じゅつ)たるが若く失えるが若く、其の一を喪えるが若し。是の若き者は、超軼(ちょういつ)して塵を絶ち、其の所を知らず」と。武侯大いに悦びて笑う。
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荘子・徐無鬼子綦曰く、「歅(いん)、汝何ぞ以て之を識(し)るに足らん。而(すなわ)ち梱の祥なるや、酒肉に尽きて、鼻口に入るのみ。而(なんじ)何ぞ以て其の自(よ)りて来たる所を知るに足らん。吾未だ嘗て牧を為さずして牂(そう)奥に生ず。未だ嘗て田(かり)を好まずして鶉(うずら)宎(よう)に生ず。若し怪しむ勿くんば、何ぞや。吾が吾が子と与に遊ぶ所の者は、天地に遊ぶ。吾は之と楽を天に邀(もと)め、吾は之と食を地に邀む。吾は之と事を為さず、之と謀を為さず、之と怪を為さず。吾は之と天地の誠に乗じて物を以て之と相攖(あいみだ)さず。吾は之と一に委蛇(いい)して之と事の宜しき所を為さず。今や然も世俗の償有り。凡そ怪徴(かいちょう)有る者は、必ず怪行有り。殆(あや)ういかな。我と吾が子との罪に非ず。幾(ほとん)ど天の之を与うるならん。吾是を以て泣くなり」と。
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荘子・徐無鬼南伯子綦(なんぱくしき)几に隠りて坐し、天を仰ぎて嘘(きょ)す。顔成子入り見て曰く、「夫子は、物の尤(ゆう)なる者なり。形は固より槁骸(こうがい)の若くならしむべく、心は固より死灰の若くならしむべきか」と。曰く、「吾嘗て山穴の中に居れり。是の時に当たるや、田禾(でんか)一たび我を覩(み)て、斉国の衆三たび之を賀す。我必ず之に先んじ、彼故に之を知る。我必ず之を売り、彼故に之を鬻(ひさ)ぐ。若し我にして之を有せずんば、彼悪くんぞ得て之を知らん。若し我にして之を売らずんば、彼悪くんぞ得て之を鬻がん。嗟乎(ああ)、我は人の自ら喪う者を悲しむ。吾又た夫の人を悲しむ者を悲しむ。吾又た夫の人を悲しむの悲しみを悲しむ。其の後にして日に遠ざかれり」と。
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